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三章
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しおりを挟む「は???」
リオンはその男を見上げて口をぽかんと開けた。
さっきから話についていけてないのに、更によくわからない存在が目の前に現れてリオンは若干パニックになっていた。
そんなリオンをよそに元魔導士団長はその男と話を続ける。
「創造神、ディミオルゴ様。……歪んだ世界の歪を治す鍵をいただきにまいりました」
「……魔の子とはいえ、ただの人の子が、随分と大きく出たものだな」
元魔導士団長は冷や汗をかきながらも口元に笑みを浮かべる。
「御身の過ちはご自身で正すべきかと」
その言葉を告げた瞬間、二人の近くに稲妻が落ちた。
動じない元魔導士団長を見てディミオルゴはつまらなそうに口元を歪ませた。
「なんだ、怖がりもせぬのか」
「……もうすぐ死ぬ身ですので、今ここでこれしきの事を怖がって何になりましょう」
顔色一つ変えない元魔導士団長に、ディミオルゴは少し興味を持ったようで、胡坐を組みなおし、話を聞く体制を取ったようだった。
「そこまでの覚悟があるのなら、少しは話をきいてやろう、世界の歪を治す、と言ったな。そのために我に何を欲す?」
「ーーあなた様が選ばれた英雄の、リオンの本来の記憶をいただけたらと」
その言葉を聞いて、ディミオルゴはまじまじと元魔導士団長を見た。意外なものを欲しがったな、とでも言いたそうだ。
「おい、ちょっとま」
「リオン、少し静かに」
「っ……」
元魔導士団長がリオンを押しとどめているのを観察していたディミオルゴは、ややあって、尋ねた。
「なあ、魔の子。そんな事をせずとも、我に歪を正してくれ、や、英雄を呼ぶ前に戻して、英雄抜きで世界を救ってくれと言えばよいのではないのか?ーー強欲な人の子はそう言ってくると思っていたのだが?」
そういう神に、元魔導士団長は困ったような顔をして、どこか遠くを見た。
「……確かに、それをしていただけるのでしたら、それに越したことはありません。全てが始まる前に戻って、私たちの力だけでこの世界を助ける事ができるのなら、それはリオンに、英雄にとっても僕らこの世界の人々にとっても一番幸せなことでしょう」
そこで元魔導士団長は一度言葉を切った。リオンと、神を交互に見て、そうしてまた言葉を紡いだ。
「ですが、創造神、ディミオルゴ様。そのような事はしていただけない事も出来ない事も分かっているのです」
その言葉を聞いて、ディミオルゴはニタアと笑った。その笑い方は、どこか悪魔のようで、今の今まで現実味がなかったリオンはようやく目の前にいるのが神、人知を超えた存在だと認識した。
神と悪魔は表裏一体とは真実かもと思わせる雰囲気を漂わせたディミオルゴは高らかに笑った。
「くく、そうか、そうか、そうか!!我も賢い人の子は好きぞ、例えそれが魔に呪われし子だとしてもな」
その言葉に元魔導士団長はすっと頭を下げる。それを見ながら、神は未だ楽しそうにくつくつと笑っていた。
「それで、真理の一欠けらを掴んだ子は、なぜあやつの記憶を求める?」
元魔導士団長はすっと視線を上げて、不敬ともとれるほど真っすぐにディミオルゴ神を見た。
「そうでなければ、彼は彼自身を取り戻せません。人は、魂と記憶で成っていおります。英雄が英雄であるために、彼が彼であるために、思い出さなければいけないのです。そうでないと、この先に自身の行動の意味が分からず、自分を疑う時が来るでしょう。それでは、今から立ち向かうものに負けてしまいます」
「ふむ、結局は人任せ、という事か?アストラよ」
「……そうですね、もっと僕に時間があれば他の方法も探れたのでしょうが、僕の時間はほんのわずかだ。それに、歪んだものを正すのは当人でなければ」
「当人ね、アストラ、おぬしはもしやあ奴も出てくると踏んでいるのか?この状況で?」
「はい、僕はそう思っています。望むと望まざるにかかわらず、一度目の世界が終わった原因が彼の方にあったように、この世でも対峙するでしょう」
その言葉を聞いて、ディミオルゴは少し寂しそうな顔をした。
「もし、お主のいう事が正しいのなら、それは少し寂しいことだな。……最初は手を貸す気があまりなかったが、仕方あるまい。少しは我にも責任がありそうだからな」
「ありがとうございます」
目の前で会話を聞いていても何が何やら分からず目をくるくるさせているリオンに元魔導士団長はそっと近寄った。
ディミオルゴも空から降りてきて、その横に並ぶ。
「な、なんだ!?」
戸惑うリオンの頬を元魔導士団長はそっと包んだ。そのまま真っすぐ目を合わせる。
そんな元魔導士団長にディミオルゴはそっと聞いた。
「良いのだな?」
「はい」
その硬質な声に、リオンははっとして元魔導士団長を見る。
「アス「リオン、僕の事は一生許さなくていい。君をこの世界に巻き込み、こうしてまた託そうとしている僕を」」
そう言うと、元魔導士団長はリオンの額に自身の額を合わせた。
カッっと白い光と黒い文様が額と額の間に浮かぶ。
「……英雄、記憶を返すぞ。……魔の子、アストラ。この世界は条理に反してなくなるのならそれも定めかと思っておったが、ささげられた対価が少し余った。もしそなたの予想の方が当たったなら、賭け分と対価分は加勢してやろう」
白い光越しに見たディミオルゴの顔は人には浮かべられない冷酷さと愉悦が混じった顔をしていた。
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