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三章
ー閑話14ー side commander of the magic division
しおりを挟むこの世に生を受けた瞬間、僕は、いや、僕の家族は僕のせいでどん底まで突き落とされた。
僕の生家は神職の家系。
侯爵位だが、過去に王族の血も入っており、血としては薄いが言い張れば傍系の王族と言えない事もなかった。
神職同士で政略結婚を繰り返してきた家系でもあり、神力を持つ人がほとんどの家でもあった。
その中で、真逆の力である魔の力、魔力をそれも膨大な量の力を有する僕は異端児であり、神職の家系としては歓迎できない存在だった。
そもそも、神職の家系でいままでにほとんど神力をもたない人は生まれたことがあるが、魔導士になれるほどの魔力を有する人が生まれた例はなく、当初は母が不貞をしてできた子かと疑われた。
ただ、それは血統確認の魔道具により否定されたが。
それでも、一度不貞を疑われた母は心のわだかまりを残したし、父もそんな母と上手く向き合う事はできなかった。
今になって思えば、父は母を疑ったというより、周囲の声を黙らせる必要があったからそういうポーズをとっていたのだろうと思うが、あの狸の事だからそのことは誰にも悟られないようにしていたのだろう。
母にも何も言わなかった理由は母の事より家名を取った事に対する後ろめたさとかだとは思うが正確には分からない。
ただ一つ言えるのは、もともと政略結婚であまりうまくいっていなかった二人の仲に決定的な溝ができたという事だけだ。
そのいらだちは元凶である僕に向かい、他の兄弟たちも巻き込み僕は魔の子として虐げられた。
まあ、虐げられたと言っても放置されただけだが。そこは金持ちの家に生まれた事に感謝している。
そうして成人直前ごろには僕は他の追随を許さないほどの魔力を有した魔導士として大成していた。
最初から分かっていたことだが、魔の力が強い僕は神職にはつけない。また、神力があるものにとって毒になるという迷信もあったため家を出るついでに他家の養子に出されることとなった。
本当ならば、その家の娘と結婚でもすれば安泰だったのだろうが、あまりにも強い魔の力は僕の身体的な成長を遅らせた。
成人しているにも関わらず、僕の体には精通は訪れなかったし、女性に欲情することもなかった。
こうなってくると僕を養子に取った家としても僕の扱いを持て余すことになる。もともと婿にと思っていた将来有望、というより優秀な魔導士を産むための種馬がその役目を果たせないのだから。
僕を養子にするために莫大な金額が動いている、その金額のもとを取ろうとその家もそこから必死になった。
精通していないが成人しているという所を利用して僕をそういう趣味の人たちに貸し出したり、各地の魔物討伐に傭兵として貸し出したり、やりたい放題だった。
母や兄弟に疎まれていた後ろ盾のない僕には抵抗する術はなかった。正確には、産まれてからずっと幸せを感じたことのなかった僕は逃げて何をしたいのかも分かっていなかった。だからいつか訪れる死を心待ちにしてされるがまま剥き局に日々を過ごしていた。
転機となったのはある辺境に魔物討伐に貸し出された時だった。
魔物の巣、というかたまり場みたいなものがその町の近くにできており、そこを殲滅する任務だった。
その巣まで徒歩で町から二日かかる場所にあったため、他の雇われ傭兵たちと泊りがけで討伐に向かったのだけど、僕が彼らにそういった奉仕をすることも契約内容にはいってたみたいで、討伐場所に付いた時には僕の体はぼろぼろだった。
そのままろくに休みなしで痛む体を引きずって討伐に挑んだ結果はさんざんで、そもそも数人ではなく一個師団くらいの人数が必要なぐらいの魔物がそのたまり場にいて、結果任務は失敗、ほとんどの傭兵は死ぬか敗走した。
まあ、良くある話かもしれないけど、僕はおとりとしておいて行かれた。
当時の僕は魔力は膨大だけど、ろくに魔法を習っていなかったせいでセンスと本の知識だけで魔法を使っていたから大量の魔物をたった一人で殲滅するのは厳しかった。
腕とか脚とか、いろんなところを魔物に喰いつかれて、食いちぎられて、ああ、僕はここで死ぬのか……と思ったら急に苦しくなった。
次に沸いてきたのは強い怒りだった。
そもそも僕は何も悪いことはしていないのに、虐げられ、こうして死んでいく、そのことが憎くて、悔しくて、気がつけば魔力が暴走していた。
体の内側が焼けるように熱い。
「ああああああああ!!」
のたうち回る僕に遠くから砂埃が近づいてきた。
「大丈夫か!?」
若い男性の声。差し出された手はひんやりと冷たかった。
そこで僕の意識は一度途切れている。
次に気がついた時には、ふわふわのベットの上でなぜか横には顔をしかめた血縁上の父がいた。
とはいってもその時は夢うつつで、次に目が覚めた時にはもういなかったから夢かもしれない。
魔物から受けた傷が癒えてようやくベットの上でおき上がれるようになってから状況を尋ねたらその時にはすべてが終わっていた。
あの時、僕は魔力を暴走させた。その暴走でおきた爆発であの場の魔物は死ぬか逃げるかしてたまり場は壊滅したらしい。
ただ、自分でも制御できない魔力は自身の体を蝕み、生死の境をさまようことになった。目が覚めるまでの実に一か月半の間はずっと神職による浄化を受けていたらしい。
僕を色々なところに貸し出していた家はこの間に潰れて、国からその名前が消えていた。
あのたまり場の魔物たちは隣の領にも被害をもたらしていた。
最期に手を差し出してくれた人はこの国の魔導士団長で、僕が貸し出された辺境の領と隣り合わせの領から依頼を受けて魔物討伐にきていたそうだ。
そうして間一髪で僕を助けると、魔物討伐の必要がなくなったので王都にとんぼ返りして僕の事を助けてくれた。
僕が養子に出されたのは廃れた魔導士の家系の伯爵家だったのだが、僕の貸し出しは侯爵家には内密に行っていたらしく、そのことを知った父が激怒して伯爵家をつぶしたといういきさつだった。
その話をきいたとき、今更だとは思った。そもそも、侯爵家が僕の事を少しでも気にかけていれば僕がどう扱われていたかはすぐに分かったはずだ。
それに、神職の系譜で魔導士に縁がないとはいっても、魔の子と呼ばれる子供が産まれたのは王国全体では初めてではないので、魔の子の特性も調べればわかったはずだった。
まあ、父はきっと伯爵家が侯爵家をないがしろにした事に対して報復したのだろうと納得することにした。
暫くして、父が僕に会いに来た。
父は僕にこれからどうしたいか聞いた。
最初と比べれば僕の行ける道は格段と広くなった。ーーただ、そこに侯爵家に戻る道だけは残されていなかったが。
そうして僕は、とある血の途絶えそうな伯爵家に養子に入り、父の推薦で宮廷魔導士団の門戸を叩いたのだった。
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