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二章
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しおりを挟む少女side
巡礼の旅とはこうも過酷なのか、ともう何度目になるか分からない思考を巡らせた。
ずきずきと指が痛む。
片方ならまだいい。けれど、両方だとどうしようもなかった。
両方の小指と薬指が黒ずんでいる。潰れて壊死した時のような色だ。
痛みを我慢して動かそうとするがやはり動かない。
少女はこの間の神殿での出来事を思い出していた。
今度の町は二つの町がつながっている双子のような町で、その中央に神殿が聳え立っている。
その昔、仲の悪い兄弟がこの町をおさめる権利をめぐって当主争いをおこない、その影響は町中にも広がって町中で人々が対立したため、両方がかわいかった親バカの領主が町を二分し、それぞれその兄弟におさめさせたそうだ。
その際、神殿に助言を請い、その話を面白く思った双子神が町を二分する手伝いをしてくれたという伝承から、その神様たちがまつられている。
片方に兄神、片方に妹神。
兄神は武の神な事から、片一方は騎士や冒険者の町として栄えている。
一方、妹神は知の神、それも薬の神様だ。そのため、薬師の学校や、薬の研究所などが多くあり、薬草の産地として栄えていた。
そんな正反対の双子神だが、一つだけ共通点が語り継がれていた。
曰く、片一方が手にしたものは、もう片一方も手にしないと気が済まない性質を持ち、それゆえにこの町は栄えてきたのだと。
確かに不自然なくらい別れた町はどちらを見ても同じくらい栄えていた。
神殿を境に全然違う風景を見せるにもかかわらず、だ。
片一方が武により功績を立てれば、その数か月後にはもう片方で、同じくらい功績になる新薬の発表が行われる、と言った具合だった。
少女はそんな双子神がまつられている神殿を訪れた。
案内された祭壇は、背中合わせに祭られている本殿とは違い、双子神が向かい合わせに祭られていた。
少女はその中央にいつものごとく跪き、言葉を紡ぐ。
やがて、その場には男神と女神が同時に現れて、少女を興味深そうに見下ろすのだった。
「そなたが巡礼者か」
短髪のいかにも武人と言った風情の神様が楽しそうに告げる。
少女が頷くと、反対方向から女神が話しかけてきた。
「巡礼者とは久しぶりね。あなたの願いは……あら、その貧相な身に似合わぬ大望だこと」
気高い、というよりは高飛車な口調で女神が告げると、男神は少しばかり下品にがはは、と笑う。
「大望!!いいではないか!!その小さき身でそのような願いを抱くとは。覚悟もあるようだし、俺は気に入ったぞ。ふむ、普段なら、その願いにあったものをいただくんだが、少しばかり手加減してやろう」
大雑把な武人気質の男神は、笑いながら少女を上から下まで眺めた。女神が眉を顰める。
「兄者らしいわね、身の程知らずが好きとはね」
兄者と呼ばれた男神は女神の少しばかり軽蔑したような言葉を無視して、少女の細く美しい形の指に目を止めた。
「ふむ、少しばかり細すぎて、欲しい物がなかなか見当たらなかったが、それは良いな。よし、では俺はそなたのその指をいただこう。なに、全て貰ってしまっては不便だろうから、端二本でかまわぬよ」「
軽くそう告げると、少女の返事を待たず、何やらつぶやき、言の葉をふうっとふいて少女の指に呪文を投げた。
瞬く間に少女の片手の薬指と小指は黒く染まり、動かなくなった。
目を見開いて驚いている少女を見ながら、女神もふむ、と思案する。
「……そうね、私も兄者と同じで良いかもね。見目もさして良くはないし、骨ばってるし、欲しいところを上げるほうが大変だと思っていたけど、兄者にしては目の付け所が良いわね。その指は捧げものに値するわ」
そう言いながら、女神はもう片方の指を見やる。反対側では兄者が女神に文句を言っていたが全て黙殺していた。
「私は傍若無人な兄者とは違う。巡礼者よ、そなたの大望の対価として、その指をいただこう。返答はいかに?」
少女は静かに答えた。
「この身は巡礼と自身の願いに奉げております。どうぞお受け取りください」
少女の一切の迷いのない返答に、女神は満足そうに頷いた。
「そうか、その迷いのないところは私も好ましいと思うぞ、身の程知らずの少女よ。では、いただこう」
少女のもう片方の手の薬指と小指にも先ほどと同じく、何かがまとわりつき、黒ずんでいった。
「久方ぶりに巡礼の旅を成し遂げるものが出ることを俺は期待している。励めよ」
そう言って消えて行った男神を女神はあきれたように眺めて、すこし意地悪ないたずらっぽい表情をした。
「相変わらずよの、兄者は。まあ、私もそうなれば面白いとは思うが、その前にこの町を生きて出られると良いな……」
忠告だ、とばかりに少し邪悪な表情で消えて行った女神を見て、少女は身震いした。
神殿を一歩出た時、少女はその場に倒れ伏した。
慌てて近くにいた人が助け起こそうとしたが、少女の手を見て顔色をさっと変える。
やがて、少女には近づくなとばかりに人々は少女から距離を取り、監視するように少女を見ていた。
少女はいきなり襲ってきた激痛と戦いながら顔を上げる。
両の手の指からは絶え間なく痛みの波が押し寄せ、少女を責めさいなんだ。
流石に神殿の前で倒れ続けるわけにはいかない、と少女は町の宿まで歩き始めた。
その少女の体や顔にこつん、こつんと何かが当たる。
腕でかばい、そちらを見ると、顔を真っ青にした町の人たちが小石を懐に抱えて少女に投げつけていた。
「神に背いた呪い人はでていけ!!」
「背信者め!!」
「呪われた冒涜者め!!」
彼らの目線は一様に少女の手にそそがれていた。
慌てて少女は手を隠し、足早にその場を立ち去った。宿に向かったが、そこにも話が広まっていたようで、結局その町に少女の居場所はなかった。
町の外に出る時に、少女は女神の言葉と顔を思い出した。
あれはある意味忠告だったのか……それとも、傲慢な少女への神々からの罰だったのか。
彼らの思惑がどうであれ、少なくとも今の少女にはどうすることもできないのだった。
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