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二章
ー閑話13ー side commander of the magic division
しおりを挟む夢を見た。
熱に浮かされて、激痛で何日も眠れなくて、ようやく気絶するように眠りについたと思ったら、夢の中は地獄のような悪夢だった。
最初の始まりは英雄との出会いをなぞるような夢で、日常を繰り返すような夢か、と思っていた。
あのまだ英雄がやさぐれる前の、良く笑うころの彼だ。
陽だまりの中で、僕と、騎士団長と、三人でお茶を飲みながらのんびり過ごす。そこに王子とかたまに聖女とか来て、三人でいる所を見て呆れていた。
騎士団長はともかく、英雄と僕には渋い雰囲気は似合わないって。
失礼だなって思っていた。まだ若い英雄はともかく、僕は年齢的には騎士団長よりも上なのにこの言われようだ。
まあ、騎士団長の顔が老けてるから対比もあったのかもしれないけど。
その日常ですら、今の僕にとっては苦い罪の思い出で、後悔しかしてないからもう一度みるのは嬉しい反面苦しかった。
でも、そこからは僕が知らない日々に徐々に変わっていった。
英雄は辺境で王子ともめてから、他の町や村に見向きもせずに魔王討伐に向かったはずだ。そこに僕も合流したからそこから先はよく覚えている。
なのに、その夢の中では英雄はまだ辺境の町や村をまわっていて、他の国へ遠征もしていた。
遠征中、遠征後、僕たちは良くもめた。
正確には、英雄が怒って、まだ比較的仲の良かった僕や騎士団長が英雄をなだめるという日々だった。
ただ、結局英雄がなんで怒ってるのかその時の僕や騎士団長は理解できなくて、その内溝ができて行った。
そして、決定的な出来事が起こった。
ある日の昼日中、魔物討伐後、食事休憩をしている最中に英雄が王子の胸倉を掴んでテントに叩きつけた。
テントだから大した怪我もなかったけど、そうじゃなかったら大けがをしていたはずだ。さすがに周りの人も見過ごせず、王子との間に割って入る。
『英雄殿、どうされたのですか!?何が!!』
『おい!!お前、あいつを、あいつらをどうしたんだ!!』
『お前とは、王子殿下に無礼だ!!いくら英雄殿だからと言って』
『知るかよ、お前らの都合で俺を呼んだんだ。俺が来たいと言ったか?』
『それは……』
『っ、元は平民分際で!!』
騎士の一人が憤慨したように叫ぶ。このところ王子と英雄の口論が続いており、その不敬に不満がたまっていたのだろう。
英雄は叫んだ。その叫びは血を吐くような、魂からの叫びだったように思う。
『っ、お前らは平民だのなんだの言うがな、部外者の俺にとっては貴族だろうが平民だろうが同じなんだよ!!そもそも俺の故郷の国には貴族も階級社会も存在しねえ!!!』
その言葉を聞いて、僕も、たぶん騎士団長も息を飲んだように思う。
決めつけていた、英雄殿は平民の中でもきっと豪商とか有力者の出のような出身なのだと。まさか、階級そのものが存在しないとは思っていなかったのだ。
『そもそも、平民平民言うなら、俺の力をなんで借りるんだよ!!お前らで何とかしろよ!!』
それはその通りだ。階級というものをなくして考えればそうなのだ。ただ、この社会は階級社会で、階級上位の人間に下位の人間は従うのが当たり前だから英雄殿が従うのは当然だと思って、思い込んでいただけだ。
『お前は平民だろうが!!王族や貴族に従うのは当然だろ!!』
さすがに王子はその言葉に黙り込んでいるが、まだ状況を理解していない周囲の騎士たちは口々に英雄を責める。
やがて、英雄の視線は酷く冷たいものになって、そしてーー
『帰る。俺はもう手伝わない』
そう言ってその場を去っていった。
なんとか騎士団長や僕は止めようとしたけど止まらなくて、それで、英雄は全てを置いて去っていった。
追いかけたけど、本気を出した英雄には誰も追いつけなくて結局王都に戻ってようやく追いつけた。
『父上!!』
王子が王宮の謁見の間を開いた時、そこには血の池が広がっていた。
『英雄殿?』
なかなか状況が飲み込めなくて、ふらふらと中に一歩、二歩と進む。
英雄殿は手に持っていた剣を一振りした。
すぐさま王子の首が空に飛んでいく。
王子も魔王討伐メンバーだ。かなり強い。なのに、いとも簡単に殺された。
ころころと首が転がって、その状況に気がついた騎士たちが一斉に襲い掛かったけど、全員が一振りで殺された。
聖女は死んだ王子を必死で何とかしようとしてるけど、もう絶命している命はどうしようもない。
英雄殿は真っ黒な光の無い、何もかも飲み込みそうな瞳で僕を見た。
それで、その目に射すくめられて固まった僕の横を彼は通り過ぎて行った。
唯一一番最初にとびかかった騎士団長だけ、なぜか息があった。僕は彼を必死で生かすために応急処置をする。
酷い血の匂いが鼻について、自分もその中に溺れている気持ちになった。
英雄殿は国中で虐殺を繰り返した。
英雄を利用した貴族を、傍系の王族を、平民を盾に使った領主を。
自身に差し向けられた刺客は全員殺して、場合によっては依頼主に報復して、そして王都に戻ってきた。
彼は片っ端から王宮を壊した。人も殺して、王宮関連の施設は大体が更地になった。
英雄は天災と相成った。
ほんとは分かっていなければいけなかったはずだ。魔王を討伐できるほどの人知を超えた力を借りるのだ。その力を制御できるのはその人物自身。その人物の理性だ。
僕たちは甘えていた。彼が理性的だったから、僕たちの思い通りに動かせると思って、自分たちの常識に当てはめて、そうして理性のタガが外れるほどの目に合わせた。
これはその代償だと分かっていた。
王都にいた人々は他の土地にほとんど逃げ出した。その時期を見計らって、僕と騎士団長は英雄を討伐するために向かった。
かつての友を殺すために。
戦いについては割愛するが、最後は僕と、騎士団長、それと優秀な研究員の魔道具の補助があってようやく相打ちになった。
研究員には悪いことをした。だまして味方させたから、きっといまごろ僕に怒っているだろう。いや、彼の傷もかなり深かったからもう長くないか……。
後悔ばかり浮かんで、死んでいく体の冷たさを感じて、息もできなくなって、そうして飛び起きてこれが夢だったと気がついた。
「なんとかしないと……」
なんとなく、これが一歩間違えれば来ていた未来だと気がついた。
残り少ない命だけれど、今からでも、英雄の、彼の力に全身全霊でなる、とそう決めた。
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