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二章
ー閑話12ー side researcher
しおりを挟む「お前、汚いな」
僕を拾った男はそう言った。
この男も僕を捨てるのだろうか?
そう思いつつも、もう体に力が入らなかった僕は、もういいやと目を閉じた。
次に目を覚ましたのはどこか小奇麗な寝台の上で、夢かなと思って自分の頬を抓ってみて痛かったことを覚えている。
生まれてこのかた、ふわふわの布団の上でおきた事は無かったので死ぬ前に神様がご褒美でもくれたのかなって生まれて初めてお祈りもした。
暫くして、大人の男の人が来て、ここが王都の孤児院、それも随分と待遇が良い孤児院だって教えてくれた。
後から知ったことだけど、ここは孤児は孤児でも、貴族の落胤とか、特殊な事情で家にいられない血筋のよい子供とかが入ってる孤児院で、本来なら僕みたいな生まれの人は入れない場所だったみたいだ。
ただ、僕を助けてくれた人が特殊な立場で、その人の顔を立てるためにここに連れてきてくれたみたい。
幸い、僕には特別な才能があったみたいで、助けてくれた人の役に立つことができた。
そのおかげで孤児院からも学院からも追い出されることなく、貴族の養子になり生活することができるようになった。
立場上色々な妬みやしがらみがあったけど、研究所に逃げ込むことで何とかなった。
いつか僕を拾った失礼な人に文句と最大の感謝を伝えたいと思って研究所にこもっていたんだけど、その機会はなかなか訪れなかった。
ふっと目が覚めて、いつも通り研究所で魔道具を開発してたら、知らないはずの手順がいきなり思い浮かんできた。
不思議に思ったけど、好奇心に負けてその手順通り作ったら、今の自分が、何年かは試行錯誤しないとできないくらいのものが出来上がって、その出来に怖くなった。
それから、たまにそういう事が続くようになって、ある夜、夢を見たんだ。
荒廃した王都、空には雷雲が浮かんで、研究所は更地になってた。
僕の目の前にはあれだけ会いたいと願っていた人が立っていた。
僕は血だらけで、腰を抜かしてへたりこんでて、……情けないね、僕。それで、目の前には槍にくし刺しにされた誰か、と地に倒れ伏す誰かがいた。
会いたいって願っていたあの人も、相打ちになったのか立ったまま絶命してて、そばには多分僕が開発したであろう魔道具が転がってた。
僕は、あれだけ、この人に『ありがとう』って伝えたかったのに、伝えたかったのに、なんで?
夢の僕は、泣きながら死んでいって、ああ、誰も幸せになれなかったって後悔した。
目が覚めて、普通なら夢の内容なんてすぐに忘れるはずなのに、なんでか忘れられなかった。
忘れられないから仕方なく、その胸糞悪い夢の内容を考えていたら、ちょっと気になることがあって、そのことについて周りに聞いて回った。
『僕は誰に拾われたの?』
そう皆に尋ねたけど、皆『偉い人だったような』とか『有名人?』とかいう答えで、誰も答えられなかった。
なんで?
珍しく貴族的な権力も使って、僕の孤児院での書類も調べたけど、行方不明になっていた。
おかしいって思った時に、魔王討伐して帰還した、あの人に出会った。
凱旋パレードのあの人は出会った時よりも随分と雰囲気が変わっていたけど、遠目で見ただけで全部思い出した。
それと同時にいろいろと不可解な事が出てきて、一個一個調べていたら、研究所の奥に隠された場所を見つけた。
そこに真実への手がかりが残っていた。
そうして、僕はあの人に力になるって決めた。
どうか、お願いです、神様。
夢の内容とは違い、どうかあの人に幸せを。どうか……。
そうして、僕は話しかけた。
「そんな事してもむだですよ」
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