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二章
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しおりを挟む暗闇のトンネルを抜けると、埃っぽい匂いが鼻についた。
「うっ、ごほっ、ごほっ!!どこだここ?」
「……これは……」
元魔導士団長はきょろきょろと辺りを見渡した。
「どこか分かんのか?」
「多分ね。なんであの子がここを知ってるのかは分からないけど」
「あの子って言わないでください。僕はもう成人済みです」
リツカが振り向いて文句を言う。元魔導士団長はそれに肩をすくめてはいはい、と答えた。
「……まあ、あなたに言っても無意味ですね。人の話を聞きませんし」
辛辣な口調で言うリツカに、リオンは苦笑した。
「それで、ここはどこなんだ?」
唯一この場所が何なのか分かっていないリオンが二人に尋ねると、リツカは壁の方に寄っていき、先ほどと同じく良くわからない魔法を唱え、壁から本を取り出した。
「???」
土の壁から本が飛び出てくるさまにリオンが驚いていると、元魔導士団長が「やっぱりね」とつぶやく。
「どういうことだよ」
「いや、ここは古代の魔法書庫だよ。僕もその存在を文献で読んだだけでほんとにあるとは思っていなかったけどね」
「これが?ただの洞窟だぞ?」
「この壁は全て古代魔法の隠蔽と幻影がかけられているから、はたからはそうとしか見えないけど、実際はこの壁前面にぎっしりと文献が詰まってる。取り出すためにも古代魔法が必要みたいだね」
「……古代魔法?」
「ああ。リオンが使えるのは現代魔法。その昔、神様と今よりも交流があったとされた時代の魔法を古代魔法と言って、今と言語体系そのものから違うんだ。遺跡とか、各国王家とかにその文献が細々と存在するだけ、のはずの魔法なんだけどね、こんな場所が実際にあるとはね」
感慨深そうに言う元魔導士団長もとい魔法オタクの言葉に、リオンは眉をひそめた。
「……なんで、そんなに希少な場所をそいつが知ってるんだ?」
そう言ってリツカを指さす。当の本人はこちらの会話が聞こえていないかのように、文献を取り出しては何事かを調べている。
「……さあ、昔から秘密の多い子だったしね。……ただ、少し思い当たる節はあるかな。それが当たっているなら僕の今回の目的と同じ目的で動いているんだと思うよ」
含みを持たせた言い方に、リオンはげんなりするが、こうなると元魔導士団長には何を言ってもはぐらかされるのが分かっていたので、リツカの方を見る。
リオンの視線を感じたのか、リツカは一度リオンに視線を投げてから、文献の解読に戻った。
「おい」
「ちょっと待ってて」
「おい!!」
「もうちょい」
「おい!!!」
「……なんですか、英雄様」
いやそうに文献から顔を上げてリオンの方を見るリツカに、リオンも嫌そうな顔で答える。
「なんでここに連れてきた?」
「……察しが悪いですね。あなた方に協力するためですよ」
「なに?」
「まあ、必要なことなので……あ、ありました、これです」
リツカは一冊の文献をリオンと元魔導士団長の元に持ってくる。
なんだかはぐらかされた感じがして、リオンはもやっとしたが、取りあえず彼が持ってきた文献に目を通してみた。
「……よめん」
その文献は現在の魔法言語と全然違う言語で、リオンには一切読めなかった。元魔導士団長は読めているみたいで、ふむふむと頷いている。
その文献を数ページめくると、挿絵があり、それはリオンにも見覚えがあった。
「……これは、巡礼の旅の文献か!!しかも、これは儀式の全容じゃないか!!」
リオンが驚くのも無理はなかった。その挿絵には祭壇の前で跪く巡礼者と天に浮く神が描かれていた。巡礼者は自身の一部を神に奉げている。
「そうですよ。これは巡礼の儀の全容、つまり神殿の秘匿事項です。そしてこの書庫はかつての神殿が管理していた隠された書庫です」
何でもないかのように告げるリツカにリオンは思わず問いただした。
「なんで俺に協力する?お前に何の利益がある?それに、どうしてここを知っていた?」
矢継ぎ早にたずねるリオンにリツカは落ち着いた声で答えた。
「言ったでしょう。必要な事だと。ーーそうですね、ちゃんとお答えするなら、失われた記憶をあなたに思い出していただくため、ですかね」
意味深な言葉にリオンは瞳を瞬いた。
「失われた、記憶、だと?」
「はい。そして、予想が正しければ、あなたのお連れ様も同じ目的だと思いますよ」
リオンが勢いよく元魔導士団長の方を向くと、彼はゆっくりと頷いた。
「……最初に言わなくて悪かった、リオン。リツカの言う通り、僕も君にその記憶を思い出して欲しいと思っている。……それが、君にとっての最善だと信じているからだ」
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