やさぐれ英雄と名もなき孤児の少女

月城 月華

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二章

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十に届きそうな文献を眺め、リオンは眉根をつまんだ。

「全然見つからねぇ」

「そうだね……」

元魔導士団長も目の横を揉みながら次の本を手に取る。

すでに一刻半経過していたが詳しい資料が全然見つからない。どれも漠然とした話ばかりでしかもおとぎ話のようなものばかりだ。

せっかくここまで来たのに、手掛かりなしか、とあきらめかけていた時、ギギギと扉が開く音が響いた。

二人とも思わず固まり、リオンは即座に隠蔽の魔法を重ね掛けしてもらう。

「そんな事してもむだですよ」

男性にしたら高い声が部屋に響き、とと、と小柄な白衣の男性が二人に近づいてきた。

元魔導士団長とは別方面の可愛い顔。リオンの故郷で言うなら、『ショタ枠』『かわいい受け』とか言われそうな見た目だ。

大きな目にピンクゴールドの髪。整った顔立ち。その男はつんとした顔で二人の前に立っていた。

しまった、研究室の前を無事通り過ぎたから油断してた、仕方ない、とリオンは相手を昏倒させようとするが、その前に元魔導士団長がその男に声をかけた。

「ーーおや、リツカじゃないか。どうしたんだい?」

(リツカ?あの?魔王討伐時にメンバーではないが、サポートの道具などを開発し、適宜送ってくれた顔を知らない準メンバーの?)

そろそろと元魔導士団長の方を確認すると、もう完璧に警戒を解いている。元魔導士団長はリオンの方を見て、隠蔽魔法を解いた。

「おい!!」

「いや、むだむだ。この子、魔王討伐当時天才児と呼ばれた開発部員で、現在実力で言えば僕に次いで魔法がこの国で上手いと思うからこの程度の隠蔽はむだだよ」

「……大丈夫なのかよ」

いぶかしむように見るリオンにリツカはやれやれと笑った。

「ーー安心してください、英雄、リオン様。もしお二人の事をどうにかするつもりなら、とっくにしています」

終始冷たい口調だが別にリオンの事を嫌っているわけではないようだ。

「あーーー、リツカ、だっけ。魔王討伐時は助かった」

「……お礼はいいです。魔王が討伐されていなければとっくにこの国が滅んでいたはずなんで、助かったのはこちらの方です」

ひらひらと手を振ってリオンをいなして、リツカは二人のそばを通り過ぎて少し小ぶりの本棚の前に立った。

【ඔබ සත් යය සොයන්නෙකු බව ඔප්පු කරන්න. ඔබේ මස් සහ රුධිරයෙන් මට පෙන්වන්න】 

リツカはよく解らない魔法言語を唱えながら、その本棚の前に立ち、浮かび上がった魔法陣に自身の魔力と血液を一滴落とした。

白く濁った魔力と赤い血は空に浮かんだ魔法陣を駆けめぐり強く光ってから消えた。

「行きますよ」

リツカは何事もなかったかのように二人に告げて、そこにあった本棚の変わりにぽっかり空いた黒い空洞に入っていった。

「じゃ、行こうか」

元魔導士団長も何事もなかったかのようについていく。リオンだけはそれに戸惑っていたが、二人がすたすたと先に行ってしまうので慌てて後を追うのだった。
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