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二章
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しおりを挟むリオンside
リオンは元魔導士団長と二人でこっそり王都に舞い戻ってきていた。
リオンが戻っている事がばれたら、面倒なことになるので、元魔導士団長に隠蔽の魔法をかけてもらって更には夜に活動するという徹底ぶりだ。
二人がそんな危険な思いをしてなんで王都に戻ってきたかと言うと、王都には中央神殿と国立研究所があり、研究所には神学部門が設立されている。
また、リオンの故郷で言う図書館も研究所に併設されているので、というか、研究所と王宮しか文献が集まっている場所がないので、この王都に戻ってきたのだ。
ある夜、リオンは元魔導士団長の手引きの元、国立研究所に潜り込んだ。
「おい、ほんとに大丈夫なのか?」
夜ももう深いのに、まだ煌々と灯りが付いている建物内部を見て、リオンが尋ねる。
「大丈夫、大丈夫。リオンも知っての通り、今の僕は全身が研究材料だ。最悪、君の事がばれても、僕の事を調べさせてあげるって言ったら、大概は内緒にしといてくれるよ」
「……それはそれでどうなんだ。まあ、どの世界でもマッドな人はいるよな」
「マッド?……ああ、研究馬鹿の事か。まあ、彼らは欲望に忠実だよね」
ひそひそと潜めた声で話していると、途中幾人かがこちらに、というより元宮廷魔導士団長に会釈して通り過ぎて行った。
どいつもこいつも真っ青な顔にギラギラした瞳をしている。
「なんだ、どうした?いつもみんなこんな顔なのか?」
「……さあね、さすがにそれはないでしょ。多分、何か調べるように上から命令が下ったんじゃない」
その声はどこか固くて、リオンは更に追求しようとしたが、一文字に引き結ばれた口元を見て、あきらめた。
暫く無言で歩いていると、研究室の奥、少しわかりにくい場所にその部屋はあった。
「ついたよ」
元魔導士団長が扉に手をかけると、ギギギと古びた音がして戸が開いた。
「本が沢山あるんだな……」
本棚に並んだ本を一冊手に取り、開こうとする。
「あれ、これ開かないぞ!?」
鍵もかかっていない本なのに、全然開かない本をくるりくるりと回していると、元魔導士団長はくすくす笑って、貸して、と本を手に取った。
元魔導士団長は、自身の血を一滴懐から出した木片にたらし、何かの魔法陣を小さく書き込む。そして、魔法をそれにかけるとリオンにそれを手渡した。
「ほら、本の鍵だ。これがないとここの本は読めないようになっている」
「まじか、どういう仕組みなんだ……。てか、最初から言えよな」
「くくっ、ごめんごめん。不思議そうにするリオンが面白くて……」
未だに笑っている元魔導士団長を半眼でみて、リオンは一つため息をついた。やれやれと肩をすくめてから目当ての本を探し始めた。
「ってか、こんだけある本から目当ての本を探すのは大変そうだ……」
元魔導士団長は、空に魔法陣を魔力で描き、【ダ ミッヒ クワード ビス (求めるものを与えん)】と唱えた。
くるくると茶色の混じった黄金色の粒子が部屋全体に降り注ぎ、その光に引き寄せられるようにいくつかの本が空に舞い始めた。
それは小さなつむじ風のようにくるくると舞いながら、元宮廷魔導士団長の手の中と周りにゆっくりと落ちて行った。
「っ、きれいだな、こんな魔法、あったんだな……」
珍しくきらきらした目をしたリオンを見て、元魔導士団長は昔を思い出した。
まだ素直で、自分たちにも良く笑いかけてくれていたリオンは剣の練習と、魔法の練習が一等好きであった。色々あって、目が死んで、ほとんど笑い顔など見なくなった今でも魔法は好きなのだ、と少し寂しい気持ちと微笑ましい気持ちで元魔導士団長は苦笑した。
「リオンには最低限の各国の知識と、戦闘に関係ある魔法を叩きこむことを優先したからね。でも、魔法は多岐にわたっていて、こういう魔法も沢山ある。……もし、僕に時間があるなら、リオンに教えるんだけど……」
泣き笑いのような彼の顔を見て、リオンはすっと笑みを消して、顔をしかめた。
「……誰が、お前なんかに、と言いたいがな。まあ、今となっては教えてもうにしても貰わないにしても時間が足りないな。ーーそれが、巡礼についての資料か。随分と古いものがおおいんだな」
「言っただろ。巡礼者はめったに出ない。神託に関係するとなるとなおさらだ」
「……とりあえず、調べてみるぞ」
「うん」
二人は真剣な顔で本に向き合った。
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