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二章
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しおりを挟む少女side
巡礼の旅は自分自身を一つずつ捧げていく作業だった。
次の巡礼の先はずっと遠い町。巡礼が始まった神殿の町を魔物との国境の町とするならば、その町は帝国との境にある町だった。
方角的にも王都を中心に正反対にある町だ。
帝国との交易の中心点になっているその町は様々な人々が行き交っている。
帝国の商人、王国の衛兵たち。国境に派遣された騎士団。肌の色も浅黒いひとも真っ白な人、ごく稀に亜人種の人々も見られた。
「うわー」
前の町も賑やかで栄えていると思ったが、この町は更に栄えている。というか、喧騒で自身の声が聞こえなくなるほどだった。
あちらこちらで、もめ事やそれに似た交渉が起き、衛兵や騎士団などの仲裁も見られた。
リオンに懐に突っ込まれた革袋のおかげで、少々お金がある少女は好奇心に勝てず、露天を見回って見ることにした。
片目の年若い巡礼者は目立つので、フードを目深に被って顔を隠す。
とは言っても、この喧騒、人混み、多用多種な人々の間では小柄な少女は隠れてしまうのであまり隠す意味はなかった。
ふらふらと露天を見回ると、少し路地に入った所にポツンと寂れた露天があることに気がついた。
その寂れように自身の境遇を重ねた少女は、何かに引かれるように、そちらに足を向けた。
露天の店番は年老いたおばあさん一人でうとうとと居眠りをしていた。
不思議な事にこんなにも無防備なのに、何かを盗まれる事も、人が近づいて来ることすらなかった。
少女はきょろきょろと周りを見渡すが通りすがる人々の視線は少女と露天が見えていないかように彼女達をすり抜けていく。
「???」
こてん、と首をかしげながらも、この短い間で超常的な事に立て続けにあった少女はそんなこともあるか、と、とりあえず商品を見物することにした。
所狭しと並べられた商品は、一貫性がなく、何に使うのかわからないものまで多々あった。
いくつかの箱と壺を手にとってしげしげと眺めたが、使い道がわからないので諦めてアクセサリーに目をやった。
くず石を使って作られたであろうアクセサリー類はそれにしては精巧で綺麗なものだった。
「あの、おばあさん?おきていらっしゃいますか?」
値段を尋ねようと声をかけたがこっくりこっくりとうたた寝をしているおばあさんは全く起きない。
「あの……」
諦めようかと思った時、パァンと鼻提灯が割れて、おばあさんの目がうっすら開いた。
おばあさんは手元に伏せてあった板を持つとまた、こっくりこっくりと眠り始めた。
板には『値段は裏に、代金は右の箱に』と書かれていた。
無用心がすぎる、と心配に思ったが、これ以上声をかけてもきっと起きないと思ったので、諦めてアクセサリーの裏側を見る。
高いものから安いものまであったが、少女が目に止めたのは比翼鳥のブローチと連理の枝の髪飾りだった。
「……きれい」
眺めていて、虚しくなる。断ち切ったはずの未練も、愛に昇華したはずの恋心も、未だに自身の中に眠っていると気がついたからだ。
「どうしようもないなぁ」
あんなにも酷いめにあって、酷いめにあわせてしまったのに、未だに自分の中に恋心が燻っていると知って、少女は泣き笑いをこぼした。
あの手の暖かさが、忘れられたらいいのに……
少女は長いこと悩んで、代金を箱に入れてそれらをこそっと自身の懐にいれた。
「これだけは、持っていこう」
自身の懐をきゅっと抱きしめる。
この旅の末には自分自身を捧げる少女は、何も持たないつもりだった。
だけど、これだけは、少女のわがままとして持っていこう。この世界を必死に生きた証しとして。
少し軽くなった革袋にいれたそれらがチャリと鳴ってその明るさに少女は微笑んだ。
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