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二章
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しおりを挟む元宮廷魔導士団長はリオンの手を引くと、早足で神殿の外に出た。
神殿から暫く離れた人気のない空き地で、リオンの手を離すと、一気に崩れ落ちた。
「おい、どうした!?」
あせるリオンに大丈夫だから、と言いながら、何度もせき込む。
口に当てていた布に黒い血がにじむのが見えた。
リオンは声をかけようとするが、そのたびに視線で押しとどめられる。
ひとしきり咳き込むと、少し落ち着いたのか、呼吸を整えて、リオンに向き直った。
「リオン、昔私がした講義、覚えているよね?」
「…………」
リオンはそっぽを向いた。そのリオンに、やけに圧がかかる笑みで詰め寄ると、リオンは冷や汗を流す。
「はーーーー」
元魔導士団長は長い溜息を吐いた。
「いいかい、リオン。前にも言ったが神殿で魔法の行使はご法度だ。一般の人々は魔法も神力も区別できず奇跡の力としているが、実際は魔力は魔の力であり、神の力と対極にあるものだ。それゆえに神は魔力の存在は容認しているが自身のテリトリーで使われることをひどく嫌う」
「っち、知ってるよ。だが、最初に干渉してきたのはむこうのほうだ」
「ふむ、詳しくきかせてもらおうか」
「俺には時間が!!」
「いいからいいから」
元魔法師団長は有無を言わせずにリオンを個室のある茶屋へと誘った。
「では、リオンが探索魔法を使用しようとしたのを神が妨害したと?」
「そうなるな、あの神官がしていない、とするならばだが」
「ーーおそらく、神で間違えないだろう。リオン腐っても英雄「腐ってもとか言うな!!」まあまあ、その魔法を一介の神官が妨害し続けられるとは思えない。単発魔法ならまだしも、継続魔法だからね」
「……そうだな」
「リオン、妨害された心当たりは?」
「一応、あるにはある」
「それは?」
口ごもるリオンに対して元魔導士団長はコテンと首を傾げリオンをまじまじと見つめる。
ややあって、リオンの口が開き、勝手にしゃべり始めた。
「ーー実は、元妻を追いかけててな。彼女は巡礼の旅に出ているんだが、その最初の神殿で『神の干渉にお気を付けを』って言われたんだ」
「なんで追いかけてるの?」
「そりゃ、あいつが俺が唯一助ける事が出来たはずの俺にとってのこの世界での……おい!!これ、自白魔法か!?」
「奥さんの事、どう思ってるの?」
「……鶏ガラみてえなやつで押し付けられて最悪だって思ってたけど、王宮から戻ったらぷくぷくして可愛くなってるし、良く見たら顔だちも悪くない。それに、やっぱ特別な……おい!!やっぱり自白魔法だろ!!やめろ!!」
「あ、もう解除しちゃった。もっと聞きたかったのに」
「……おい、殴ってもいいか?」
「やめてよね、老い先短いんだ、老人はいたわってよね」
少年のような顔で言われても冗談にしか聞こえないのだが、彼はリオンよりもかなり年上だった。
しばらくリオンをからかっていた元魔法師団長は、すっと顔と雰囲気を整えると、真剣な口調で話し始めた。
「もし、巡礼の旅を止めさせようとしているなら、それこそやめた方がいい」
「なぜだ?」
「ーー神は己の所有物に手を出されることを極端に嫌う。前に教えたとおりだ。巡礼とは人の願いを叶えるために自身を供物に奉げる儀式。それが始まった時点で巡礼者は髪の贄、供物となる。……これは巡礼者が願いを叶えるか、死ぬまで変わらない」
「!!ちょっと待て、巡礼は自分を供物に奉げるんだろ?って事は成功しても失敗してもどちらにせよ死ぬんじゃねえか!!」
憤るリオンに、元魔導士団長は静かに告げた。
「そうだ。だから巡礼はほとんど行われず、その詳細も教えられる事はあまりない。稀に高位貴族などがどうしてもかなえたい願いがある時にする事があるが、成功者がいるとは聞いたことがない。神話レベルの話で語られているぐらいだ」
「……じゃあ、なんで平民のあいつが巡礼にでられたんだよ」
「……ここからは推察になるが、歴史的に極めて稀な例で巡礼者が出ることがある。奥さんもその例に当てはまるのかもしれない」
「それは?」
「神による神託、それにより神官が巡礼を許可した場合だよ」
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