67 / 90
第二部罪滅ぼしを願う英雄と巡礼の少女 一章
ー閑話11ーside prince
しおりを挟む
死亡者リスト一覧 ※極秘
大司祭 ××× 結界の儀にて死亡
聖女 ××× 結界の儀にて死亡
宰相 ××× 神の呪いにて死亡
元騎士団長 マルス 魔物討伐時に殉職
元魔導士団長 ××× 神の呪いにて死亡
………
………
各地で起こった魔物の被害者一覧と、自身が即位してから死亡した側近などの重要人物の一覧を眺めていたキュロスは、それをそっと棚に戻した。
現在、魔物の被害は収束しており、取り逃した残党を狩る段階に入っていた。
その平和は大司祭と聖女、そして宰相と元魔導士団長によってもたらされたものだという事をキュロスは痛いほど理解していた。
苦痛に歪む伯父と聖女の顔が今でもときどき頭をよぎる。
キュロスは自身が狂いかけていることを承知していた。しかし、現状で王座に着くことができるのも自身だけだというのも理解していて、それが辛うじて王であるときのキュロスを支えていた。
キュロスの寝室はキュロス自身によって切り裂かれ、布団も無残に散らばって酷いことになっているが、執務室は綺麗なままであることがそれを証明していた。
先日やってきた大司教の言葉を思い出す。
「ーー神は、あなたが国王を続投されることをお望みです」
残酷なことを言う、とキュロスは思った。こんな状態のキュロスにまだ続投を望むのか、と。
その言葉によって、各国からの突き上げは少し減ったが、英雄を逃したこと、続く呪いのような災い。それらの責は全てキュロスにかかってきており、各国からは厳しい圧がかかっていた。
自国の貴族とて、それは同じことだった。ただ、自国の貴族も、魔王討伐メンバーのキュロス以上の王を現状では擁立できない事やこの状態で王座を引き継ぎたくないという思いから他国よりは国内の情勢はましだった。
『英雄どのを擁立するのが間違えだった』と言い出す貴族も増えた。
「は、リオンが居なければこの国は無くなっていたというのに、暢気なものだ」
キュロスは吐き出すように呟いた。
そういう事を言うのは、中央の貴族か王都に近い領地を持つ貴族たちだった。さすがに辺境の者たちはそうは言わない。
そもそも、故人に物言いたくはないが、前国王が中央貴族たちを甘やかしたのが元凶だと憤り、しかし、その時には自分は何もしなかった言わなかったと落ち込んだ。
まあ、前国王は王都からあまり動いたことはなく、数度地方に行った時も、がっちりと騎士団にかこまれており、魔物の危機を感じることは無かった。
なので机上の事でしか魔物を知らない王であったという事もあったのだろう。一国の王として、魔物の対策は取ったが、自身の思いとしては実感がなかったという事だ。
キュロスとて、魔王討伐にでなければあんなにも簡単に魔物によって人が死ぬと知らなかっただろう。
苦笑しながら、キュロスは一人酒を持ち、机に並んでいる七つの杯にそそぐ。
「王国に」
そう言って一人杯を掲げ一気に飲み干した。
苦みと芳醇な香りがのどの奥にひろがる。きっとリオンは杯を一緒には掲げてくれないだろうと、苦笑した。
「私も準備ができたらそちらに行く。いましばらく怒るのはまってくれ」
一人寂しくキュロスは虚空にそう告げる。
今新しい宰相が、キュロスに一番血が近く、それで幼い公爵家の子供を教育している。
自身の心がどこまで持つか分からないが、その子が無事に育つまではキュロスは倒れるわけにはいかないのだ。……たとえ、壊れていたとしても。
今日もキュロスは夜中に幾度となく飛び起きるだろう。
亡くなった伯父や聖女のひつうな声を聴き、苦しむ宰相や元宮廷魔導士団長の姿を見て、元騎士団長に別れを告げられながら。
「リオン、皆、私を許さないでいい、だから、私の元に戻ってきてくれないだろうか……」
かなわぬ願望を胸に、キュロスは今日も浅い眠りにつく。キュロスの心と同じく壊れたこの部屋の中でたった一人で眠るのだ。
大司祭 ××× 結界の儀にて死亡
聖女 ××× 結界の儀にて死亡
宰相 ××× 神の呪いにて死亡
元騎士団長 マルス 魔物討伐時に殉職
元魔導士団長 ××× 神の呪いにて死亡
………
………
各地で起こった魔物の被害者一覧と、自身が即位してから死亡した側近などの重要人物の一覧を眺めていたキュロスは、それをそっと棚に戻した。
現在、魔物の被害は収束しており、取り逃した残党を狩る段階に入っていた。
その平和は大司祭と聖女、そして宰相と元魔導士団長によってもたらされたものだという事をキュロスは痛いほど理解していた。
苦痛に歪む伯父と聖女の顔が今でもときどき頭をよぎる。
キュロスは自身が狂いかけていることを承知していた。しかし、現状で王座に着くことができるのも自身だけだというのも理解していて、それが辛うじて王であるときのキュロスを支えていた。
キュロスの寝室はキュロス自身によって切り裂かれ、布団も無残に散らばって酷いことになっているが、執務室は綺麗なままであることがそれを証明していた。
先日やってきた大司教の言葉を思い出す。
「ーー神は、あなたが国王を続投されることをお望みです」
残酷なことを言う、とキュロスは思った。こんな状態のキュロスにまだ続投を望むのか、と。
その言葉によって、各国からの突き上げは少し減ったが、英雄を逃したこと、続く呪いのような災い。それらの責は全てキュロスにかかってきており、各国からは厳しい圧がかかっていた。
自国の貴族とて、それは同じことだった。ただ、自国の貴族も、魔王討伐メンバーのキュロス以上の王を現状では擁立できない事やこの状態で王座を引き継ぎたくないという思いから他国よりは国内の情勢はましだった。
『英雄どのを擁立するのが間違えだった』と言い出す貴族も増えた。
「は、リオンが居なければこの国は無くなっていたというのに、暢気なものだ」
キュロスは吐き出すように呟いた。
そういう事を言うのは、中央の貴族か王都に近い領地を持つ貴族たちだった。さすがに辺境の者たちはそうは言わない。
そもそも、故人に物言いたくはないが、前国王が中央貴族たちを甘やかしたのが元凶だと憤り、しかし、その時には自分は何もしなかった言わなかったと落ち込んだ。
まあ、前国王は王都からあまり動いたことはなく、数度地方に行った時も、がっちりと騎士団にかこまれており、魔物の危機を感じることは無かった。
なので机上の事でしか魔物を知らない王であったという事もあったのだろう。一国の王として、魔物の対策は取ったが、自身の思いとしては実感がなかったという事だ。
キュロスとて、魔王討伐にでなければあんなにも簡単に魔物によって人が死ぬと知らなかっただろう。
苦笑しながら、キュロスは一人酒を持ち、机に並んでいる七つの杯にそそぐ。
「王国に」
そう言って一人杯を掲げ一気に飲み干した。
苦みと芳醇な香りがのどの奥にひろがる。きっとリオンは杯を一緒には掲げてくれないだろうと、苦笑した。
「私も準備ができたらそちらに行く。いましばらく怒るのはまってくれ」
一人寂しくキュロスは虚空にそう告げる。
今新しい宰相が、キュロスに一番血が近く、それで幼い公爵家の子供を教育している。
自身の心がどこまで持つか分からないが、その子が無事に育つまではキュロスは倒れるわけにはいかないのだ。……たとえ、壊れていたとしても。
今日もキュロスは夜中に幾度となく飛び起きるだろう。
亡くなった伯父や聖女のひつうな声を聴き、苦しむ宰相や元宮廷魔導士団長の姿を見て、元騎士団長に別れを告げられながら。
「リオン、皆、私を許さないでいい、だから、私の元に戻ってきてくれないだろうか……」
かなわぬ願望を胸に、キュロスは今日も浅い眠りにつく。キュロスの心と同じく壊れたこの部屋の中でたった一人で眠るのだ。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる