やさぐれ英雄と名もなき孤児の少女

月城 月華

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第二部罪滅ぼしを願う英雄と巡礼の少女 一章

ー閑話11ーside prince

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死亡者リスト一覧 ※極秘

大司祭 ××× 結界の儀にて死亡

聖女  ××× 結界の儀にて死亡

宰相  ××× 神の呪いにて死亡

元騎士団長 マルス 魔物討伐時に殉職

元魔導士団長 ××× 神の呪いにて死亡

………

………


各地で起こった魔物の被害者一覧と、自身が即位してから死亡した側近などの重要人物の一覧を眺めていたキュロスは、それをそっと棚に戻した。

現在、魔物の被害は収束しており、取り逃した残党を狩る段階に入っていた。

その平和は大司祭と聖女、そして宰相と元魔導士団長によってもたらされたものだという事をキュロスは痛いほど理解していた。

苦痛に歪む伯父と聖女の顔が今でもときどき頭をよぎる。

キュロスは自身が狂いかけていることを承知していた。しかし、現状で王座に着くことができるのも自身だけだというのも理解していて、それが辛うじて王であるときのキュロスを支えていた。

キュロスの寝室はキュロス自身によって切り裂かれ、布団も無残に散らばって酷いことになっているが、執務室は綺麗なままであることがそれを証明していた。

先日やってきた大司教の言葉を思い出す。

「ーー神は、あなたが国王を続投されることをお望みです」

残酷なことを言う、とキュロスは思った。こんな状態のキュロスにまだ続投を望むのか、と。

その言葉によって、各国からの突き上げは少し減ったが、英雄を逃したこと、続く呪いのような災い。それらの責は全てキュロスにかかってきており、各国からは厳しい圧がかかっていた。

自国の貴族とて、それは同じことだった。ただ、自国の貴族も、魔王討伐メンバーのキュロス以上の王を現状では擁立できない事やこの状態で王座を引き継ぎたくないという思いから他国よりは国内の情勢はましだった。

『英雄どのを擁立するのが間違えだった』と言い出す貴族も増えた。

「は、リオンが居なければこの国は無くなっていたというのに、暢気なものだ」

キュロスは吐き出すように呟いた。

そういう事を言うのは、中央の貴族か王都に近い領地を持つ貴族たちだった。さすがに辺境の者たちはそうは言わない。

そもそも、故人に物言いたくはないが、前国王が中央貴族たちを甘やかしたのが元凶だと憤り、しかし、その時には自分は何もしなかった言わなかったと落ち込んだ。

まあ、前国王は王都からあまり動いたことはなく、数度地方に行った時も、がっちりと騎士団にかこまれており、魔物の危機を感じることは無かった。

なので机上の事でしか魔物を知らない王であったという事もあったのだろう。一国の王として、魔物の対策は取ったが、自身の思いとしては実感がなかったという事だ。

キュロスとて、魔王討伐にでなければあんなにも簡単に魔物によって人が死ぬと知らなかっただろう。

苦笑しながら、キュロスは一人酒を持ち、机に並んでいる七つの杯にそそぐ。

「王国に」

そう言って一人杯を掲げ一気に飲み干した。

苦みと芳醇な香りがのどの奥にひろがる。きっとリオンは杯を一緒には掲げてくれないだろうと、苦笑した。

「私も準備ができたらそちらに行く。いましばらく怒るのはまってくれ」

一人寂しくキュロスは虚空にそう告げる。

今新しい宰相が、キュロスに一番血が近く、それで幼い公爵家の子供を教育している。

自身の心がどこまで持つか分からないが、その子が無事に育つまではキュロスは倒れるわけにはいかないのだ。……たとえ、壊れていたとしても。

今日もキュロスは夜中に幾度となく飛び起きるだろう。

亡くなった伯父や聖女のひつうな声を聴き、苦しむ宰相や元宮廷魔導士団長の姿を見て、元騎士団長に別れを告げられながら。

「リオン、皆、私を許さないでいい、だから、私の元に戻ってきてくれないだろうか……」

かなわぬ願望を胸に、キュロスは今日も浅い眠りにつく。キュロスの心と同じく壊れたこの部屋の中でたった一人で眠るのだ。
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