64 / 90
第二部罪滅ぼしを願う英雄と巡礼の少女 一章
10
しおりを挟む「うわ!!思ったよりでかい……」
リオンは魔物のちょうど真下あたりに到着していた。
上空を飛んでいるマンティコアはちょうど誰かを食べているところみたいだった。
マンティコアの捕食方法は魔物討伐に慣れている騎士団でも嫌われている。
人だろうが、獣だろうが、小型の魔物だろうが、獲物を上空に連れ去ってから食べる為、色々と降ってくるのだ。
降ってくるものによっては新兵や新人冒険者が使い物にならなくなることも多く、トラウマ製造機として名高いモンスターでもあった。
大型の魔物の一種なので、辺境でしか出現しないことが救いだと言われていた。
「それが、こんな王都周辺の町、しかも神殿を有する町のど真ん中に出現とか、ふざけてんのか!?」
せっかく少女と話をしようとしていたのに、とリオンは悪態をついた。
どちゃどちゃと空から降ってくるもので、せっかくの上着がぐちゃぐちゃだ。たぶんもう使えない。
「ほんと、最悪」
リオンは剣を抜いた。
「ほんと、久しぶりの戦闘だ」
リオンは建物の上に飛びあがると、魔法を唱えた。
「ヴェントス(風よ)」
鋭い風の刃を飛ばし、マンティコアの翼を傷つける。
グルル
うなり声をあげたマンティコアは食べていた物を下に落としてリオンを見据えた。
オオオオオオオオ!!
咆哮を上げる。リオンの体を硬直させるつもりだろう。
「聞かねーよ」
さっきは距離が離れて油断していたのと、久しぶりの戦闘で勘が鈍っていただけで、本来の実力を持ってしたら、英雄であるリオンにとってはこの咆哮程度、なんてことはない。
リオンは剣を大きく振りかぶり、投げつけた。
グ、ゴガァ
剣はマンティコアの開いた口の中を貫く。
たまらず、地上に降りて行ったマンティコアを追うように、リオンも地上に降りた。
「さすがに、この程度じゃ死なないか」
「そうですね、大型魔獣は魔核を破壊しないと死にませんので」
「ほんと、理不尽な存在だよな……」
ちょうど合流した元騎士団長としゃべりながら、リオンはマンティコアと向き直った。
数年前に戻ったかのような空気に一瞬包まれて、リオンは寂寥の念を感じた。まあ、それどころではなかったが。
「えーと、マンティコアの魔核ってどこだっけ。今貫いたのが、頭部だから……」
「ーー元宮廷魔導士団長に嘆かれますよ、あんなに教えたのに、と。マンティコアの魔核は頭部と尾っぽの二つにあり、同時に破壊することが必要です」
「あー、そうだっけ?まあ、さすがに町中で大型魔獣を粉みじんにする魔法を使う訳にもいかないし、助かった」
「……ええ、リオン殿がものぐさなのは存じておりました」
呆れたように言う元騎士団長にリオンはむうっと口を閉じた。精密な強い攻撃魔法は得意ではないが、英雄というだけあって大雑把な破壊魔法は時間をかければそれなりにできるのだ。
はあーと一度息を吐くと、仕切りなおすかのように前を向いた。
「よし、やるぞ」
「はい、リオン殿」
二人は互いを見て頷きあうと、同時に駆け出した。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる