やさぐれ英雄と名もなき孤児の少女

月城 月華

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第二部罪滅ぼしを願う英雄と巡礼の少女 一章

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「うわ!!思ったよりでかい……」

リオンは魔物のちょうど真下あたりに到着していた。

上空を飛んでいるマンティコアはちょうど誰かを食べているところみたいだった。

マンティコアの捕食方法は魔物討伐に慣れている騎士団でも嫌われている。

人だろうが、獣だろうが、小型の魔物だろうが、獲物を上空に連れ去ってから食べる為、色々と降ってくるのだ。

降ってくるものによっては新兵や新人冒険者が使い物にならなくなることも多く、トラウマ製造機として名高いモンスターでもあった。

大型の魔物の一種なので、辺境でしか出現しないことが救いだと言われていた。

「それが、こんな王都周辺の町、しかも神殿を有する町のど真ん中に出現とか、ふざけてんのか!?」

せっかく少女と話をしようとしていたのに、とリオンは悪態をついた。

どちゃどちゃと空から降ってくるもので、せっかくの上着がぐちゃぐちゃだ。たぶんもう使えない。

「ほんと、最悪」

リオンは剣を抜いた。

「ほんと、久しぶりの戦闘だ」

リオンは建物の上に飛びあがると、魔法を唱えた。

「ヴェントス(風よ)」

鋭い風の刃を飛ばし、マンティコアの翼を傷つける。

グルル

うなり声をあげたマンティコアは食べていた物を下に落としてリオンを見据えた。

オオオオオオオオ!!

咆哮を上げる。リオンの体を硬直させるつもりだろう。

「聞かねーよ」

さっきは距離が離れて油断していたのと、久しぶりの戦闘で勘が鈍っていただけで、本来の実力を持ってしたら、英雄であるリオンにとってはこの咆哮程度、なんてことはない。

リオンは剣を大きく振りかぶり、投げつけた。

グ、ゴガァ

剣はマンティコアの開いた口の中を貫く。

たまらず、地上に降りて行ったマンティコアを追うように、リオンも地上に降りた。

「さすがに、この程度じゃ死なないか」

「そうですね、大型魔獣は魔核を破壊しないと死にませんので」

「ほんと、理不尽な存在だよな……」

ちょうど合流した元騎士団長としゃべりながら、リオンはマンティコアと向き直った。

数年前に戻ったかのような空気に一瞬包まれて、リオンは寂寥の念を感じた。まあ、それどころではなかったが。

「えーと、マンティコアの魔核ってどこだっけ。今貫いたのが、頭部だから……」

「ーー元宮廷魔導士団長に嘆かれますよ、あんなに教えたのに、と。マンティコアの魔核は頭部と尾っぽの二つにあり、同時に破壊することが必要です」

「あー、そうだっけ?まあ、さすがに町中で大型魔獣を粉みじんにする魔法を使う訳にもいかないし、助かった」

「……ええ、リオン殿がものぐさなのは存じておりました」

呆れたように言う元騎士団長にリオンはむうっと口を閉じた。精密な強い攻撃魔法は得意ではないが、英雄というだけあって大雑把な破壊魔法は時間をかければそれなりにできるのだ。

はあーと一度息を吐くと、仕切りなおすかのように前を向いた。

「よし、やるぞ」

「はい、リオン殿」

二人は互いを見て頷きあうと、同時に駆け出した。
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