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第二部罪滅ぼしを願う英雄と巡礼の少女 一章
8-1
しおりを挟む夢を見た。
悪夢のような本当の話、それを夢でまた。
少女は二つ目の神殿に向かっていた。幾日もかけてようやく二つ目の神殿がある町にたどり着いたのだ。
「ついた……あれが、二つ目の神殿……」
おおきな運河のほとりにあるその町は活気づいていて人がひっきりなしに行き交っている。
このあたりの物流の中心であり、王都とも運河を介してやり取りしているこの町の中心には、神殿がそびえ立ち、その中央にはどうやって取り付けたのかわからない精巧な時刻を知らせる魔道具が張り出していた。
精緻なそれは、神々から賜ったとも言われており、この町のシンボルとしても有名な場所だった。
少女も以前王都の孤児院に来ていた商人がその話をしていたのを小耳にはさんだことがあった。
いつもは大げさに言っていることがわかる口調で他の町や村の事を話すその商人がこの町の神殿と流れる運河の情景に関しては本当に興奮して話していたので、少女は叶わぬと知りながらも、一度は見てみたいと思っていたのだ。
少女は神殿の前に立ち、上を見上げた。
きらきらと時刻を知らせる魔道具の装飾が光に反射して輝き、少し離れた運河の中に映る影にも模様を作り出している。
「ーーーーきれい」
暫くの間、少女は言葉を失いその場に立ち尽くしていた。
ゴォーン、ゴォーンと重厚な時刻を知らせる音で少女は我に返った。
どうやら、長いこと見とれていたようだった。もっとも、そうなっていたのは少女だけでなく、この町に初めて来たもののほとんどが足を止めて魅入っていたのだが。
少女はグイっと自身の服のフードを目深にかぶり直し、神殿の中へと向かった。
「……お待ちしておりました。あなたが噂の……先に食事になさってください。そののちにご案内いたします」
少女が神殿を尋ねると、すぐに厳めしい顔つきの神官が出てきた。
ざっと少女の服装を観察し、少女のフードの中の髪に目をやると、少女が巡礼者だと確認できたのか中に招き入れた。
本来なら礼拝が先でその後に食事なのだが、今回は違うようだ。
違和感を感じながらも、少女は尋ねて行った側、おとなしく神官に従い質素だがしっかりとした素材で作られた食事と水をいただいた。
ふう、と少女が一息つくと、その様子を見ていた神官は立ち上がり、少女を特別な祭壇に案内した。
道すがらに神官は前をむいて一人話をした。その間、少女の方を振り返ってみる事は決してなく、移動中に少女に返答をさせることもなかった。
「ーー我が神殿が祀っている神はオクリース様、知識、見識などをつかさどられている神様です。学者様が信仰することが多い神様でもあります。……多くの人々はオクリース様は穏やかで優しい、人々に役立つ知識を与えてくださる神様だと思っております。それもまた、間違いではございません。ですが、オクリース様の司るものはただの知識ではないのです。見聞、見聞きしたものを知識として吸収し、新たな知識として伝えるのが本分です。ーーかの神様は非常に好奇心が旺盛で無邪気、ゆえに残酷な一面も持つ神様であらせられます。ーーああ、着きましたこの部屋です」
戸惑う少女に、神官は道を開け、扉の横に立つ。
「ーーここでやめられるも一興、神が辞めさせてくださるかは分かりませんが、今なら代償もそれほどではないでしょう。ですが、ご覚悟がおありでしたら、どうぞお進みください」
きゅっと唇を引き結ぶと、少女は意を決して祭壇の部屋に入っていった。
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