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第二部罪滅ぼしを願う英雄と巡礼の少女 一章
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しおりを挟むリオンside
「リオン様……」
ふわっと笑う笑う少女を見て、リオンはぐしゃっと顔をしかめた。
意識を失ったその体をぎゅっと抱きしめて、自身の上着でぐるぐる巻きにして急いで宿を探す。
せっかく王宮での生活で多少ふくふくしていた躰は元の骨ばったやせぎすに戻りつつあった。
少女から流れ出る血は、未だ止まらず、リオンの上着を染め続けている。
リオンは歓楽街に近い、宿が集まる通りから少し外れにある宿屋をえらび、そこの主人に多めのお金を渡すと、大きめの部屋を一つ借りた。
そこのベットに自身の上着を敷き、その上に少女をそっとねかす。
「こんな状況で、あんな綺麗に笑うなよ……」
リオンはそう言いながら、そっと少女の顔を撫でた。
布にしみ込ませた傷薬と血止めをそっと少女の傷口に当てる。
「くそっ、神の印か。神学系統は魔法学と違って、詳しくないんだが……」
少女の傷は印により、なかなかふさがらない。仕方なしに、リオンは自身の魔力を使って、神力を弱めることにした。
自分の血を一滴、媒介にして傷口付近に塗り、魔力を流し込む。暫く印がひかり、抵抗していたものの、効力が弱まったのか、傷薬と血止めが効き傷口がふさがり始めた。
「っ、これしんどいな……」
思いっきり魔力をもっていかれて、リオンは頭がくらくらした。それでも、このまま傷口がふさがらないと少女の体力がやばいので、必死に魔力を行使する。
数時間かけて少女の傷口はふさがったが、印のせいか、綺麗にはふさがらず、いびつな跡を残した。
ほんと悪趣味なことをする、とリオンはようやく傷がふさがった少女の顔を覗き込む。
痛みがなくなったからか、荒かった息は安らかなものに変わっていたが、若干顔が赤い。この症状をリオンは戦場で見たことがあった。
「熱が出たか……ほんと、手間がかかる」
大きな傷ができた時に熱を出す人がいるが、少女はそれのようだった。
リオンは悪態を幾度が付きながらも、夜通し少女を看病し続けた。
パチッと開いた目をリオンは覗き込み、じっと見つめる。
「起きたか」
まだ熱が下がり切っていないので若干ぼんやりしているようだが、焦点があってリオンの顔を認識したのか、その瞳がまんまると輝いた。……片目だけ、だが。
「無茶をしたな。下手すると死んでたぞ」
「……リオン、様、ですか?」
おそるおそる尋ねる少女に、リオンは額の布を変えてやりながらも、憮然として答えた。
「それ以外に何に見える。ーーあった時にも名前を呼んだだろ?」
夢だと思ったのが現実だったと気づいた少女は真っ青になり目を見開き、起き上がろうとした。
「へ?なんで……、ご、ご迷惑を!!すぐ、っい!!」
激痛が走ったのか、顔を手で覆って固まる少女に、リオンは慌てて寄り添った。
「ばか、寝てろ!!おまえ片目を失ったばかりなの、忘れてないだろうな!?」
その言葉に少女は思い出した。ーーーー二つ目の神殿で神様が所望したものは彼女の目だったことを。
……どうりでいつもより視界が狭いはずだ、と少女は苦笑する。正直、痛みで儀式後の事は良く覚えていないのだ。
少女は寝転がると、リオンを見て、顎を下げるだけの小さな礼をした。
「申し訳ありません。……もう他人ですのに、ここまでしていただいて。ありがとうございます」
その少女の言葉に、リオンは何かに刺されたかのような苦しそうな顔をしたのだった。
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