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第二部罪滅ぼしを願う英雄と巡礼の少女 一章
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「それではお気を付けて」
「ご丁寧にありがとうございました」
朝方早く、まだ日も登らぬ時間に少女は簡素な朝餉を神殿でいただき、次の目的地を聞いてから神殿を後にしていた。
神殿の外に出ると、少女の肌を風が撫でていった。朝の時間はやはり肌寒い。
その寒さが、この間のリオンのぬくもりを思い出させて、一人赤面した少女はぶんぶんと首を振った。
決めたはずだ、この呪われた命は、自分の呪いに巻き込んでしまった子供たちの為に使うと。
少女は短い髪を隠すようにフードを目深にかぶり、朝露にぬれた道を歩き出した。
今度の神殿は少し遠かった。王都を経由するのが最短の経路なのだが、それは避けたいので王都をぐるりと四半周するような経路を取ることにしていた。
少女は大小いくつかの町や村の小神殿などで寝泊まりさせてもらいながら、時には集落の端の風が極力来ない場所で野宿しながら旅をした。
白い巡礼服はそのたびに汚れていき、時折川で洗っても完璧には落ちない為、人に遠巻きにされることも増えて行ったが、もともと遠巻きにされていた少女は気にしなかった。
王都の近くの村や町を通り過ぎるうちに気がついたのは、王都に近いほど魔物が出てこず、人々も不思議なくらい魔物に対しての耐性も知識もないという事だった。
その町から徒歩で一週間~二週間の距離にあった村は魔物の被害で半壊したことがあったにも関わらずその脅威すら感じたことのない人々に、少女はどこかぞっとするものを感じた。
そんな村や町の人々にも、最近ちょっとした噂が流れていた。
噂の内容は王都付近にも飛行系の魔物がほんのたまに襲来するようになり被害がぽつぽつと出ているという内容だった。
あるときは商家が襲われて甚大な被害が出た、とか、子供が攫われたとか。それらは噂程度の話にしか過ぎなかったが、今までは確実にないことだった為、人々は面白半分、恐怖半分で不安定な日々を過ごしているようだった。
魔物の事を実際知っている少女からすれば魔物たちがもたらす被害の中でもこういっては何だが、軽度なものばかりだったのだが、王都に近い町や村の人々からすればそうではないようだ。
ある村を通りかかった時に。おしゃべり好きのおばちゃんに少女は話しかけられた。
「巡礼服の人、お嬢ちゃんかな?これ一本どおだい?」
「……すみません、あまり手持ちがないもので」
「ふむ、そうかい……じゃあ、魔物について教えて頂戴、代金はそれでいいわ。見たところ、遠いところからきたんだろ?」
きっとおしゃべりしたかっただけであろうそのおばちゃんは、少女の姿に憐憫を覚えたのか、そう言ってきた。
「魔物、ですか。そこまで詳しいか分かりませんが……。学校とか手習い先で一通りは教わったのではないのですか?」
「そんなもう何年も前の事、わすれたよ。……いや、私だってこの国が危機だったって事は知ってるよ?だけどさ、ここに長いこと住んでるけど一度も魔物を見たことなんかないし、ほんとに危ないとか思わないじゃないか」
「では、なぜいま?」
おばちゃんは声を潜めて少女に言った。
「……いやさあ、ここだけの話、近くの町に住んでる私の親戚の家が小型の魔物に襲われてさ。すぐに衛兵が駆けつけてくれたみたいなんだけど、逃がしちまったみたいで……それでちょっと怖くなってね」
「そうですか……」
要するに、身近に危険が起きて初めて危機感を感じたという事なのだろう。
これでは英雄様達も報われないな、と少女は溜息を吐きたい気持ちを押し殺し、おばちゃんが渡してきた食べ物と引き換えに、辺境では子供でも知っている小型魔物の対処法を教えた。
いたく感謝されて追加で食料を貰ったが、その事になんとなく悲しい気持ちになった。
英雄たちは……リオン様はきっと王都に戻ってからこんな虚しい思いを抱えていたのかもしれない、と。
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