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第二部罪滅ぼしを願う英雄と巡礼の少女 一章
巡礼の少女と罪贖う英雄1
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少女side
少女は生まれて初めて、自らの意思で旅をしていた。
孤児院から孤児院に移動するときとは違う、追手から逃げていた時とも違う、この国、いや各国をめぐる巡礼の旅に。
子供を弔った町の神殿の神官様は、一番近い町にある一つ目の巡礼地を教えてくれた。その巡礼地の町の神殿が祀っている神様はブレアシス神。学業などの合格などを祈願すると良いと言われている神様だった。
少女は神殿でもらった巡礼者用のぼろの着物を身にまとい、ひたすらに歩く。
途中小川により、水を飲むも、立ち止まらずに歩き詰めた。
日が暮れる前に小さな町が見えてきた。先ほどまで滞在していた町の半分以下の大きさの町だが、にぎわっているようだった。
何とか日暮れ前に町に滑り込む。
巡礼服の少女を見て、初老の衛兵の一人がぎょっとした顔をしていたが、少女は何食わぬ顔で通り過ぎた。
きっと、過酷な巡礼の旅の事を聞きかじったことがあるのだろう。少女の方を気の毒そうに眺め続けている。
少女はほうっと息を吐いた。
ここには少女が呪い子だと知るものがいない、それだけで幾分か体が軽くなったようだ。
やがて、夕やみが町を覆い始め、蝋燭の灯りと、ぽつぽつと富豪などの家に魔道具の灯りがともり始める。
その灯りに導かれるように、少女は町の中心部に位置する神殿へと向かった。
「お嬢ちゃん、巡礼中のお嬢ちゃん、一本いかがかい?」
神殿へ向かう大通りの屋台から、売れ残った串焼きを売り切ろうと、少女に声がかかった。
恰幅と気のよさそうなおばちゃんが美味しそうな串焼きを手にもって少女を呼び止めている。
少女は「手持ちがあまりないので……」と断ろうとしたが、隣の屋台で飲んでいた若いあんちゃんが機嫌よさそうに少女に串焼きをおごってくれた。
断ろうとするが、「何、俺の合格祝いに付き合ってくれよ」と押し切られてしまい、少女は恐々としながら串焼きを受け取った。
そのあんちゃんが言うには、この時期にはこの神殿にお祈りした学生たちが、合格したことを報告しにこの町に集まるんだそうだ。あんちゃんも学院に合格した一人だった。
「ブレアシス神様の御利益はすごいんだ!!俺たちは感謝しなくちゃな」
「……そうですね。串焼き、美味しかったです、ごちそうさまです。それと、合格おめでとうございます」
「おうよ!!可愛い嬢ちゃんにお祝いされるのは嬉しいもんだな!!」
少女は可愛い?と今まで言われた事の無い言葉に首を傾げたが、あんちゃんと屋台のおばちゃんに一礼すると、また神殿に向かって歩き始めた。
その後ろで、屋台のおばちゃんは「あんな若い子が、巡礼の旅、ねえ」と気の毒そうにつぶやき、それを何も知らないあんちゃんは不思議そうに聞いていたのだった。
少女は生まれて初めて、自らの意思で旅をしていた。
孤児院から孤児院に移動するときとは違う、追手から逃げていた時とも違う、この国、いや各国をめぐる巡礼の旅に。
子供を弔った町の神殿の神官様は、一番近い町にある一つ目の巡礼地を教えてくれた。その巡礼地の町の神殿が祀っている神様はブレアシス神。学業などの合格などを祈願すると良いと言われている神様だった。
少女は神殿でもらった巡礼者用のぼろの着物を身にまとい、ひたすらに歩く。
途中小川により、水を飲むも、立ち止まらずに歩き詰めた。
日が暮れる前に小さな町が見えてきた。先ほどまで滞在していた町の半分以下の大きさの町だが、にぎわっているようだった。
何とか日暮れ前に町に滑り込む。
巡礼服の少女を見て、初老の衛兵の一人がぎょっとした顔をしていたが、少女は何食わぬ顔で通り過ぎた。
きっと、過酷な巡礼の旅の事を聞きかじったことがあるのだろう。少女の方を気の毒そうに眺め続けている。
少女はほうっと息を吐いた。
ここには少女が呪い子だと知るものがいない、それだけで幾分か体が軽くなったようだ。
やがて、夕やみが町を覆い始め、蝋燭の灯りと、ぽつぽつと富豪などの家に魔道具の灯りがともり始める。
その灯りに導かれるように、少女は町の中心部に位置する神殿へと向かった。
「お嬢ちゃん、巡礼中のお嬢ちゃん、一本いかがかい?」
神殿へ向かう大通りの屋台から、売れ残った串焼きを売り切ろうと、少女に声がかかった。
恰幅と気のよさそうなおばちゃんが美味しそうな串焼きを手にもって少女を呼び止めている。
少女は「手持ちがあまりないので……」と断ろうとしたが、隣の屋台で飲んでいた若いあんちゃんが機嫌よさそうに少女に串焼きをおごってくれた。
断ろうとするが、「何、俺の合格祝いに付き合ってくれよ」と押し切られてしまい、少女は恐々としながら串焼きを受け取った。
そのあんちゃんが言うには、この時期にはこの神殿にお祈りした学生たちが、合格したことを報告しにこの町に集まるんだそうだ。あんちゃんも学院に合格した一人だった。
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「……そうですね。串焼き、美味しかったです、ごちそうさまです。それと、合格おめでとうございます」
「おうよ!!可愛い嬢ちゃんにお祝いされるのは嬉しいもんだな!!」
少女は可愛い?と今まで言われた事の無い言葉に首を傾げたが、あんちゃんと屋台のおばちゃんに一礼すると、また神殿に向かって歩き始めた。
その後ろで、屋台のおばちゃんは「あんな若い子が、巡礼の旅、ねえ」と気の毒そうにつぶやき、それを何も知らないあんちゃんは不思議そうに聞いていたのだった。
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