やさぐれ英雄と名もなき孤児の少女

月城 月華

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間章 王都では

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胸糞です 嫌いな方はブラバ推奨






キュロスの絶叫を聞きながら、元魔法師団長はもう一度淡々と返事した。

「ですから、国を守る結界の儀式です」

その様子に更に怒りをあおられ、キュロスは歯ぎしりをする。そして二人を睨みつけた。

「それは、分かっている!!なぜ私に今日行うと知らされていなかった!!それに、これは、聖女の、伯父上のこの様は、なんだ!?これは贄の儀ではないだろう?こんな、こんな切り刻んで、悲痛の表情のまま閉じ込める必要が、どこにある!?」

キュロスが指さした先には切り刻まれた伯父の躰の頭の部分が横たわり、命なき瞳でこちらをだらりと見つめている。魔法陣の内側には氷に閉じ込められた両手を失った聖女が苦悶と悲痛の表情で祀られていた。

怒りで我を失うキュロスに、元魔法師団長は感情をこめず、再度淡々と告げる。

「今日行うことを口止めなさったのは、ほかでもないあなた様の伯父様、大司祭様と、元ご婚約者様の聖女様です。こうなる途中の過程を大切なあなた様だけには見られたくないとおっしゃられました。……我々としても、その気持ちは痛いほどわかったのでお知らせいたしませんでした。申し訳ございません。後ほど、罰は受ける所存です」

「ーーっ」

キュロスは息を飲んだ。それを気にせず、元魔法師団長は事務報告をするように続きを話す。

「陛下がご存じの贄の儀は、今まであった結界を存続させるものであり、存続のみの為の贄でしたので、負担も苦痛も少なかったのです。……ですが、今回は結界の土台から作成しなければ、もっと言えば魔法陣を作成しなおさなければいけませんでした。それゆえに、魔法陣に一人、土台と結界作成に一人、贄が必要だったのです」

暗い、暗い瞳で、元魔法師団長はキュロスに報告を続け、それを聞くたびに、キュロスは怒りよりも恐ろしさが自身を覆っていくのを感じた。

「セリオス様からの神託によると、魔法陣は全て人の血を使用すること、土台は聖女の躰を魔法による氷に閉じ込める事、贄となる人の後悔と苦痛をささげる事が結界再作成に必要な事だそうです。……まあ、後悔と苦痛をささげろ、というのは、自身が与えた王国の結界を規則を破り英雄の血で代替しようとして失敗し、更に存続不可にしたことへの報いでしょうが」

その言葉を聞いて、キュロスは幼い頃神学で学んだ事を思い出した。

伯父上は言った『神は人と違う価値観を持っている。一番気を付けなければいけない事は自身との約束や理を破られることを嫌う、という事だ。次に気を付けないといけない事は、自身が与えた者を雑な行いなどで壊されたりすることを嫌うという事だ。これらが行われると、だいたい神からの報復が待っているといっていい。この国やこの世界を守ってくださっている神様方だが、決してお優しいばかりの方々ではない、時には残酷な方々だという事を覚えておきなさい』と。

これはそういう事なのだろう。

神との契約である、王家の血を引くものを贄とするという約束を破り、英雄の子を贄にしようとし、失敗し、英雄に結界を壊される、という神から与えられたものを我らの行いによって壊した報い。それが、伯父上の無残な死であり、聖女が死んでもなお、氷の中で悲惨な死にざまをさらし続ける辱めなのだろう。

キュロスは結界にふらふらと近づき、先ほどまで肌を合わせていたはずの自身の元婚約者を氷越しに触れた。

「ーーすまない」

そうして今度は血の池に横たわっている大司祭の亡骸に近寄り、血にぬれるのにも構わず跪き、そっと手を触れて「すまない」と呟いた。

その様子を見て、元魔法師団長は痛む自身の手を見つめ、聖女を見上げた。

「戦友よ、こんな目に会わせてしまった。本当に申し訳ない。……私も、そう遠くないうちにこの苦痛を抱えて同じところに行くだろう。許してくれとは言わないが、どうか、いつの日か救われる日が来ることを祈っている」

そう言うと、元魔法師団長は宰相と呆然としている王に一礼し、暗闇の中に去っていった。

宰相はその背を見ながら、すっと一礼した。

長きにわたってこの国を支えてくれた元魔法師団長との今生の別れに、そうせずにはいられなかったのだ。

やがて、その背が完全に暗闇に消えると、宰相は一粒だけ、大粒の涙を流したのだった。
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