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四章
ー閑話10ー 少女の独白3
しおりを挟む英雄様は私の希望だった。
絶望の中で差し伸べられた温かなぬくもりと優しい手は、私の呪われた人生を支えてくれていた。
でも、英雄様と結婚して、ひとつ、またひとつと突き付けられる。私は呪われていて、周りにいる人も不幸にしてしまうって。
王命で結婚した英雄様は私と結婚しても何一つ幸せそうじゃなかった。
お酒におぼれて、時折私を抱く日々。
抱いている最中も、目の奥はどこか虚ろで、私の存在が癒しにすらならないって突き付けられた。
私と結婚したせいで、英雄様は毎日通っていた酒場にも娼館にも出入りできなくなっていた。
「お前のせいだ!!」ってなじられた時、そのとおりだって思った。
私は私の事が許せなくなっていった。英雄様を不幸にしかしない自分自身が嫌だった。
そんな日々が続いて、私は妊娠した。
妊娠したって分かった時は、不安だったけど、本当はめちゃくちゃ嬉しかった。
好きな人の子供を産めるって思った。
だけど、すぐに、子供ができなければ良かったって思ってしまった。
子供ができたら英雄様はまた酒場と娼館通いを始めたから。
家にひとりでいるのは寂しくて、英雄様の恋人達からこれ見よがしに大事にされていることを見せつけられると、自分が惨めになった。
でも、本当は子供ができなければって一瞬でも思った自分が一番惨めで、情けなかった。
英雄様の恋人たちはみんな綺麗な服を着て、女性らしい体型に、大きな胸をして、はっきりとした美人ばかりだった。
もし、私が呪われてなくても、私は選ばれないって突き付けられるくらいの美人。
その内、彼女たちは英雄様の仮でも妻である私が気に入らないのか、嫌がらせをしてくるようになった。
支給品が届かなかったり、商店で日用品や食べ物が買えなかったり。
呪われた私が自分の恋人のそばにいるのが気に入らないみたいだった。
英雄様が家にいないときに、乗り込んできて「わかれろ!!」って言われたけど、王命だから別れられるはずもない。
そうやって日々を過ごして、日々の食事にも困るようになって、仕方なしに私は直接王城の人に食事を恵んでもらおうと相談に行った。
帰って少しまどろんでたら、英雄様が起こしてきて、お酒の匂いで気持ち悪くなって吐いてしまった。
その時の英雄様の顔を見て、心に隙間風が入るのを感じた。
そのあと、英雄様に王城に行った理由を話したけど、何も信じてもらえなかった。
私がばかだった。子供を妊娠する前はちょっと優しかったからって、ありもしない期待してた。少しは信じてくれて、自分の恋人たちを叱ってくれるんじゃないかって。
私は呪われてるのに。
妊娠してるのに、乱暴に抱かれて、恐怖でずっと震えてた。この子達を失いたくなかった。
勝手かもしれないけど、お腹の子達が今の私の存在理由だったから。私が愛情を向けても許される唯一の子達だったから。
英雄様に乱暴に扱われるたびに、ずっと覚えていたあの優しい手のぬくもりと声が少しずつ遠のいていくのを感じて、とても悲しかった。
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