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四章
ー閑話7ー side knight commander
しおりを挟む「んー、どうしよっか」
「殿下?」
こういう顔をした時の殿下はあまりよくない事をかんがえている、と長年の付き合いで分かっていた。
「いや、英雄殿にさ、頼まれた子供の事」
「ああ……」
自身が助けた人々を死に追いやられた事に、英雄殿は大層怒っていた事を思い出す。
「どうもこうも、これ以上英雄殿を怒らせることは得策ではないでしょう。ですので、言われた通り保護するしかないのでは?」
その言葉に、王子殿下はくしゃっと眉をひそめた。
「まあ、保護はするよ、保護は。ここであの子を殺したとして、それが英雄殿の耳に入ってこの国から去られたり背反されたりするのはこまるからね」
「……では、何を悩まれているのでしょうか?」
「ん?わからないかい?ーーああ、騎士団長は真面目一直だったね。そうだね、騎士団長から英雄殿に話がいってもあれだし、伝えとこうか」
「……」
「嫌そうな顔だね。英雄殿と暫く一緒に行動して必要以上に情が移ったかい?」
冷たい瞳はどこまでも冷静で、今話している人は、ただ人ではなく、この国の王子だと思い知らされた。
「ああ、責めてるわけじゃない、私自身も英雄殿の事は気に入っているしね。友だとも思っている。ただ、これは別の話だ。英雄殿にあまり自覚は無いようだが、我々の行動は各国に注目されている。まあ、当たり前だがな」
「はい、存じ上げております」
「で、その英雄殿が助けたはずの人々を自国の辺境伯一家を守るためとはいえ『使った』と各国に知られれば、そこをついて攻撃してくる国がないとも限らない。ただでさえ英雄殿を要している我が国は裏ではかなりやっかまれているはずだからね」
その可能性がない、とは言い切れなかった。むしろかなりの確率で我が国を揺さぶるネタか、英雄殿を揺さぶるネタにするだろう。
「そういった事を考えたら、事実を知る可能性があるものは一人も本当は存在しないほうがいい。英雄殿本人はまあ、おいといてね」
「では、どうされるおつもりですか?」
殿下は、ん-っ、と空を見上げて考えるふりをした。
「うん、とりあえず、追い込もうか。その子が自分で死を選んでくれるなら、それでよし。まあ、平民はずぶといから、自死しないのなら、また何か考えよう。あと、色々話を広められたら困るから、外界と自然に関係が断たれるよう何か考えよう」
眩しい殿下の笑顔を見て、これはもう覆せないと思いながらも、口を開いた。
「殿下、余計な差し出口でしたら申し訳ないのですが、一言よろしいでしょうか」
「うん、いいよ」
「私はこの数か月、英雄殿と寝食をともにしてまいりました。その中で、英雄殿の考えも、理解はできなくともある程度把握できたと思っています」
「続けて」
「はっ。英雄殿は我々と姿形こそ似ていますし、考え方も通ずることが多くあるので、忘れがちですが、本来は別の世界の人間です、根本的な差異があると思われます。それを鑑みるに、今、殿下がされようとしていることを知られてしまったら、取り返しの付かないことになる気がいたします」
殿下はすっと目を伏せて少し考え込んだ後、これからの指示を出すため騎士団長を追い越して天幕から出て行こうとした。
「殿下!!」
通り過ぎざま、殿下は肩に手をおいて囁いた。
「なら、知られなければいい。そもそも、我々は英雄殿に対して大きな裏切を一つおかしている。もう一つ増えたところで同じことだ」
「それは……」
「頼んだよ、騎士団長。この国の為に秘密にしていてくれるね」
過ぎ去っていく殿下の背中を見て、騎士団長も覚悟を決めて頭を下げた。
「御意」
心の中で英雄殿に深く謝罪する。
申し訳ありません、英雄殿。きっと私はあなた様を裏切った罰をいつかうけるでしょう。もしくはあなた様の手で罰が下されるかもしれません。それでも、私は幼き頃から存じ上げている殿下を支え一蓮托生でいると決めております。
英雄殿の気の抜けた笑い顔が浮かぶ。
騎士団長は下げていた頭を今度は違う意味で更に深く、長い間下げていた。
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