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四章
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「呪い、ですか……ま、まさか!!私の呪いが子供に??」
少女は亡きながらリオンに縋りついた。今までどんな目にあっても淡々としていた少女のその様に、リオンは初めて少女に同情した。そして、理解した。少女が今まで自身の事をどのように言われてきたのか、という事を。
少女を妻としてから、リオンは町の人に少女の生い立ちを聞くことが度々あった。
それは、気持ちのいい話ではなかったし、真実かどうかどこかあいまいなものが多かった。
少女が呪われている、疫病神だというのは共通認識だった。
ある人は『魔物に媚びを売って助かった』と。ある人は『少女の持つ呪いが魔物を呼び寄せる』 また、ある時は、『少女がいると、数年以内に不幸に見舞われる』といった漠然としたものまであった。
魔物と戦い、その生態を知っているリオンには眉唾ものとしか思えなかったが、これだけ町の人に嫌われているのなら、少女にも何らかの瑕疵があるのだ、とリオンは思っていた。
まあ、そもそもリオンが少女に露程も興味がなかったことが大きいが。もっと言うなら、少女だけでなく、根源的な欲以外の全てに今のリオンは興味がなかった。
リオンは少女の叫びを受けて、子供の文様を見聞した。
リオンとて、この子供が死んでもいいと思ったことは無かった。自身がその命の責任を負えるかというと無理だと思っていたが、そもそも王命という理不尽な命令で作らされた子供だったし、リオンがこの世界にした貢献から見れば、作らされた子供は王宮やこの国の人がリオン、英雄の子供として幸せにしてくれてしかるべきだと思っていた。
もっとも、その思いは無残に裏切られたが。
暫く子供を観察していたリオンは、子供をつれて、足早に本殿へ向かった。
あらい足音を立てて、リオンは神官がいるであろう礼拝室をこじ開けた。
「どうされましたか?」
痩身の神官は、まるで来るのが分かっていたかのように、リオンと子供と少女を向かい入れた。
礼拝室には、巨大なステンドグラスがあり、神話になぞらえて神様がそれぞれかたどられている。そのステンドグラスから、先ほどまで雨だったはずなのに、月の光が差し込み、どこか幻想的な景色を醸し出していた。
リオンは神官に詰め寄ると殺気を隠しもせず聞いた。
「これはどういうことだ?」
「これ、と申されますと……」
「この呪いの文様だ」
リオンが指さした文様を覗き込み、神官はかすかに息を飲んだ。「神よ、なぜ……」と小さく呟き、口を一文字に引き結んだ。
「リオン様、一体どういうことなのでしょうか?」
少女が不安げにたずねると、リオンは神官とステンドグラスに描かれている神の一柱を睨みながら答えた。
「この呪いの文様は、この国の守り神、セリオスの文様だったはずだ。神官ならわかるだろう?この呪いの効力はなんだ!?」
詰め寄るリオンに対して、神官は口を開いては噤むことを繰り返した後、覚悟を決めたのか口を開いた。
「……確かに、この文様は国神様の文様です。神学の古代文字になぞらえた呪いの文様は……文様は……王族との契約により魔力、神力を強制的に奪う文様かと」
「「!!!」」
リオンは絶句し、少女は神官に縋りついた。
「そんな!!どうにかならないのですか?呪いをなくす方法はないのですか!?」
神官は力なく俯き、首をふった。
「残念ながら、難しいかと思われます。そもそも、神様と一介の人間では力の差が歴然としております。いくらセリオス神が新参者の神様だとて、それは変わりません。しかも、この呪いは王族と神様との間に結ばれたものでいわば国全体と引き換えの呪いです。……この子の残りの魔力量などを考えると、この子が生きている間に呪いをなくす、もしくは返すのは不可能い近いかと」
「ーーそんな」
少女はその場に崩れ落ちました。リオンも顔を真っ青にしてぎゅっと子供を抱きしめます。
神官はそっと手を組んで祈りを捧げました。
「どうか、この幼子に、大神様の加護が在らんことを」
少女は亡きながらリオンに縋りついた。今までどんな目にあっても淡々としていた少女のその様に、リオンは初めて少女に同情した。そして、理解した。少女が今まで自身の事をどのように言われてきたのか、という事を。
少女を妻としてから、リオンは町の人に少女の生い立ちを聞くことが度々あった。
それは、気持ちのいい話ではなかったし、真実かどうかどこかあいまいなものが多かった。
少女が呪われている、疫病神だというのは共通認識だった。
ある人は『魔物に媚びを売って助かった』と。ある人は『少女の持つ呪いが魔物を呼び寄せる』 また、ある時は、『少女がいると、数年以内に不幸に見舞われる』といった漠然としたものまであった。
魔物と戦い、その生態を知っているリオンには眉唾ものとしか思えなかったが、これだけ町の人に嫌われているのなら、少女にも何らかの瑕疵があるのだ、とリオンは思っていた。
まあ、そもそもリオンが少女に露程も興味がなかったことが大きいが。もっと言うなら、少女だけでなく、根源的な欲以外の全てに今のリオンは興味がなかった。
リオンは少女の叫びを受けて、子供の文様を見聞した。
リオンとて、この子供が死んでもいいと思ったことは無かった。自身がその命の責任を負えるかというと無理だと思っていたが、そもそも王命という理不尽な命令で作らされた子供だったし、リオンがこの世界にした貢献から見れば、作らされた子供は王宮やこの国の人がリオン、英雄の子供として幸せにしてくれてしかるべきだと思っていた。
もっとも、その思いは無残に裏切られたが。
暫く子供を観察していたリオンは、子供をつれて、足早に本殿へ向かった。
あらい足音を立てて、リオンは神官がいるであろう礼拝室をこじ開けた。
「どうされましたか?」
痩身の神官は、まるで来るのが分かっていたかのように、リオンと子供と少女を向かい入れた。
礼拝室には、巨大なステンドグラスがあり、神話になぞらえて神様がそれぞれかたどられている。そのステンドグラスから、先ほどまで雨だったはずなのに、月の光が差し込み、どこか幻想的な景色を醸し出していた。
リオンは神官に詰め寄ると殺気を隠しもせず聞いた。
「これはどういうことだ?」
「これ、と申されますと……」
「この呪いの文様だ」
リオンが指さした文様を覗き込み、神官はかすかに息を飲んだ。「神よ、なぜ……」と小さく呟き、口を一文字に引き結んだ。
「リオン様、一体どういうことなのでしょうか?」
少女が不安げにたずねると、リオンは神官とステンドグラスに描かれている神の一柱を睨みながら答えた。
「この呪いの文様は、この国の守り神、セリオスの文様だったはずだ。神官ならわかるだろう?この呪いの効力はなんだ!?」
詰め寄るリオンに対して、神官は口を開いては噤むことを繰り返した後、覚悟を決めたのか口を開いた。
「……確かに、この文様は国神様の文様です。神学の古代文字になぞらえた呪いの文様は……文様は……王族との契約により魔力、神力を強制的に奪う文様かと」
「「!!!」」
リオンは絶句し、少女は神官に縋りついた。
「そんな!!どうにかならないのですか?呪いをなくす方法はないのですか!?」
神官は力なく俯き、首をふった。
「残念ながら、難しいかと思われます。そもそも、神様と一介の人間では力の差が歴然としております。いくらセリオス神が新参者の神様だとて、それは変わりません。しかも、この呪いは王族と神様との間に結ばれたものでいわば国全体と引き換えの呪いです。……この子の残りの魔力量などを考えると、この子が生きている間に呪いをなくす、もしくは返すのは不可能い近いかと」
「ーーそんな」
少女はその場に崩れ落ちました。リオンも顔を真っ青にしてぎゅっと子供を抱きしめます。
神官はそっと手を組んで祈りを捧げました。
「どうか、この幼子に、大神様の加護が在らんことを」
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