やさぐれ英雄と名もなき孤児の少女

月城 月華

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四章

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少女side

神殿の中は古びていたが、ところどころしっかりと補修されており、清潔だった。

壁に彫られていたり、壁に掛けられている装飾はアンティークと呼ばれるものか、年代を感じさせない緻密なものが多く、繊細で綺麗な装飾はさすが神殿だと思わせるものだった。

壁の装飾についての雑談を聞きながら、ゆったりと廊下を歩き、奥まった場所にあるところから渡り廊下を渡ると、こじんまりとした別館の小神殿につながっていた。

「こちらへ。今はここは閉鎖していますが、以前はここも孤児院として活用してたんですよ。魔物の危険から逃がすため王都近くの孤児院に全員移してからは閉鎖いたしましたが」

「そうなんですね」

少女はきょろきょろと辺りを見回した。

小礼拝室が一番手前にあり、その隣の部屋は食堂になっている。食堂にはかつての名残を残すような手作りのコースターなどが飾られている。

そこから、更に奥まった大部屋には、今は使われなくなった揺りかごや大小のベットがいくつかならんでいる。

「少し古びているかもしれませんが、こちらをお使いください。清掃はしていたのですぐ使えるかと思います」

「そうですか……ありがとうございます」

少女は、暫く使っていなかったはずなのに、どうしてこんなに綺麗なのか、と疑問に思ったのですが、先ほどの出迎えの事を思い出して聞かないことにしました。

きっとこの世界には不思議な事があるのでしょう。

「こちらもどうぞ」

神官様がわざわざ部屋まで持って来てくれたパンと温かなスープは、まだ湯気がっ上がっていた。

「それでは、ごゆっくりお休みください」

パタンと扉が閉まり、少女は子供を揺りかごの中にそっと寝かせたあと、スープと食事をとろうと机に近づいた。

そっとスプーンですくって口に入れた。

「………………あたたかい」

ポタ、ポタっと涙が零れ落ちる。冷たい視線、冷たい風、冷たい夜道。

それらがこの温かいスープで洗い流されるような気がした。

「……ありがとうございます……」

少女の呟きが静かな部屋に響いた。





「神よ、彼女の救いを……」

神官はたった一人の礼拝堂で祈りをささげていた。

「どうか、救いを……」

真剣に祈る神官の瞳からは涙が落ちる。

「ああ、どうしてあなた様は、なんの罪もおかしていない無辜の民に、あのものにこのような仕打ちをなさるのか……」

尋ねても答えは返ってこない。

「どうか、彼女の、少女の魂に救いがもたらされますように」

神官の祈りは長い間静寂の中に静かに響いていた。
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