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四章
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しおりを挟む少女side
少女は日々薄暗い中を移動していた。
もしかしたら追手が近くまで来てるかもしれないという恐怖からだった。
手持ちのお金は王宮にいたときに支給されたなけなしのお金だけだった。支払ったという体裁を整えるためだけに支払われていただけなので、雀の涙だったが。
もし、無一文になったとしても、子供さえ逃がせればいいか、と少女は思った。
もともと、この王命が達成できたならそこで終わっていた命なのだ。
ぼろぼろになって、ギリギリで食いつないでたどり着いたのは、少女の故郷と程近い町だった。魔物との境界線の最前線の町だ。
かつては魔物との境界線ギリギリまで防衛拠点としての町がもっとあったし、少女の故郷とこの町をつなぐ村々も存在した。
今となっては全て無くなってしまったが。
どこか懐かしい気持ちがするその町を少女はさ迷うように歩く。
魔物が魔王討伐によって少なくなり、常駐する騎士団や自警団、冒険者によって安全が確保できるようになった今となっても、生々しい過去が消えないのか、それとも魔物が不浄のものと忌避しているのか、必要最低限以外貴族たちはこの町に近寄らなかった。
少女はそこに目を付けた。
ここならば、この子が王都の王侯貴族にみつかりにくいのではないか、と。
自分と同じように忌み子と呼ばれてしまうかもしれない、とは思ったが他に選択肢はおもいつかなった。
「よしよし、もうちょっとで着くからね」
抱えた子をゆったり揺らしてあやす。
誰に似たのか、あまり泣かない子供だった。
だが、この時は少女の言葉に、にぱっと笑ってくれたのだ。
逃亡生活に心が摩りきれそうだった少女はその笑顔に思わず泣き笑いをこぼした。
「はは、笑った顔はリオン様そっくりね」
だあーう、と小さなお手々をのばして少女の頬に触れる様は、少女を慰めているようでもあった。
少女はもう少し頑張る勇気を貰った気がして、そっと頬ずりした。
「あなたが、安全に生きていける場所に連れて行くからもう少し待ってね」
少女は心を決めて、歩きだした。もう、迷いはなかった。
「お待ちしておりました」
少女が声をかける前に、神殿の中からは白い神官服を身に纏った痩身の男性がでてきた。
顔には柔和な笑みをたたえ、十人いれば十人が好い人だと答えそうな風貌だった。
「……まだお声もかけていないのに、どうして私がこの神殿を訪ねるとわかったのですか?」
「私のような、老いぼれになると、ふと神様の囁きが聞こえてくることがございます。今回、囁き通りこうして出会えたのは神様のお導きでしょう」
「……神託、ということでしょうか?」
少女の問いに神官は、かかかと朗らかに笑った。
「そんな大仰なものではありません。ただ、ふと神様から囁かれることがあるのです。例えるならーーおつかい、ですかね」
「おつかい、おつかい。……あの、子供とかがやるおつかいですか?」
神官はもう一度かかかと笑った。
「神様からしたら我らなぞ、子供と同じでしょう。もしかしたら赤子ではなく、おつかいができる年頃だと認めて頂けたのかもしれませんが」
「……はあ」
怪訝そうな少女に、穏やかに微笑む神官はそっと扉をあけて、少女を招いた。
「寒空におなごと赤ん坊がいるのは心が痛みます。どうぞ、こちらへ」
暖かな神殿の中へと誘い込まれるように、少女はその招きに応じ、神殿へと入っていった
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