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三章
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しおりを挟む王子side
しんしんと雨が降っている。そんな中、一人の男が王城を訪れた。
「殿下、いえ、陛下。お悔やみを申し上げます。それと、ご即位おめでとうございます」
「まだ戴冠式は終わってないけどね」
すうっと目を伏せた騎士団長に、王子様はどこか悲し気に見つめた。
「長きにわたって、私を守ってくれた事、感謝している、ご苦労だった。……引継ぎは終わったのか?」
「はい、つつがなく。副団長は長きにわたり私の右腕となってくれていました。代替わりしても変わらず陛下をお守りできるでしょう」
「そうか。……明日、領地へ行くのか?」
「はい」
「ーーなあ、私はどこで間違えたのだろうか……それとも最初から間違えていたのか?答えが出ないんだ、どう思う?マルス」
久方ぶりに苗字でなく名前を呼ばれた騎士団長は苦笑した。
「陛下、もう私はあなた様の指南役ではないのですよ?ーーそうですね、きっと間違えていたというなら、彼を呼んだ事自体が間違いではあるのでしょう。ですが、神託にあった通り、そうしなければ我が国は近いうちに滅んでいた事も確かです」
「結局どう転んでも私はリオンに恨まれる事になっていた、という事だね。ほんと、こういうのをリオンの故郷の言葉で貧乏くじ、というのだっけ?」
「陛下、私以外の方にそんな言葉いわないでくださいね」
「分かってるよ。ーーああ、ケンカしても、嫌われてもいいから、最初から全部打ち明けてればよかったかな」
「……もう、言っても仕方の無いことです」
「そうだね、もうリオンは国家反逆者として手配されることになってしまったのだから。お前にも苦労をかける」
「いえ、騎士たちに休暇を言い渡した時から覚悟はしておりましたので。それでは、陛下、明日、領地へと下がります。……陛下、どうかお元気で」
「……ああ、マルスもな。ーーあんな命令を下した私を恨んでもいいぞ」
「それも含めて、覚悟はできておりましたから」
そう言って騎士団長はその場を辞去した。残された王子は誰も人払いをした執務室で、椅子にもたれかかり、腕で顔を覆った。
「元気で、か。それを言われる資格も、言う資格も私が一番無いというのに……、王であるという事は本当に厄介だな」
王子様は暫くの間、椅子にもたれかかって悲しむように目を伏せるのだった。
騎士団長side
「あなた、本当に行くのですか?」
「ああ」
騎士団長の絞り出すような声に、彼女はぎゅっと瞳を閉じた。
覚悟はしていたはずだった。夫が騎士団長という職務についている以上、危険はつきものだと。
夫が魔王討伐へ向かった時、彼女は一度、夫との死別を覚悟した。
そうして世界が平和になってもうあんな思いはしないで済むと思ったのに……。
「どうしても、行かなければいけないのですか?ーーここに、あなたの子供がいるんですよ?今度は男の子な気がします。きっと娘とはまた違った可愛さがありますよ」
その言葉に騎士団長は唇を噛み締めた。
欲を言うなら、娘も、産まれてくる子供の成長も妻と共に見守りたかった。昔不義理なことを沢山した分、妻を幸せにしたかった。
だがそんな資格はないと分かってもいた。娘を見るたびにちらつくのだ。無残な姿で亡骸となった赤子を抱えたリオンの姿が。
「私は、行かなければならない。すまない」
彼女は失望したように目を見開き、やがて俯いた。
「……そうですか」
しんしんと降る雨に打たれているかのように、冷え冷えとした空気が彼らの束の間の幸福を奪っていった。
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