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三章
ー閑話6-1ー side man
しおりを挟む思ったよりも騎士団長と二人で旅をするのは快適だった。
元々、騎士団長は穏やかな気質をしていたし、そっと人をサポートするのに長けていた。
二人で地方を回るのに、ずっと無言で過ごすのは厳しかったので早々にあきらめた。それに、騎士団長は職務柄か、地方の事を良く知っていたので最短で必要なところに向かうことができるのはかなり助かるところだった。
夜には簡単な野営食も作ってくれるし、故郷でいうコーヒーに似た飲み物も出してくれるという至れり尽くせりな対応だった。
ある日「なあ、なんでここまでしてくれる?」と尋ねると、騎士団長は苦笑して「隠す方が困ったことになりそうなので、率直に言いますね。色々と思惑はありますが、遅いかもしれないですが英雄様の事が今更ながら知りたいと思ったので」と答えた。
「色々な思惑って、俺に嫌われたくないとか?」
「まあ、もう嫌われてそうですがね……、私は英雄様がこの国に来られた直後から訓練などに付き合わさせていただいておりますが、実は英雄様の事を全然知らないことに気がついたのです。故郷の話やご家族の話など、それを知りたいと思ったのです」
騎士団長がそんな事を考えているとは思っていなかった。魔鳥を使って王子様たちと連絡を取って連携をとっているのは知っていた。てっきりお目付け役兼連携をとるためかと思ったが……。
そう尋ねると、騎士団長はそういう側面もある、とまた苦笑した。
それから、騎士団長とは夜な夜な話をした。それが苦しい日々の諫めにもなっていた。
たわいもない話から、真面目な話、下世話な話まで色々話した。
ある夜は故郷の話をした。
「では、王侯貴族が存在しないのですか?」
「ああ。昔はあったんだけどな。故郷はさ、魔力がなくて、魔獣もいないし、神様も現実には出てこない。俺は今まで存在しないと思っていた。……ここに来て、実は存在したのかもなとは思ってるけどな」
「……なるほど、世界の成り立ち自体が違うという事ですか」
「ああ。国によっては階級がある国もあるけど、俺の故郷は違ったな。まあ、象徴としての王家みたいなものはあったけど」
「そうですか……」
「あと、俺の国では『王とは民がいてこそ成り立つ』という考えが主流だった。民主主義国家だったのはあるかもしれんが。魔力差とかが王侯貴族と平民であるわけじゃなかったから長い歴史の中では王政が民衆に打倒されたりしてたしな」
「ーー民主主義、とはどういうものかはっきりとは分からないのですがーーでは、英雄様はこの国もそうなって欲しいとお思いですか?」
「いや、最初はそう思っていたけど、この世界では難しいって事も今では理解してる。王侯貴族と民で能力差があったり魔術や神様との契約があったりするこの世界では『平等』は故郷よりも難しいだろうな」
その言葉に騎士団長は何も言わなかった。ーー言わない事が答えだった。
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