やさぐれ英雄と名もなき孤児の少女

月城 月華

文字の大きさ
上 下
32 / 90
三章

ー閑話6-1ー side man

しおりを挟む

思ったよりも騎士団長と二人で旅をするのは快適だった。

元々、騎士団長は穏やかな気質をしていたし、そっと人をサポートするのに長けていた。

二人で地方を回るのに、ずっと無言で過ごすのは厳しかったので早々にあきらめた。それに、騎士団長は職務柄か、地方の事を良く知っていたので最短で必要なところに向かうことができるのはかなり助かるところだった。

夜には簡単な野営食も作ってくれるし、故郷でいうコーヒーに似た飲み物も出してくれるという至れり尽くせりな対応だった。

ある日「なあ、なんでここまでしてくれる?」と尋ねると、騎士団長は苦笑して「隠す方が困ったことになりそうなので、率直に言いますね。色々と思惑はありますが、遅いかもしれないですが英雄様の事が今更ながら知りたいと思ったので」と答えた。

「色々な思惑って、俺に嫌われたくないとか?」

「まあ、もう嫌われてそうですがね……、私は英雄様がこの国に来られた直後から訓練などに付き合わさせていただいておりますが、実は英雄様の事を全然知らないことに気がついたのです。故郷の話やご家族の話など、それを知りたいと思ったのです」

騎士団長がそんな事を考えているとは思っていなかった。魔鳥を使って王子様たちと連絡を取って連携をとっているのは知っていた。てっきりお目付け役兼連携をとるためかと思ったが……。

そう尋ねると、騎士団長はそういう側面もある、とまた苦笑した。

それから、騎士団長とは夜な夜な話をした。それが苦しい日々の諫めにもなっていた。

たわいもない話から、真面目な話、下世話な話まで色々話した。

ある夜は故郷の話をした。

「では、王侯貴族が存在しないのですか?」

「ああ。昔はあったんだけどな。故郷はさ、魔力がなくて、魔獣もいないし、神様も現実には出てこない。俺は今まで存在しないと思っていた。……ここに来て、実は存在したのかもなとは思ってるけどな」

「……なるほど、世界の成り立ち自体が違うという事ですか」

「ああ。国によっては階級がある国もあるけど、俺の故郷は違ったな。まあ、象徴としての王家みたいなものはあったけど」

「そうですか……」

「あと、俺の国では『王とは民がいてこそ成り立つ』という考えが主流だった。民主主義国家だったのはあるかもしれんが。魔力差とかが王侯貴族と平民であるわけじゃなかったから長い歴史の中では王政が民衆に打倒されたりしてたしな」

「ーー民主主義、とはどういうものかはっきりとは分からないのですがーーでは、英雄様はこの国もそうなって欲しいとお思いですか?」

「いや、最初はそう思っていたけど、この世界では難しいって事も今では理解してる。王侯貴族と民で能力差があったり魔術や神様との契約があったりするこの世界では『平等』は故郷よりも難しいだろうな」

その言葉に騎士団長は何も言わなかった。ーー言わない事が答えだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

処理中です...