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三章
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しおりを挟む王城でも、特に豪奢で奥まったそこは快楽と享楽であふれていた。
当代国王は魔王を倒した英雄を有する国の国王として数多の財を有し、またそれに集まってくる小鳥たちも拒まずに受け入れ、日々悦楽にふけっていた。
この夜もまだ宴は終わらず、豪奢な部屋の中では数多の美しい小鳥と国王が戯れている。
そのせいで気がつかなかった。
カツン、カツン
騒音にまみれる室内とは裏腹に、静まり返った冷たい廊下に響く、死神の靴音には……。
廊下にいた近衛兵たちは皆一撃で昏倒させた。
今しがた倒れた二人が、本日の夜番の最期の二人だった。無防備になったやたらと凝った金の装飾の扉を見て、その趣味の悪さにげんなりする。
ここは普段人目に触れないプライベートスペースだ。国の威信など、かけてはいない。この扉に施してある装飾の一部だけでも、小さな村の復興費になるだろうに。
そういった意味では、自室を王子にしては簡素にしている元友人はまだまともだったな、と思い返した。ーーまあ、比べる対象が悪すぎる。
後で拾って、復興に使うように伝えに(脅しに)行くかと思いながら、リオンは柔らかな豆腐でも切るかのように、扉を片手で切り刻んだ。
大きな音を立てて扉が四散する。
「な、何事だ、近衛兵たちはどうした!?」
中には、半裸とも言い難い情けない格好の国王と、小鳥たちーー美しい姿の男女がこれまたきているか分からない薄布をまとって群がっていた。
「よお、国王……ひさしぶりだな」
もはや敬称もつけないリオンに、国王は怒るより先に、理解してしまった。この日が来たことを。
「ーーお前たち、下がれ」
冷静になってリオンと向かい合い、国王は一つ手を振って、脇の扉から、小鳥たちさがらせた。
やがて、二人きりになると、国王は静かにリオンを観察した。リオンも静かに見返す。
「ーー小心者だと思っておったが、侮って負ったか……」
呟く国王に、対し、リオンも冷淡に返した。
「お前がここまでしなけりゃ、その評価であってたと思うぜ?」
国王はリオンの片手に抱かれている骸に目を止め鼻で笑う。
「は、異界のものの考えは心底理解できないな、それは確かにお前の血族だが卑しい平民の、しかも孤児の血を引いている。捨て置けばよい物を……、わしにそのような血族がおれば、こんな事をせず、そいつを生贄にしたのだがな」
「……じゃあ、お前が婚外子でも作ればよかっただろ?」
吐き捨てるように言うリオンに、国王も心底気持ち悪い、といった風に顔をしかめた。
「わしがそんな下賤のものに触れるわけがないだろう」
「ーーほんと、昔からこの世界のそういう考えは理解できねぇ」
「ふん、所詮は異界人だからな。で、そなたここに何をしに来た?」
尊大に返す国王にリオンはすうっと剣の切っ先を向けた。
「復讐をしに来た、まあ、分かってんだろうが……」
「今更か」
「ああ、今更だ」
「ーーそうか。まあ、理由は気に喰わんがな、仕方あるまい」
「てっきり逃げるか怒るかすると思ったが?」
「さて、ここに入ってきた瞬間は怒っておったが……貴様が復讐をするのも道理だという事は分かっておる。先に裏切ったのは我らの方だ、いつかこの日が来ると思っておった」
そう言うと、国王は剣の切っ先が首に擦れるのにも構わず立ち上がり、備え付けの戸棚に向かい、高そうな洋酒を取り出しトンっとテーブルに置いた。
「そなたに殺されないように色々手を打ったが、裏目に出たな。……本当に異世界のものの扱いはむずかしい」
そう言いながら、国王はグラスを二つ出し、トクトクと琥珀色の上質な酒をなみなみついだ。
「何のまねだ」
「死に酒ぐらい付き合ってくれてもよかろうに」
リオンはじっと国王を睨み、ややあってグラスを手に取ります。国王はほほ笑みグラスを天高く掲げ乾杯した。
「王国の繁栄に」
ぐっとお酒をあおって数秒もしないうちに喉がかあっとあつくなり、リオンは鬼の形相で国王を睨みつけた。
「ゴフッ、ぐ」
国王の口元からどす黒い血が噴き出てきます。ガシャンとグラスが落ち、割れ広がった。
「てめえ!!」
怒るリオンを煩わし気に見やり、国王はニタリとやらしい笑みを浮かべた。
「やはり、死なぬか、神に選ばれた英雄よ。そなたに殺されてしまうのは外交上色々と問題があるからな、殺させはせぬよ……欲を言えば、おぬしも巻き込みたかったが、まあ、人ならざる化け物には毒は通じんな」
「ぐ、ごほっごほっ……その人ならざる者の力を借りなきゃいけなかったのは誰だよ!!この国の、この世界のやつらじゃねえか!!」
リオンの叫びに、国王は薄れゆく意識の中、自嘲した、「その通りだ」と。
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