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三章
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しおりを挟む「リオン様、あの、私と双子の住んでいた離宮は本殿とは直接はつながってございませんが……」
少女が怪訝そうに言うのをリオンは分かってる、とばかりに頷いた。
「先に確認しなきゃいけない場所がある。……おまえは、その離宮とやらを確認してくるか?」
険しい顔をしていたリオンが、ふと気が付いたかのように少女を見つめ、そっと廊下に降ろした。
「確か、お前の話では第五離宮だったか?俺はちょっと確かめる事があるから行って来たらどうだ?」
少女は少し考え込んだが、頷いた。何故だがリオンが少しほっとしたような気がした。
「そうか。なら、二つ向こうの廊下を左に行くと大広間がある、そこを突っ切れば外に出られるはずだ」
王宮の内部に詳しいリオンに驚く少女に、リオンは「以前少しの間暮らしていたことがある」と端的に説明した。
「ほら、早く行ってやれ」
しっしと手を振るリオンに一礼して、少女は離宮へ向かって駆け出して行った。
もくもくと複雑な道を進み、やってきたのは王宮の地下室だった。
宮廷魔導士団の詰め所になっている陰気な雰囲気のその場所を、リオンは勝手知ったるがごとく突き進んでいく。
途中夜番の魔導士に出会ったが、皆一撃で昏倒させて先に進んだ。
やがて奥まった部屋にたどり着いたリオンはおもむろに剣を抜き、魔法陣の書かれた扉を魔法ごと叩き切った。
「何事だ!!」
瞬間、魔法攻撃の集中砲火を浴びるが、全て剣を使って叩き落す。叩き落したそれらは壁にぶつかり、あるものは消え、あるものは壁をえぐり、炎魔法は飛び散って壁に掛けた装飾品に燃え移った。
背後で燃える炎に照らされて、リオンの姿が煌々と映し出される。
「お、お前は……リオン!!」
その場にいる誰もが驚愕の色に彩られ、固まった。
リオンはそれらを一切気にせず、部屋の中央へと向かった。
一番先に正気に戻った魔法師団長がそれを慌てて止める。
「ま、待てリオン、それに近づくな!!プロテクト!!」
行く手を阻むために作られた魔法師団長の強固な魔法の盾を、リオンは無表情で殴り飛ばした。
「ぐはっ」
魔法師団長の口から血がこぼれる。それもそのはずだ、切り飛ばして魔法を霧散させずにわざわざ殴って魔力の盾を魔法師団長に飛ばしたのだ。
「「「「「団長!!」」」」」
周囲にいた部下たちが団長に近づき、慌てて治療を始めた。
その様子を横目で確認し、リオンは中央へと進んだ。
中央に横たわった、もう冷たくなった小さな亡骸を、リオンはそっと持ち上げた。
肌はもう冷たいのに、降りかかる血はまだぬくもりを残している。
そっと髪の毛を上げて真っ黒な光を失った瞳を眺め、そっと目を閉じてやった。
ーーああ、間に合わなかった。また、助けられなかった。
小さな亡骸を抱えてぼんやりとそう思う。英雄なんてほんと名ばかりだ、と自嘲した。
この世界には存在しないはずの、自らと同じ黒の瞳を持った我が子をそっと抱きしめる。父親になれないなんて、嘘だった。ただの亡骸なのにこんなにも愛おしい。
いつも、俺は遅いのだ。
ぼんやりした瞳を床に向ける。
またか、と思った。最悪な事が起きる場所はいつもここで、いつも血塗られた文字が飾られている。
リオンは片腕で亡骸を抱きなおし、もう片方で持っていた剣を床に向けた。
「り、リオン殿、何を……」
「リオン様、辞めてください!!」
必死で止めようとしてくる魔導士たちの方を見る。反応が在ったことに気を良くしたのか、魔導士たちは慌てて言葉を募った。
「り、リオン様、そんな事をしても、命は帰ってきません、尊き犠牲を台無しにするおつもりですか!?」
その言葉を聞いて、リオンの朧がかっていた頭は怒りで覚醒した。瞳をらんらんと輝かせて、リオンは笑う。
「尊き犠牲だと?命は帰ってこない、だと?」
「は、はい、ぐふぁ!!」
魔導士の口から鮮血があふれ出した。
「お前がなればよかっただろうに」
リオンは酷薄に笑い剣を地面に突き刺した。
カッとまばゆい光があたり一面に満ち、そうして地下室の床にかかれていた魔法陣は一瞬にして破壊された。
「そ、そんな、そんなばかな……」
自らの技量に自信があったであろう魔導士団長は、その隔絶とした強さにおののいた。
リオンは剣をもう一振りして、人以外の全てのものを一瞬で破壊した。
「ああ、貴重な薬品が!!」「文献が燃えてしまっている!み、水!!」
阿鼻叫喚になっているその場に呪いを放ち、リオンは優しく亡骸を抱きしめて部屋を去ろうと燃えさかる出入口へと向かった。
「り、リオン様、それは、その亡骸は……」
高い女の声。顔を上げるとそこには少女が呆然と立っていた。
「な、なぜここに?」
居るはずのない、遠ざけたはずのその姿を目にして、リオンも固まる。
一瞬の静寂。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ。あ゙ーーーー」
刹那の後、少女から狂ったような悲鳴が漏れた。顔を己の両手でかきむしり、頽れる少女をリオンは哀し気に見つめていた。
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