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三章
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しおりを挟む最近あまりにも暗い展開が多いので、番外編を同時に投稿しました。
本編終了後の二人の話でR18です。本編が終了してからよむ!!と言った方はお気を付けください。
「とりあえず、中に入れ、寒い」
荒唐無稽な、と思いながら幽鬼のような形相の少女を返すに返せず、リオンは中に招き入れようとした。
が、少女はかぶりを振った。
「時間がないのです。どうか、どうか、力を貸してください」
「あのなあ、どういう成り行きか、ちっとは説明しろってんだ。それとも何か?前と同じくこれも嘘で、俺に捨てられそうにーー」
「もし、これが嘘でしたら、その手で私を殺していただいてかまいません!!」
リオンの言葉を少女は強い言葉で遮った。リオンは改めて少女の顔を見る。……嘘をついているようには見えない。
はあ、とリオンはため息を吐いた。
「嘘だったら、殺していいんだな?」
「はい」
何のためらいもない少女の様子に、流石にリオンも思う所があった。
少女の気がふれたのか、それとも、自分の気を引きたいのかーーあるいは、本当に何か大変なことが起こっているのか。
友人でもある王子の事を疑うわけではないが、手段を選ばない所があるのは知っている。
手じかにある上掛けと、必要なものがまとめてあるずた袋を取り、肩からかける。ついでに少女もひょいと片手で抱き上げた。
「馬で行く。とりあえず、何があったか聞かせろ。……もし嘘だったら、俺に一生近寄るな」
実質王都追放になるが、少女はそんな事でいいのか、とばかりに頷いた。
異常なほどに吹雪く雪に紛れて、二人は王城にひっそりと出発した。
「で、要するに、俺に助けて欲しいって言ったのは男の子の方って事か」
「はい」
「確かに、その男は生贄と言ったんだな?」
「はい……」
リオンは馬の足をそっと速めた。ーー心当たりがないことは無かった。
かつて英雄として魔王を倒した時、この国の結界は一度なくなっていた。そもそもこの国の結界は、三百年前に新たな魔王が生まれた為、国を守るために神様から借りたものだ。
強大な魔物を王都から一定範囲以内に入れない結界のおかげで王都は常に平穏を保っていた。王都から離れるにつれ、その結界の効力は弱まっていくのだが、あるとないとでは大違いだった。
例えば、結界があると、ドラゴン系統の魔物や、ベヒモスなどの魔物はその内側に入れない。普通の魔物は入れるが、結界の中心部では力が弱まるのだ。
魔王が倒されたからと言って、全ての魔物がいなくなった訳ではない。王都にもう一度結界を!!と言い出す王侯貴族がいるのは想像に難くなかった。
そして、神様から結界を借りる前は王族の一人が生贄となって国の結界を維持していたというのを王子たちから聞いたことがあった。
リオンは自称するのもなんだが、神に選ばれた英雄だ。
もし、英雄の血が王族の血の替わりに使えるんだとしたら……。
リオンはそこで思考を中断した。すべては王城に着いてからだ、と鋭い視線で前方を睨みつけた。
「リオン様、困ります!!」
立ちふさがる侍従や騎士を押しやり、投げ飛ばして、ずかずかとリオンは王城に上がり込んだ。
今でこそ、こんな落ちぶれた風体だが、リオンは確かに英雄と呼ばれた人物、力ずくのリオンに対抗できるものなど、今は亡き魔王かもしくは残りの討伐メンバーが徒党を組むかしかないのだ。
「騒々しいな、どうした?」
ゆったりとした上質の寝巻にガウンを羽織った美貌の人物が何の騒ぎかとエントランスに出てきたが、リオンを視界に捉えた彼は、目を見開いた後、あきらめたかのように瞑目した。
「よお、王子様」
「……リオン、こんな夜更けにどうした」
静かに尋ねる王子を睨みつけながら、リオンはつかつかと寄っていく。慌てて近衛騎士たちが王子の周りを固めるが、それを王子は身振りで制した。
「聞きたいことがある」
「……なにかな?」
「俺の子供はどこにいる?」
「……君の子供は王城にて大切に預かっているよ」
リオンの腕の中にいた少女は「嘘よ!!」と叫ぼうとしたが、リオンの腕で口を塞がれた。
リオンは少女に「黙ってろ」と言うと、もう一度王子と向かい合った。
「そうか。なら、顔が見たい。俺は一応父親だ、その権利はあるよな?」
「もちろんだとも、だが、今は真夜中だ。明日また来てくれるかい?準備を整えておくから」
穏やかに言う王子の言葉に被せるようにリオンは「顔見て帰るだけだ、準備とかいらねえ」と王子を押しやり、王城の奥に進もうとし。
バシッと王子の腕がリオンの肩を掴む。
「どうした?案内でもしてくれんのか?」
「……どうしても今会う気かい?明日ではだめなのか?」
「ああ、今会いに行く」
頑ななリオンに対して、王子はそっと目を伏せた。
「騎士たちに言って追い返させると言っても?」
はん、とリオンはその言葉を鼻で笑った。
「俺を追い返せる奴がいるなら、やってみろよ」
そう言うとリオンはそのまま回廊の奥へと歩き出した。背後からは王子の呼び止める声が聞こえる。
リオンは一瞬ぎゅっと目をつむった。そうして振り向くと、王子に言った。
「……血の匂いがするな、王子。今は戦時中じゃねえのに、どうしてだろうな?ーーーーーーお前を信じたかった。俺の子を大事にしてくれると言ったこの世界で数少ない俺の友を信じたかった」
軽い口調に込められた、重苦しい感情に王子は呼び止めるのをやめ、呆然とリオンを見つめた。
リオンはふっと視線を前に戻すと振り返らず、そして迷わずに進んでいった。毅然とした背中なのに、どうしてか泣いているように見えた。
「……すまない、リオン」
リオンの姿が見えなくなってから暫くして、王子は全身の力が抜けたかのようにその場に座り込んだ。
能面のようなその顔の両目からはとめどなく涙があふれたが、それを止めるすべがわからないまま何時までもその場から動けないでいたのだった。
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