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二章
ー閑話3ー side man
しおりを挟む「よし、いくぞ!!」
王子様の一喝と共に、王都を意気揚々と出発した俺たちだったが、一歩王都を出て辺境に向かうにつれて目に見えて口数が減っていった。
一つ目の目的地である、南の辺境伯領に向かうにつれて壊滅や半壊した村や町が増えて行ったからだ。
「ここもだめか……」
燃やされ、木造の家は燃え残った黒焦げの柱があちこちに点在している。燃え残った石の家も、壁面は焼け跡が残り、一歩中に入れば固まった血の黒で染まっていた。
最初は皆を激励していた王子様も、次第に目が死んでいく。
とある町の町長の屋敷では、兜を脱いで長い間黙とうしていた。以前視察で訪れたことがあったらしい。
本当は遺品だけでも集めて慰霊碑を作りたかったが、それよりもまだ生きている人たちを助ける事が優先だという事で、後ろ髪を引かれる思いで皆が壊れた村や町を後にした。
辺境伯領に後一日でたどり着くというある日、全員で次の日に備えて開けた地に天幕を張って野営をしている中に早馬が飛び込んできた。
「急報、急報!!」
「「「どうした!?」」」
「辺境伯領に大量の魔物が進軍してきて、城壁内まで攻め込まれました!!」
「なんだと!?」
王子様が慌てて立ち上がる。
居ても立っても居られなくなり、気が付くと馬を駆っていた。後ろから王子様や聖女様の呼び止める声が聞こえた気がしたが、それどころじゃなかった。
目の前に青いリボンがちらつく。もう、あんな思いをしたくない、俺は助ける為に選ばれたんだ!!
必死で馬を飛ばし、辺境伯領に付いたのは夜が明けたころだった。城壁内が見渡せる小高い丘から見たその町は控えめに言って地獄絵図だった。
赤々と火の手があちらこちらで上がっている。その炎に当てられた揺れる人影があちらこちらに逃げまどっている。そしてその影を追いかける異形の影がゆらゆらとあちらこちらに見えた。
剣を抜いて城塞に突進する。
一体、また一体魔物を切る。自分の体に青や緑の体液が付くが気にせずに片っ端から切った。
もう無我夢中だった。あちらこちらで上がる炎に炙られながらも一人でも助けるために戦い、気が付けば太陽は中天へと昇り、魔物たちは塵じりに逃げて行った。
城塞という点が悪い方に作用したのか、炎は町一つをほぼ焼き尽くしていた。唯一の救いは昼前に雨が降り出し炎が鎮火されたことだった。
「誰かいないのか?」
逃げ出せた人々の他に生存者はいないのかと声を張り上げるが、誰の声も聞こえない。
虚しさと落胆の気持ちに襲われながらも、とりあえず城塞内を声を張り上げて一周することにした。
瓦礫の中から小さな手が突き出ているのに気が付いたのは諦めて城塞から出ようとした、その時だった。
「おい、大丈夫か?」
慌てて近寄り、できる限り傷つけないように救い出す。
ーー良かった、まだ息をしている。
水筒から水を出し、薄めた傷薬を全身に振りかける。聖女様から渡されていた大事なものだが、人を助けるのに使ったのなら許されるだろう。
そのまま抱え上げ、他に生存者は城壁内にはいないみたいなので、城塞の外に出る。
城壁の外に待機していたのか、騎士団の数人が寄ってきた。
騎士団の人たちに助け出した小さな子を預けて、必ず近隣の無事な町に預けるようにに言づけると、王子様や聖女様が向かったという避難所になっている辺境伯領の村に向かった。
「なあ、なにしてるんだ?王子様……」
「ん?ああ、辺境伯とその家族を助けるために必要な措置だったんだ。彼らはこの王国に貢献してくれている大事な青き血を持つきぞくだからね」
当然のことだろ?と曇りなき眼で王子様は同意を求めてきた。
「は?えっ?」
聖女様や騎士団長の方を見ても、なぜ驚いているのか?と逆に怪訝そうな目で見返してくる。
ああ、そっか、この地は、この世界は、同じように見えても根本的に考え方が違うのか。常識も、何もかも……。
では、なぜ、何のためにここにいるんだろうか?
足元が静かに崩れていく音がいつまでも響いていた。
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