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二章
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しおりを挟むリオンside
ふらふらと真昼間の道を千鳥足で帰る。
ようやく家にたどり着いて扉を開けても石造りのそこはがらんとしていて、どことなく侘しさをたたえていた。
「帰ったぞ、めし……」
言いかけて、そういえば居ないんだったと思い出す。あんなのでも居ればいたで便利だったなと少し惜しく思った。
最も、カルナやチカが言うように、淫蕩な性格をしていたのだったら居なくなってせいせいするとは思ったが。
酒瓶を片手に先の見えない日々をぼんやりと思う。つらつらと考えていたら、もう帰れない故郷を思い出して虚しくなった。
慌てて酒を継ぎ足し、一気に煽る。
ーー忘れてしまえ。望郷の念も、希望に満ちていた過去も、全て。結局この手には何も残らなかったことも。
「酒も、金も、女もある、何が不満なんだ……」
わざと声に出して見ても答えてくれる人はおらず、部屋に反響し自分に返ってくるだけだった。
手に入らないものより、あるものを考えよう。今、俺は世の男がうらやむ生活をしているじゃないか。幸せなんだ。
空っぽの瓶を放り出し、新しい酒瓶の封を開ける。いつも飲んでいるお酒と同じなのになぜか少し苦い気がした。
「ちっ」
気分が上がらないので、酒瓶を片手にふらふらと家を出て町に向かう。
忘れるには温かいぬくもりが必要だと強く思った。
少女side
コトン
「あっ、いつもありがとうございます」
声をかけても答えはかえって来ないのだが、少女は本当に感謝していることを伝えたくて毎回お礼をいうのだ。
こんなにも美味しい食事を食べた記憶は少女にはなかった。週に二度のお風呂なんたもってのほかだ。
着古してはあるが、清潔な衣に温かい部屋と自分専用のベッド。ここまで良くしてもらって、お礼を言わずにすますことは少女にはできなかった。
もっとも、少女がお礼を言うたびになぜかメイドや侍従は苦い顔や引きつった顔をするのだが……。
まあ、いいかと少女は中庭から空を見上げた。
この幸せが束の間の出来事だと少女は分かっているが、こんな自分にこんな分不相応な幸せがやってくるなんて、天からのご褒美だと少女は思ったのだ。
少女は徐々にせり出てくるお腹に向かって静かに故郷の歌をうたう。
ねむれよねむれ 良い子はねむれ 夜の明かりの真ん中にほら 真っ赤なおめめが探してる
ねむれよねむれ 良い子はねむれ 夜の帝王と闇がほら 悪い子を探してる
ねむれよねむれ 良い子はねむれ 朝の光の使いがほら 闇をおいたててくれるまで
魔物が多い地域に近かった故郷らしいこの子守唄を、どうしてかお腹の子に伝えたかった。
きっと自分は一緒には暮らせないけれど、光の使いがどうかこの子を守ってくれますように、とそっとお腹をなでて少女はほほ笑むのだった。
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