やさぐれ英雄と名もなき孤児の少女

月城 月華

文字の大きさ
上 下
19 / 90
二章

5

しおりを挟む
リオンside

「はあ?あいつが王宮に連れていかれた?」

「そうみたいなの、立ちんぼみたいな恰好して男に襲われたらしくてね」

「なんでそんな恰好……」

「さあ、あなたに相手にされなくって寂しかったんじゃないかしら……」

「はっ、俺に相手にされたいなら、あの貧相な見た目をまずどうにかしろっての」

「そんなこと言ったら可哀そうよ。ねえ、私なら大丈夫だから、彼女の様子を見に少し帰ったら?」

「お前は優しいな。だけど、大丈夫だ。あいつとは王命で結婚しただけで、子供さえ産ませればそれで切れる関係だからな」

「まあ……」

ぎゅっと腰を抱くリオンに見られないようにおんなはニタリと笑った。

「でも、本当に寂しくって他の男を誘ったんだとしたら、そんな人を娶ったリオンが可哀そうだわ……」

「は、もしそうなら軽蔑するね……、まあ、傷心中の俺のことはお前が慰めてくれるんだろ?」

「ええ、もちろんよ……」

これで、リオンは私のものだ、と女は満足そうにリオンを抱きしめた。



少女side

「出来損ないだとは聞いていたが、満足に子を孕むこともできんとは……」

「ーー申し訳ございません」

「まあ、良い。腹にいる子を出産するまで第五離宮にとどまるが良い。これ以上騎士たちの手を煩わせてくれるなよ」

少女を呼び出した国王はそれだけ告げると、早々に少女を謁見の間から追いやった。

「こちらにどうぞ、ご案内いたします」

謁見の間から出ると、少女を無表情な侍女が出迎えた。そのまま侍女を先頭に騎士たちに囲まれて第五離宮まで案内された。




第五離宮は王宮の外れにあり、徒歩ではかなりの距離があった。外観は寂れており、王宮外郭の中の森の中にポツンと一つ立っていた。

「こちらにどうぞ」

離宮の入り口手前で、騎士たちは踵を返して帰って行った。残った侍女はギシギシ鳴る重そうな扉を開けて、少女を離宮の中へといざなった。

離宮の中は長年使われていなかったのか、少し埃っぽかったが、リオンの家の自分の部屋の石畳よりは温く、少女はほっと息を吐いた。

侍女はその様子を怪訝そうに見やったが何も言わずに、少女に最低限必要な場所を案内した。

最期に案内された少女の部屋は、一応は掃除がされていて、ベットもあり少女は好待遇に侍女に何度も頭を下げた。

侍女からしたら寂れた嫌がらせのような部屋を紹介したのに、喜んで頭を下げる少女が気味悪く、必要事項を告げると早々に本殿へと返っていった。

一つ、離宮の外に出てはいけない。

一つ、お世話をするメイドは朝と夕方のみ来るので、何かあればその時に申し付けること。

一つ、必要事項以外を王宮の人と話してはいけない。

一つ、出産後は速やかに王宮を去る事。

これらの事を言われたが、少女にはなんてことなかった。離宮には中庭があり、外の空気が吸いたければそこで過ごせばよかったし、自身のお世話をしてくれる人が朝と夕に二度も来てくれるとは思ってもみなかった。

リオンと暮らしていても一日誰とも話さない事はざらにあったし、出産後の事は元から承知していたことだった。

きっと貴族などの娘であったらこの待遇に対して怒り狂ったのだろうが、幸か不幸か少女は今までがひどすぎたので王宮側の嫌がらせに気が付かなかった。

むしろ生まれて初めて持つ自由で快適な生活に感謝をささげたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

処理中です...