帝国の双子 ~凶星の双子星は手を取り合って懸命に生き抜く~

月城 月華

文字の大きさ
上 下
19 / 21
4 悪夢の辺境伯領地観光

2

しおりを挟む

少し歩くと、元はしっかりした家だったのだろうが、修繕もされず、扉が外れかけていたり、窓の一部が壊れている家が立ち並んでいる。

道の真ん中を歩く彼らを家の軒に身を寄せている人々が黒々とした瞳で見つめていた。

「おねーた、おにーた」

壊れかけた家の一つからトテトテと歩いてきた三歳ぐらいの女の子が二人の目の前までやってきてそっと袖を引いた。

「にゃにか、ちょーらい」

しょぼんとお腹をさすって首を傾げておねだりする女の子の可愛さに悩殺されたレリアとコリアは慌てて何かないかポケットを探った。

おろしたての上着のポケットに何も入ってない事を知っているジェスは小さくため息をつき、自身の内ポケットから小さな飴玉を出してかがんで女の子に渡した。

「こちらをどうぞ、お嬢さん。ここで食べてしまいなさい」

「わかった、ありあとー!!」

ぱあっと明るい顔をして、その場で飴玉をほおばってから走り去っていった少女を見送ってから、ジェスはふうっと息を吐いた。

「レリア様、コリア様、こちらへ」

少し速度を速めてその場を通り過ぎるジェスに訝しみながらも、レリアとコリアもできるだけ速足で付いていく。

暫くして、コリアが付いてこれなくなったので、コリアをロナルドが、レリアをジェスが抱き上げて進むことになった。

「ねえ、ジェス、どうしてあの時、ため息をついたの?」

きょとんとした顔でレリアが尋ねる。

ジェスはレリアの方を見ず、速足で歩きながら苦い顔をした。

「……キリがないから、だよね……」

「コリア?キリがないって?」

「多分、この町の人、ほとんどが何らかの理由であの少女と同じく貧しいんだ」

「えっ?」

レリアが驚きの声を上げた。曲がりなりにも、ここは広大な辺境伯の領地。スタンピードがあったといえど、数年前まで一番に栄えていたはずの町だ。

ロナルドが苦い顔をして頷いた。

「そう、コリア様の言う通りだ。付け加えるなら、善意の施しでも、施せるほどにものを持っている奴は狙われる」

「なに、それ。めちゃくちゃ物騒じゃない!!」

憤るレリアに、ロナルドとジェスは顔をしかめて頷いた。

「この先に駐屯所があります、本日の目的地はそこです」

駐屯所があるのにこの有様なのか、と疑問は尽きなかったが、ジェスとロナルドが歩き出したことで、とりあえずこの話は棚上げとなったのだった。





「ジェスさんにロナルドじゃねえか。久しぶりだな……、今日は何の用だ?」

駐屯所に付くと、茶けた赤髪に鋭い眼光、顔に無数の傷がある大柄な男が一行を出迎えた。もっとも、出迎えた、というにはいささか好戦的ではあったが。

「やめろ、ルーズベルト。ジェスさん、ロナルドさん、すまないな。最近忙しくてリズも気が立っていてね……ん?そちらのお嬢さんたちは?」

「リズって誰かしら?」「ルーズベルトさんのことじゃない?」「ああ、ずいぶんと可愛らしい愛称なのね」

「聞こえてるぞ、クソガキども」

「まあまあ、リズ。子供の言うことだぜ。大人げない」

「お前に言われる筋合いはねえよ、いけすかねえロナウド」

バチバチと目から火花を散らせ始めた二人を笑顔でスルーし、黒に近い青の髪を持つ若い男がレリアとコリアに近づいてきた。ジェスもにこやかに迎える。

「お久しぶりです、シャロック団長。相変わらずお若く見えますね」

「よしてください、ジェスさん。俺はもう三十はとうに過ぎましたし、おとこやもめですよ」

どう見ても二十台前半にしか見えないその容貌をレリアとコリアはまじまじと見つめた。

「で、ジェスさん、この好奇心旺盛な子供たちは?」

「紹介いたします。この辺境伯家の跡継ぎのお二人、レリア様とコリア様です」

シャロック団長の目が見開かれる。

「それは、それは……「てめえ、ふざけんなよ!!これ以上この地に、災いを呼ぶ気か!?忌み子なんてつれてくるな!!」

叫ばれたその内容に、レリアとコリアははっと息を飲んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

処理中です...