彼氏彼女の大冒険

紅美

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夏を凌ぐ知恵

凡夫の自力より

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「なんだか、気持ち良さそうな部屋着を着てたよね、キモノガウンのショートジャケットみたいな」

「うん、ショートパンツとのセットアップになってるんだよ、『甚平』というらしい。彼女がお揃いで買ってくれたんだ」
「お揃い?  ロイ君との?」
「いや、彼女とのお揃いだよ。ロイも持ってるらしいけど、外出着じゃないから、一緒に着るチャンスもないな。
   彼女はユカタが欲しかったらしいんだけど、ユカタは、日本風のバスローブみたいなものだから、昼間から外出するには向かないし、裾がはだけると、ムダにセクシーだろ?  男物の甚平でも良かったらしいんだけど、たまたま、女性用にアレンジしたのが見つかって飛びついたんだそうだ。
  彼女と知り合った頃、夏場は仕事から帰宅してシャワー浴びた後に、部屋着としてのTシャツ・短パンに着替えて近所の川沿いの遊歩道を散歩する習慣だったんだけど、そういうの『夕涼み』と呼ぶらしいんだ、日本では。
    ユカタはそういう場面で身につけて縁台に座って将棋を指すのが王道的な過ごし方らしい。ユカタを着慣れた、自分なりに着崩したりできる大人の日本人男性なら、粋になるんだろうけど、そういうお手本となる人物には恵まれなかったから」
「いるだろう、彼女の家に」
「うん、和也さんは理想的なモデルだよ。日本社会に馴染んで過ごすことが優先事項ならね。花火見物に出かけたり、近所の銭湯に行く気なら、きっと付き合ってくれたと思う」

「でも彼女との散歩に出かけてた?」
「虫よけスプレーと日傘を持ち歩いてね」
「夜の散歩にパラソル?」
「晴雨兼用なんだって言ってた、東京方面はゲリラ豪雨と言われるにわか雨が多いから」
 
「東京の夏の暑さは経験したけど、殺人的だな。ニューヨークも暑いけど、スチームサウナ状態なのはどっちもキツい」
「アフリカ大陸の気温が高い夏を知っている自分ですら、日本は暑いと感じるよ。特に彼女が引っ越してロイに出会えた街はさらに暑くてびっくりした」

「東京から、そんなに離れてなかったんだろ?」

「都内からの距離は、自分の家の方とそう変わらないはずだったけど、日本一の暑さを記録したとニュースにもなる街の隣だけあって、気合いの入った暑さだったんだ。ニューヨークも鉄板の上にいるみたいな暑さとまで言われるらしいと聞いて覚悟して来たけど、暑さの質が違うね」
「白人警官が、黒人をとりおさえる時に絞め殺しちゃう暑さのはずだけどな」

「スパイク・リーの映画は繰り返し観たよ。彼女がいろんな意味で観せたがったからね。冒頭の『起きろ~!』という叫びを聞かせたかったみたいだった」

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