彼氏彼女の大冒険

紅美

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歓迎〜ボーイミーツガール

脚の長いピーターパン

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コン、コン、コン
   朝、ドアをノックされる音で起こされるなんて、実家にいたとき以来だな。
コン、コン


「起きてる? 朝ごはんに行くわよ!」
「は~い、起きてるよ」
 と返事しながら、ドアを開けてノックの主を見ると、やっぱり背が低い。子どもか!?
「シャワー浴びて、顔洗って来て。朝からフェイスマスクする習慣なの?  ヒゲは剃ってね、自分でできる?」
    こりゃ、マム以上だな。
「もちろん、シェーバーは昨晩買ってもらったし、シャワールームの洗面所の鏡の前で、自分でするから御心配なく」
  と、バスルームに行くと、タオルとバスローブ持って追っかけて来る。
「シャワー浴びるんだろ? 服脱ぐから出てってくれないか?  それとも裸見たいから付いて来たの?」

「まぁ、見せてくれるなら、見せてもらうわよ、インスタで出さないところまで。見るだけで済まないかも知れないけどね」
「へぇ、期待しちゃうなぁ。まだご主人、まだ出勤してないんだろ?」
「何言ってるの、人妻に⁈」
「シャワーは1人で浴びさせてくれ。
   自分もドレッサーの前ですることあるんじゃない?」
「御心配ありがとう」
  やっと下着脱いで、シャワーだ。
  昨日の夜は帰りのクルマの中で、ずっとあれこれ聞かれて、迎えのご主人にも聞かせてたらしく、答える毎に日本語に訳してるのを待って次の質問が来ては、わからない様子だと同行のイケメンが英語での言葉を足していく流れで、たっぷり半生記が書けそうな情報を喋らされた。
  文句を言うもんなら、初対面の外国人男性を自宅に泊めるに当たり、家主にも納得いくように、身許を確認しないといけないって反論されたから、ポリスのとこに戻りたくないだけの為に我慢して返事して話してた。
「医療保険の契約番号?  そんなことまで覚えてないよ。事務所で加入してる保険があるはずだけどね」
「えぇっ⁈  海外出張中の医療保険に加入してないの?」
「そんなのがあるの?」
「あるわよ、日本は世界に冠たる国民皆保険制度があるから、海外での医療を受ける時の費用がかかるの、みんなが不安がるの。衛生的な日本の水道水のつもりで、外国でシャワー浴びた時の顔にかかった水を飲み込んで、お腹を壊す人だっているんだから」


   日本人は、安全と水はタダだと思っているらしいとは聞いたけど、どんだけ呑気なんだ、駅の自動改札機ではしゃいでいる外国人(オレだ)を見てポリスを呼んじゃうだけはあるなぁって感じだ。 
 それを隣の席のイケメン(名前を教えてもらった。DZというらしい)に伝えると、我が意を得たりという顔になったから、日本人に混ざって滞在して長い彼も日々感じているんだろう。
   名前を言ったときに「モリーと市場で出会って結婚はしてないけどね」というのも、日本人の英語を話す奴には鉄板ギャグらしい。
   ビートルズのオブラディ・オブラダの歌詞の始まりがデズモンドとモリーは市場で出会い…だからだろう、日本人は真面目で英語をビートルズで学ぶらしい。
   さらに、だからヒップホップを子守歌代わりに育ってきたニューヨーク出身のネイティヴ(俺だ)の発音は聞き取れないと大真面目に苦しい言い訳をするらしい(と咲夜のイケメンに聞いた)。
 で、シャワーは済ませたから、洗面所で鏡見ながらシェービングだなぁ、シェービングクリームやらひげ剃りは、用意してもらえたし。
  と、鏡の前に立ってたら、浴室のドアをノックされた。
「なにか用? 支度しなきゃいけないんだろう?」
「支度しながら聞いて、昨夜は遅くて聞かなかったけれど、スポーツジムに行きたいかもと思って。行くなら、私たちが行ってるジムにビジターで行けるか、確認してみるわ」
「嬉しいけど、住宅街の御近所さんが集まるジムにいきなり大柄な黒人男性が登場して大丈夫かな?」
「現役の売れっ子モデルのボディが見られて主婦が大騒ぎするかもしれないわね、インストラクターが嫉妬して拗ねるからやめてくれ、って言われちゃうかも」
「君たちご夫婦と一緒より、君のバックダンサー氏との同行はどうかな?」
「バックダンサー? DZは踊れないわよ、私もマドンナじゃないし。双子のコメディアンの振りでもするの?」 
「双子のコメディアンになれるほど似てないよ、君ら日本人には、アフリカ系は同じ顔に見えるのかもしれないけどね」
「あなた方アメリカ人にとって、日本人始めアジアのチャイニーズもコリアンもみんな同じ顔に見えるのと同じようにね」
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