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二十九話
しおりを挟むあれからまた時が経ちレイとルミは十五歳になる。
今年から学園に通う事になるのだ。
レイは学園に入ると同時にナルファス家の養子になると聞いた時はかなり驚いた。
「どうしてもやりたいことがあるんです」
そう言った時のレイの真剣な顔は今でも忘れられない。
それほどの事なら私が引き止めることも出来ないしする気もない。レイには自由に生きて欲しい。もちろんルミにもだ。寂しいしこれからのようにはいられないだろうと思うと悲しかったが私は「出来るといいね!」と笑顔で返した。
そして今日二人は学園に入る。
レイもつい先日、レイ・ナルファスへと名前が変わった。
「ベルティア様、学園に入るとしばらく会えなくなってしまいます」
二人はしゅんとしてしまった。レイに関してはナルファス家に入ったのでもっと会えないだろう。
「二人にこれあげる」
私はそう言ってそれぞれにハンカチーフを渡した。
レイは紫、ルミは黄色だ。魔法のイメージ色という安直な選び方だが許して。私にはこれくらいしか思いつかなかったのだ。
「刺繍とか出来たらよかったんだけど失敗しちゃったから…その…」
私は不器用…、これは魔法だけではないのだよ。手先を使う作業も全然ダメだった。
刺繍をすれば布がボソボソになり絵を描けば地獄の様な事になる。
先生方にも見捨てられた…。
なぜ私はこうも残念なのかと落ち込んだ。
「失敗したものは捨ててしまったんですか」
レイは謎のことを聞く。そんな事聞いてどうするんだ。まあ、一応残っているので「あるよ」と答えれば目を輝かせた。
えっ、なに…。何その目は…。
「僕それも欲しいです」
「はい?」
何を言っているのだね、君は。本当にやばいのだぞ。人には見せらない出来なのだぞ。いや、ホントに。
「それなら私も欲しいです」
ルミまで何を言いだすんだ。しかし二人のキラキラした視線に耐えきれず私は渋々その布を取りに行く。あれはもはや布だ。いや、ただの布ではないボロ布だ。
何度も針を刺した後があり布も悲惨な事になってしまった。布がもったいない、ごめんなさい。
「これ、なんですけど…」
めちゃくちゃ恥ずかしい。そう思いながらも二人に手渡す。
「これ、僕たちを思って刺してくれたんですよね」
「ええ、まあ」
「なら、やっぱり欲しいです!」
私から奪い返されないうちに二人はポケットにしまってしまった。
君たちはボロ布収集者なのかねと思ってしまった。
「えへへ、ベルティア様の手作り。嬉しいです」
「二人とも絶対それ他の人には見せないでよ」
そんなもの見られたら終わりだ。レイとルミにボロ布を押し付ける最低なやつに認定されてしまう。それは勘弁してほしい。
そう思い念をおす。ちょっとやめてよ二人して宝物にしますとかいいから。
三人で戯れているとそろそろ出発という時間になり二人は馬車に乗り込む。
「手紙書きますから」
「私は長期休暇には絶対帰ります!」
ルミ絶対よと手を振る。
レイはナルファス家の方に行かないといけないのでこちらには帰って来れない。とても悲しそうにしているが私も悲しい。
「二人ならきっと大丈夫よ!学園生活楽しんでね」
来年は私も行くよと手をふる。
馬車が走り出し見えなくなるまで手をふった。
二人が学園に入ってしばらく経った頃、私はとても寂しい気持ちになった。手紙はくるし長期休暇になればルミは帰ってくる。しかしいつもそばに居る二人がいないのは辛い。二人が私の中でとても大きな存在になっていたことを改めて実感した。
「よし、二人に少しでも追いつけるように勉強する」
とりあえず何か別のことに熱中すれば気が紛れるのではないかと思い自分を高めることにした。
勉学は先生や自習によりそれなりに成果を出せた。とは言っても学園に入れば中の上くらいらしいが…いいの前世では下の下だったから。本当に微妙な出来の私である。
次は綺麗な刺繍を施したハンカチーフを贈れるように練習しまくったが成果は微妙であった。
そして魔法、これは極めたいと思い一番時間を割いたが全然ダメだった。流石に泣きそうである。
魔力ランクはB。Bなら中級魔法くらいなら使えるはずなのだが下級魔法すら不器用すぎて扱えない。でも私は諦めないぞ。
そうして過ごしていたらあっという間に一年が経ち私も学園に入学することになった。
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