21 / 37
二十一話
しおりを挟むある日家の中を歩いていると足取りがフラフラした侍女を見かけた。
「大丈夫?」
と声をかける。
「ベルティアお嬢様…。それが最近眠れなくて」
寝不足か。不眠症にでもなっているのだろうか。顔色も悪いしそこそこの期間眠れていないのだろう。このままでは身体に良くないだろう。
眠る時にリラックス出来ていないとか心配なことでもあるのだろうか。
ストレスか…。
不眠症の原因は様々だが精神的なものもある。
もし、そうならば…
「ということでレイやるわよ!」
「え、何をですか?」
「ベルティア様どうしたんですか?」
突然、さあやるぞと張り切りだした私をみてポカンとした表情をしているレイとルミ。
先程の侍女について説明する。
「あ、わかりました。レイの魔法ですね!」
「そう!」
ストレスの原因があるならばそれをどうにかしなくてはならないがまずは睡眠をとる事が大事だろうと私は思い提案した。
睡眠不足は心身ともに悪い影響を与えるだろう。
「でも、僕寝かせるための魔法なんて使ったことありませんよ」
「寝かせるというよりリラックスさせればいいのよ」
それに眠らせるという強制的な方法は極力取りたくない。まずは心をリラックスさせ自然な眠りを促したい。
寝る時に緊張していたり不安な事があったりすると眠れなくなる。
心を穏やかにするだけでかなり変わるだろう。
「なるほど…でも僕の魔法うけてくれますかね」
というより寝室に入れてくれないだろう。
だが私には考えがある。
「これをみよ!」
そう言って取り出したのは直径2、3センチの小さな石だ。
「魔石…ですか?」
その通り魔石である。魔石は魔力を込める事でその効果が発揮される。
込めた魔力により様々な効果を得る優れものだ。もちろん直接かけるより効力は弱まるが。
ちなみに魔道具にも使われている。むしろ魔石が入ってなければ魔道具は動かない。
「これにレイの魔力を込めてその侍女に押し付けるのよ!」
「上手くいきますかね」
少し心配そうにしているレイだが大丈夫と言い聞かせる。
「レイやってみようよ!」
とルミも後押しする。
二人で説得すると「わかりました」とやる気になってくれた。
レイは深呼吸をして魔石に魔力を込め始めた。しばらくするとふうと息を吐いて「終わりました」と魔石を渡してきた。
「さすがレイ」
成功するか心配で緊張していたが受け取ったら効果を発揮したのか緊張がほぐれた。
これは成功ではないだろうか。
「一応旦那様に聞いた方がいいと思います」
レイがそう言うのでそれもそうだねと父様の元へ向かった。
事情を説明すると手に取り調べだした。
「これは…」
父様は一瞬驚くもすぐににこやかになった。
「悪いものではないだろう。使っても良いが使いすぎには注意しておくように」
許可も出たので早速侍女の元へ急いだ。
侍女を見つけ声をかける。
「ねえ、これ上げるわ」
「何ですか、魔石…?」
まあ、説明も難しいので正直に話す。
下手な嘘をついて取り返しのつかない事になったら大変だ。
「レイの魔力を込めた物だけど」
「え!」
かなり怖がっている、受け取りたくなさそうだ。だが貰ってもらわなくては困るので続ける。
「安眠効果があるものよ…多分」
「多分ってなんですか!」
聞こえていたか…。
「不眠は不安などから来る場合があるわ」
特に一度眠れないと今日は眠れるだろうかと不安になりさらに眠れなくなる。負の連鎖だと説明する。
こういった時は一度寝るのを諦めて他のことをしてみたりするのもありだが今回はこれを使用してもらいたい。
「そこで、まず不安を解消するこの魔石!」
そう言って押し付ける。
「このまま眠れないと心身ともに参ってしまうわ。それなら一か八かでこれに頼ってしまうのも良いのでは?」
と畳み掛ける。
「藁にもすがりたいのでは?」
そう言えば…
「わかりました…」
そう言って受け取った。結構限界だったようだ。
早速使ってみますと言ってフラフラと行ってしまった。
「ちゃんと夜に寝るのよ~」と言っておく。
さて効果は出るだろうか。
まあ、不安などの気持ちの問題ではなくカフェインの取りすぎだとか怪我や頻尿だとかの身体的原因などだったら効果はないだろうけどね…。
ストレス!と思い込んでだけどそちらの可能性もあることを渡した後に思い出すのであった。
次の日、不眠の侍女がやってきた。
「ぐっすり眠れました!」
とても嬉しそうに報告してくれた。
どうやら上手くいったらしい。原因は精神的なものだったようだ。
「本当?よかった」
でもこれに頼りすぎてはいけないと言っておく。ストレスならば出来る限りそれを取り除く。生活のリズムを整えるなど生活習慣を見直すように言っておく。
極力使わない方向にするように。
「あの、レイはいます?」
「レイ?お茶の用意をしてくれているからもう少ししたら来るんじゃないかしら」
「そうですか…」
ソワソワしだした彼女は来るまで待っても良いかと聞いてきたのでどうぞと了承した。
「ベルティア様お茶をお持ちしました」
レイとルミが戻ってきた。
「あの…レイ」
侍女が声をかけるとルミがレイの前に立とうとする。
「レイに何か?」
何か嫌なことでも言われるのかと思ったのだろう。しかしそんな心配をよそに彼女は何と頭を下げた。
「今までごめんなさい!」
「え?」
その行動に驚いた私たちは一瞬固まった。
「昨日この魔石を持ったらすごく不安だった気持ちが急に引いたの。そしたら眠れたわ」
「それは良かったです」
「本当に今まで酷いこと言ったりしてごめんなさい」
再び頭を下げようとするのをレイが止める。
「いいんです。僕にはベルティア様が…ベルティア様とルミがいてくれたんで」
それに誰だって得体の知れないものは怖いと思うのは仕方がないと言ってレイは許した。
「ありがとう…」
そう言って侍女は下がった。
最後にレイは怖くないって…私の救世主って広めておくわね!と残していった。
彼女はリーダー格なので影響力はあるだろう。
それからしばらくするとレイの魔法が認めれるようになっていった。
ちなみに彼女の不眠の原因は痴情のもつれでストレスが溜まっていたらしい。
しかも職場内でのことらしい。つまりこの家の中でだ。やめてくれ。
それにその理由なら解決したら自然と眠れていたのではと思う。
まあ、レイの魔法は悪いことばかりではないと証明するきっかけになったと思って良しとする。
0
お気に入りに追加
551
あなたにおすすめの小説
公爵夫人の微笑※3話完結
cyaru
恋愛
侯爵令嬢のシャルロッテには婚約者がいた。公爵子息のエドワードである。
ある日偶然にエドワードの浮気現場を目撃してしまう。
浮気相手は男爵令嬢のエリザベスだった。
※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
無愛想な婚約者の心の声を暴いてしまったら
雪嶺さとり
恋愛
「違うんだルーシャ!俺はルーシャのことを世界で一番愛しているんだ……っ!?」
「え?」
伯爵令嬢ルーシャの婚約者、ウィラードはいつも無愛想で無口だ。
しかしそんな彼に最近親しい令嬢がいるという。
その令嬢とウィラードは仲睦まじい様子で、ルーシャはウィラードが自分との婚約を解消したがっているのではないかと気がつく。
機会が無いので言い出せず、彼は困っているのだろう。
そこでルーシャは、友人の錬金術師ノーランに「本音を引き出せる薬」を用意してもらった。
しかし、それを使ったところ、なんだかウィラードの様子がおかしくて───────。
*他サイトでも公開しております。
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる