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第2章 波乱
第23話 覚醒
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フワフワフワ......何だか宙を浮いてるような感触。雲の上を歩いてるみたい。段々と意識は薄れていき、目の前がどんどん暗くなっていく。多分だけど......私の脳がこれ以上の重労働に耐え切れなくなって、自らブレーカーを落としたんだと思う。何かスウッと意識が遠退いてって、ちょっと気持ち良かった。
それはそうと......この後、私と琢磨君は何事も無かったかのように、また元通りの関係に戻って行くんだろうか? 因みに琢磨君はさっき『また二人でやり直そう!』って言ってくれてた気がするけど。
その後直ぐに私は貧血で倒れちゃったから、返事は出来ず仕舞いだった。もし私の意識がしっかりしてたなら、『こちらこそ宜しく!』って笑顔を振り撒けたんだろうか......
目を閉じ、耳を閉じ、漸く冷静に物事を考えれるようになって来た私......思い返せば、琢磨君は美也子のメールを疑いもせずにそのまま信じてしまった。そして私もまた、美也子のLINEをまともに信じてしまった。
それって......本当に私達は信頼し合ってたって言えるんだろうか? 何かちょっと違う気がする。だからって別に今回の一件で琢磨君を嫌いになった訳じゃ無い。今だって彼のことは大好きだし......
ならば、多少のギクシャク感は残るにせよ、私と琢磨君は元通りの彼氏彼女の関係へ戻っていく筈だ。でもはっきりとそう言い切れない自分が居たりもする。何だか頭の中がモヤモヤして仕方が無い。
正直......その理由はよく分かってる。それはあんなにも失礼で、あんなにもデリカシーが無くて、あれ程までにぶっきらぼうで、そして呆れる程に私を守り抜いてくれた、あの人のせいなんだと思う......
やがて私は、そんな二人の顔を脳裏に浮かべながら、深い眠りに就いていったのでした。スヤスヤスヤ......
※ ※ ※ ※ ※ ※
一方、取り残された三人はと言うと......
「きっと心身共に疲れ切ってたんじゃないか」
喜太郎曰く。
「結衣は元々貧血持ちだった。持病だな」
琢磨曰く。
「早く......良くなって欲しい」
美也子曰く。
結衣の静かな寝顔を見て、胸を撫で下ろしていたのである。すると思い出したかのように、
「そうだ......これ、受け取るんだろ」
喜太郎はシワシワとなった『荷物』を琢磨に手渡した。『Paul Smith』だ。
「ああ、もちろん」
琢磨はそんな『荷物』を両手で大事に受け取ると、丁寧にリボンをほどいていく。するとその中から真っ先に飛び出して来たものと言えば、
『琢磨君へ、胸いっぱいの愛を込めて。結衣』
そんなメッセージカードだった。
「結衣......」
「マドモアゼル......」
「ごめん......」
うっすらと目に涙を溜める三人。それはきっと、それぞれがそれぞれ違った想いで浮かべた涙だったのだろう。
「琢磨氏......こんな無邪気でいい子、なかなか居ないぜ」
「確かに......俺もそう思う」
「もう、二度と泣かせるなよ」
「分かってるって......」
「うっ、うっ、うっ......ごめん、結衣」
「美也子さんって言ったな......結衣さんは優しい人だ。時間が経てば、またきっと『大好きな親友』って呼んでくれと思うぜ。それまでは我慢だな」
「う、うん......」
時間が経つのは早いものだった。四人がこの部屋で顔を付き合わせてから、既に一時間近くが経過している。置時計の針は24時を指していた。
「おっと......俺はそろそろお暇させて貰うぜ。まだ店の片付けが残ってたんだ」
「あたしも終電無くなっちゃうから......」
思い出したかのように身支度を始める来訪者の2人。別に急いではいなくとも、早く帰れと言う空気を敏感に感じ取ったのだろう。
「早速、月曜はこの『Paul Smith』で出社させて貰おう」
バリバリのネクタイと、ピカピカのネクタイピンを見詰めながら、しみじみと語る琢磨だった。
「結衣さんきっと喜ぶと思うぞ。俺からも礼を言わせて貰う。じゃあ......これで。後のこと、宜しく頼むぜ」
「こんなこと言える立場じゃ無いけど......結衣のこと、宜しくね」
「任せといてくれ」
琢磨に軽く会釈して二人が立ち去ろうとすると、
「喜太郎さん!」
突如琢磨が呼び止める。
「なんだ?」
一方、慌てて動きを止める喜太郎。一体、この後琢磨が何を言い出すのかと思えば、
「本当に......これでいいのか?」
そんな思いもよらぬ質問だったのである。その時、喜太郎の身体は心なしか震えていたようにも見えた。
「だから......俺はただの通りすがりだって言ってるだろ。俺には俺の帰りを待っててくれてる人がいる。深読みするなって。それじゃあ、失敬」
そんな雑な言葉を投げ付けると、振り返ることもせずに、タッ、タッ、タッ......颯爽と飛び出して行く喜太郎だった。
一方、琢磨と美也子は自然と顔を見合わせていた。
「喜太郎さん、奥さんが居たようね。左の薬指にリングしてたわ。でも良かったじゃない、安心したでしょ?」
何か少しがっかりしたような表情を浮かべる美也子。もしかしたら、喜太郎にロックオンしていたのかも知れない。
「いや、全くその逆だ。あれは完璧に結衣に惚れてる顔だ。俺は男だから男の気持ちがよく分かる。今のは精一杯のやせ我慢で間違い無いだろ」
「ふ~ん、そんなもんなのかねぇ......でもまぁ、どうでもいいわ。それじゃあ、あたしもこれで。結衣に宜しくね。熱い夜を過ごして。バ~イ!」
そして、美也子も喜太郎の後を追うように、あっさりと消えて行ったのでした。
結衣......まさかお前もそうなのか?
ソファーで静かに眠る結衣の顔を見詰めながら、妙な胸騒ぎが止まらない琢磨。今直ぐにでも起こして、聞き正したい気持ちだったに違い無い。
結衣は喜太郎のことをどう思っているのか?......それはこの後、本人が目を覚ませば直ぐに分かること。別に焦る必要も無い話だったのである。
それはそうと......この後、私と琢磨君は何事も無かったかのように、また元通りの関係に戻って行くんだろうか? 因みに琢磨君はさっき『また二人でやり直そう!』って言ってくれてた気がするけど。
その後直ぐに私は貧血で倒れちゃったから、返事は出来ず仕舞いだった。もし私の意識がしっかりしてたなら、『こちらこそ宜しく!』って笑顔を振り撒けたんだろうか......
目を閉じ、耳を閉じ、漸く冷静に物事を考えれるようになって来た私......思い返せば、琢磨君は美也子のメールを疑いもせずにそのまま信じてしまった。そして私もまた、美也子のLINEをまともに信じてしまった。
それって......本当に私達は信頼し合ってたって言えるんだろうか? 何かちょっと違う気がする。だからって別に今回の一件で琢磨君を嫌いになった訳じゃ無い。今だって彼のことは大好きだし......
ならば、多少のギクシャク感は残るにせよ、私と琢磨君は元通りの彼氏彼女の関係へ戻っていく筈だ。でもはっきりとそう言い切れない自分が居たりもする。何だか頭の中がモヤモヤして仕方が無い。
正直......その理由はよく分かってる。それはあんなにも失礼で、あんなにもデリカシーが無くて、あれ程までにぶっきらぼうで、そして呆れる程に私を守り抜いてくれた、あの人のせいなんだと思う......
やがて私は、そんな二人の顔を脳裏に浮かべながら、深い眠りに就いていったのでした。スヤスヤスヤ......
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一方、取り残された三人はと言うと......
「きっと心身共に疲れ切ってたんじゃないか」
喜太郎曰く。
「結衣は元々貧血持ちだった。持病だな」
琢磨曰く。
「早く......良くなって欲しい」
美也子曰く。
結衣の静かな寝顔を見て、胸を撫で下ろしていたのである。すると思い出したかのように、
「そうだ......これ、受け取るんだろ」
喜太郎はシワシワとなった『荷物』を琢磨に手渡した。『Paul Smith』だ。
「ああ、もちろん」
琢磨はそんな『荷物』を両手で大事に受け取ると、丁寧にリボンをほどいていく。するとその中から真っ先に飛び出して来たものと言えば、
『琢磨君へ、胸いっぱいの愛を込めて。結衣』
そんなメッセージカードだった。
「結衣......」
「マドモアゼル......」
「ごめん......」
うっすらと目に涙を溜める三人。それはきっと、それぞれがそれぞれ違った想いで浮かべた涙だったのだろう。
「琢磨氏......こんな無邪気でいい子、なかなか居ないぜ」
「確かに......俺もそう思う」
「もう、二度と泣かせるなよ」
「分かってるって......」
「うっ、うっ、うっ......ごめん、結衣」
「美也子さんって言ったな......結衣さんは優しい人だ。時間が経てば、またきっと『大好きな親友』って呼んでくれと思うぜ。それまでは我慢だな」
「う、うん......」
時間が経つのは早いものだった。四人がこの部屋で顔を付き合わせてから、既に一時間近くが経過している。置時計の針は24時を指していた。
「おっと......俺はそろそろお暇させて貰うぜ。まだ店の片付けが残ってたんだ」
「あたしも終電無くなっちゃうから......」
思い出したかのように身支度を始める来訪者の2人。別に急いではいなくとも、早く帰れと言う空気を敏感に感じ取ったのだろう。
「早速、月曜はこの『Paul Smith』で出社させて貰おう」
バリバリのネクタイと、ピカピカのネクタイピンを見詰めながら、しみじみと語る琢磨だった。
「結衣さんきっと喜ぶと思うぞ。俺からも礼を言わせて貰う。じゃあ......これで。後のこと、宜しく頼むぜ」
「こんなこと言える立場じゃ無いけど......結衣のこと、宜しくね」
「任せといてくれ」
琢磨に軽く会釈して二人が立ち去ろうとすると、
「喜太郎さん!」
突如琢磨が呼び止める。
「なんだ?」
一方、慌てて動きを止める喜太郎。一体、この後琢磨が何を言い出すのかと思えば、
「本当に......これでいいのか?」
そんな思いもよらぬ質問だったのである。その時、喜太郎の身体は心なしか震えていたようにも見えた。
「だから......俺はただの通りすがりだって言ってるだろ。俺には俺の帰りを待っててくれてる人がいる。深読みするなって。それじゃあ、失敬」
そんな雑な言葉を投げ付けると、振り返ることもせずに、タッ、タッ、タッ......颯爽と飛び出して行く喜太郎だった。
一方、琢磨と美也子は自然と顔を見合わせていた。
「喜太郎さん、奥さんが居たようね。左の薬指にリングしてたわ。でも良かったじゃない、安心したでしょ?」
何か少しがっかりしたような表情を浮かべる美也子。もしかしたら、喜太郎にロックオンしていたのかも知れない。
「いや、全くその逆だ。あれは完璧に結衣に惚れてる顔だ。俺は男だから男の気持ちがよく分かる。今のは精一杯のやせ我慢で間違い無いだろ」
「ふ~ん、そんなもんなのかねぇ......でもまぁ、どうでもいいわ。それじゃあ、あたしもこれで。結衣に宜しくね。熱い夜を過ごして。バ~イ!」
そして、美也子も喜太郎の後を追うように、あっさりと消えて行ったのでした。
結衣......まさかお前もそうなのか?
ソファーで静かに眠る結衣の顔を見詰めながら、妙な胸騒ぎが止まらない琢磨。今直ぐにでも起こして、聞き正したい気持ちだったに違い無い。
結衣は喜太郎のことをどう思っているのか?......それはこの後、本人が目を覚ませば直ぐに分かること。別に焦る必要も無い話だったのである。
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