LA・BAR・SOUL(ラ・バー・ソウル) 第1章 プロローグ

吉田真一

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第2章 波乱

第21話 ブロック

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「な、な、な、な、なに?!」

「な、な、な、な、なんだって?!」

 同時に慟哭の叫び声を上げたのは、他でも無い。私と琢磨君だった。二人して身を乗り出し、白い正方形のテーブルが衝動でガタガタと揺れ出している。きっと地球が爆発して大地震が巻き起こってるんだろう。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ......今日の夕方、このメールを送って来たのは間違いなく結衣なんだよな?」

 すると琢磨君は、思い出したかのように慌ててスマホ画面を操作し始める。一体何を探してるんだろう? 

「こっ、これだ。このメールだ」

 私が身体を乗り出してそんな画面を覗き込んでみると、メールにはこんな文字が打ち込まれていた。


『好きな他人が出来ました。ごめんなさい、さようなら。結衣』


 送信時刻は今日の17時30分を示している。しかも送信したメルアドは間違いなく私のスマホだ。

「何これっ?! 私こんなメール送って無いわ! と、どう言うことなのよ?! いや......ちょっと待って」

 もしやと思い、私も慌ててスマホの操作を始めた。もちろん出したかったのは、例のLINE画面だ。

「ちょっと琢磨君、このLINE見て!」

 見れば私のスマホには、


『行こうと思ったけど、やっぱ止めとく。俺達、もう終わりにしよう』


 そんな文字が浮かび上がっている。

「おいおいおい、俺はこんなLINE送って無いぞ! こりゃあどう言うことなんだ?! まさか......お前なのか?」

 慌てふためく私と琢磨君......気付けば二人して、互いの手を強く握り合っている。それはそれは、久方ぶりの暖かい感触だった。手に汗握ってたけどね。

「分かった......分かったわ。もう隠さない。全てを話すから......」

 多分そんな私と琢磨君の様子を見てて、逃げ切れないと観念したんだろう。一方、喜太郎さんはただ口を真一文字に閉じて、腕をがっしりと組んでいる。きっと喜太郎さんなりに、思うところが有ったんだと思う。

そして遂に! 美也子は最低、最悪なる大懺悔を始めたのでした。もう隠さない......その言葉を信じ、暫し耳を傾けることにしよう。

「結衣......あなたと琢磨君が付き合ってることを私が知らなかったとでも思ってるの? 暇さえ有れば事務所の中でもスマホで写真見てるし、最近妙に化粧も濃くなったし......因みにデートするなら並木道は止めて欲しいわ。あそこは私の通勤道なんだから。

 私はずっと前から琢磨君のことが好きだった......でもいつも遠目に見てるだけで、告白する勇気なんかは無かったわ。それが何よ! いきなり琢磨君と仲良くし始めちゃって。確かにあなたは親友、一番の飲み友達だしね。でもそれとこれとは別、どうしても許せなかった。琢磨君の心を奪ったあなたの存在をね......

 それで私は、ずっと結衣のタブレットを狙ってたの。これが無くなったら、結衣はきっと大変なことになる筈だから。でも中々それを行う勇気が無かったの。それで今日は琢磨君の誕生日。だから何とか今日中にそれを決行して、大事な二人の記念日をぶち壊しにしてやりたかった。

 そんなこと思ってる矢先よ、あなたは夕方タブレットをブリーフケースにしまって、ポーチ片手に化粧室へ行ったわよね。これから化粧直しを始める......あなたのニタニタした顔には、そんな文字がくっきりと浮かび上がっていたのよ。全く鈍感なんだから......」

「それで......その時に私のタブレットを抜き出した......そう言うことなのね」

 正直、話を聞いているだけでも、胸が締め付けられるような思いがしてくる。大好きだった美也子の口から出てる言葉だけに、一言一言が刃のように胸へ突き刺さってる。もうほんとにツラいわ......

「そう......その時はただそれだけのつもりだった。でもあなたの机の上を見たら、なんとスマホが置き去りになってるじゃない。しかも画面は点いたままだった。ロックが掛かるまでの時間設定が長過ぎるんじゃない? 

 この時あたしはふと思ったの。もし今あたしが結衣のスマホで琢磨君に別れようってメールを送ったらどうなるかってね。結衣は前にスマホでは殆どLINEだけでメールは使って無いって言ってたから、直ぐにはバレないと思ったわ。

 それともう1つ。もしこれが原因で2人が別れるようなことになったとして、私が有益な営業情報を琢磨君に上げれることが出来たなら、琢磨君はあたしに振り向いてくれるんじゃないか? なんて無茶苦茶なことを一瞬頭の中を駆け巡ってしまったの。落ち着いて考えれば、そんなの上手くいく訳無いって直ぐに分かるのにね......

 とにかくいつ戻って来るか分かんなかったし、考えてる時間なんて無かった。あたしは取り憑かれるようにタブレットを抜き去ると、メールで琢磨君に別れようって送ったの。

 その後直ぐに琢磨君のメールアドレスと電話番号をブロック設定したわ。直ぐに折り返されたらバレちゃうからね。でもあなたが戻って来ちゃったからLINEだけはブロック設定出来なかった。でもそれが、後々いい結果に繋がったんだけどね」

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