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第2章 波乱
第18話 通りすがり
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程なく会談の場は設定された。1LDKの真ん中に正方形の白テーブル。それを取り囲むようにして、東西南北それぞれに座布団が敷かれている。定員4名だ。
部屋に入るなり、喜太郎さんはキッチンの流し場に目を向けてた。まだ洗われていない食器、グラス類が無造作に投げ出されてる。それでその時、喜太郎さんは意味深な発言を繰り出したの。私の耳元でそっとね......
「マドモアゼル......もしかしたら俺達は飛んでも無い勘違いをしてるのかも知れない。流し場にグラスは一つだけ。美也子さんは突然ここに押し掛けて来た可能性が有る。でもまぁ......それもこの後分かることか......別に焦る必要も無い」
もう何がどうして何とやら......言ってることの意味が全く分からない。あらら、不味い。悩んでたら持病の貧血だ。フラ、フラッ......
「おっと、大丈夫か? マドモアゼル」
突然倒れそうになった私の身体をいち早く支えてくれたのは、やっぱ喜太郎さんだった。あちこち鋭い目付きで家の中を詮索しながらも、よくそんな私の不調に気付けたものだ。頭の中の思考と同じに、きっとこの人の視野も広いんだろう。
この時、琢磨君は一瞬、チッ! って言ってたような気がする。そう言えばさっき、琢磨君は私に『もう新しい男作ってたってことか』なんて言ってた気がするけど。その時の不愉快そうな顔を思い出せば、今の舌打ちと整合性が取れてるんじゃ無いかと思う。
もしかしたら、さっき喜太郎さんが言ってた『二人が私を誤解してる』の意味が、これだったのかも知れない。でもそれって、大きなお世話じゃない? 別の女作って一方的に振った張本人から言われる筋合いは無いわ......
その時私は『この人とはそう言う関係じゃ無いから。誤解しないで』なんて言い訳しそうになったけど、そこで無理矢理口を閉じた負けず嫌いなもう一人の私が居たりもした。
私だって負けて無い! きっと心がそんなギミックをアピールしたかったんだろう。まぁ、そんなこんなで......遂に私は、戦場の場へと足を踏み入れて行ったのでした。
※ ※ ※ ※ ※ ※
凍り切った空間の中、座した4人の顔は皆強ばっている。北側に喜太郎さん、南側に私、東側に琢磨君、そして西側に美也子、テーブルの周りはそんな陣形だ。
因みに、互いに誰もこの面談を強要していない。にも関わらず、今皆がここに座していると言うことは、それぞれがそれぞれの都合で、この面談を必要としていたことの証なんだろう。
北側 喜太郎
西側 美也子 □ 東側 琢磨
南側 結衣
私の正面に座す喜太郎さんは、なにやらブツブツ独り言を呟いてる。成り行きからして、喜太郎さんが司会者をやる筈だから、きっと今頭の中で流れを整理してるんだろう。ここからはすべて喜太郎さん頼り。何とか頑張って欲しいものだ。
一方右の琢磨君は、チラチラこっちを見て何か言いたそうなんだけど、私が怖い顔してるからそれを躊躇してるみたい。悔しいから敢えてこっちもそっぽを向いてるんだけどね。
とにかく今回の一件の主犯格だ。喜太郎さんにはこの後徹底的に彼を追及して欲しいと思ってる。
そんな琢磨君に対し、左の美也子は肩を竦めて小さくなってる。私の目には、そんな彼女の様子が少し不憫に思えてならない。きっと琢磨君のハニートラップに引っ掛かって、操られただけなんだと思う。
彼と付き合ってたことは彼女に話してないから、私は彼女を泥棒猫だとは思って無い。きっとタブレットを盗み出すことに同意しちゃったのも、魔が差しただけなんだと思うよ。
恋は人を盲目にする......それは誰もが陥る人間の最も弱いところ。だからちゃんと謝ってくれさえすれば、私は彼女を許そうと思ってる。
沈黙の中、そんな心理戦が繰り広げられているうちにも、遂に喜太郎さんは開幕の宣言を始めた。きっとシュミレーションが終わったんだろう。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「それでは始めさせて貰う。自分は影山喜太郎、ただの通りすがりの者だと思ってくれ。ちょっと縁があってこの桜木結衣女史の手伝いをしてる。
この会談の目的は、それぞれがそれぞれの主張を行い、それぞれが納得し円満解決することだ。そこを十分に理解した上で、この会談に挑んでくれ。
因みに、唯一第三者からの視線で見ることが出来るのは、この喜太郎だけだと思ってる。寄って『議長』はこの俺が適任だと思うんだが、それに異存は無いか?」
「ところで君は誰なんだ?」
By 東側 琢磨
「あなたは結衣とどう言う関係......なんですか?」
By 西側 美也子
「だから、ただの通りすがりだ」
By 北側 喜太郎
「私は彼を議長に指名します」
By 南側 結衣
「異議無しか?」
By 北側 喜太郎
「まぁ、いいだろう」
By 東側 琢磨
「......分かりました」
By 西側 美也子
最初は琢磨君も美也子も、喜太郎さんがこの会談に加わることに難色を示してたけど、私がきっぱり言い切ったら、直ぐに態度を軟化させた。やっぱ私に対し、引け目を感じてる証拠なんだろう。当たり前よ!
部屋に入るなり、喜太郎さんはキッチンの流し場に目を向けてた。まだ洗われていない食器、グラス類が無造作に投げ出されてる。それでその時、喜太郎さんは意味深な発言を繰り出したの。私の耳元でそっとね......
「マドモアゼル......もしかしたら俺達は飛んでも無い勘違いをしてるのかも知れない。流し場にグラスは一つだけ。美也子さんは突然ここに押し掛けて来た可能性が有る。でもまぁ......それもこの後分かることか......別に焦る必要も無い」
もう何がどうして何とやら......言ってることの意味が全く分からない。あらら、不味い。悩んでたら持病の貧血だ。フラ、フラッ......
「おっと、大丈夫か? マドモアゼル」
突然倒れそうになった私の身体をいち早く支えてくれたのは、やっぱ喜太郎さんだった。あちこち鋭い目付きで家の中を詮索しながらも、よくそんな私の不調に気付けたものだ。頭の中の思考と同じに、きっとこの人の視野も広いんだろう。
この時、琢磨君は一瞬、チッ! って言ってたような気がする。そう言えばさっき、琢磨君は私に『もう新しい男作ってたってことか』なんて言ってた気がするけど。その時の不愉快そうな顔を思い出せば、今の舌打ちと整合性が取れてるんじゃ無いかと思う。
もしかしたら、さっき喜太郎さんが言ってた『二人が私を誤解してる』の意味が、これだったのかも知れない。でもそれって、大きなお世話じゃない? 別の女作って一方的に振った張本人から言われる筋合いは無いわ......
その時私は『この人とはそう言う関係じゃ無いから。誤解しないで』なんて言い訳しそうになったけど、そこで無理矢理口を閉じた負けず嫌いなもう一人の私が居たりもした。
私だって負けて無い! きっと心がそんなギミックをアピールしたかったんだろう。まぁ、そんなこんなで......遂に私は、戦場の場へと足を踏み入れて行ったのでした。
※ ※ ※ ※ ※ ※
凍り切った空間の中、座した4人の顔は皆強ばっている。北側に喜太郎さん、南側に私、東側に琢磨君、そして西側に美也子、テーブルの周りはそんな陣形だ。
因みに、互いに誰もこの面談を強要していない。にも関わらず、今皆がここに座していると言うことは、それぞれがそれぞれの都合で、この面談を必要としていたことの証なんだろう。
北側 喜太郎
西側 美也子 □ 東側 琢磨
南側 結衣
私の正面に座す喜太郎さんは、なにやらブツブツ独り言を呟いてる。成り行きからして、喜太郎さんが司会者をやる筈だから、きっと今頭の中で流れを整理してるんだろう。ここからはすべて喜太郎さん頼り。何とか頑張って欲しいものだ。
一方右の琢磨君は、チラチラこっちを見て何か言いたそうなんだけど、私が怖い顔してるからそれを躊躇してるみたい。悔しいから敢えてこっちもそっぽを向いてるんだけどね。
とにかく今回の一件の主犯格だ。喜太郎さんにはこの後徹底的に彼を追及して欲しいと思ってる。
そんな琢磨君に対し、左の美也子は肩を竦めて小さくなってる。私の目には、そんな彼女の様子が少し不憫に思えてならない。きっと琢磨君のハニートラップに引っ掛かって、操られただけなんだと思う。
彼と付き合ってたことは彼女に話してないから、私は彼女を泥棒猫だとは思って無い。きっとタブレットを盗み出すことに同意しちゃったのも、魔が差しただけなんだと思うよ。
恋は人を盲目にする......それは誰もが陥る人間の最も弱いところ。だからちゃんと謝ってくれさえすれば、私は彼女を許そうと思ってる。
沈黙の中、そんな心理戦が繰り広げられているうちにも、遂に喜太郎さんは開幕の宣言を始めた。きっとシュミレーションが終わったんだろう。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「それでは始めさせて貰う。自分は影山喜太郎、ただの通りすがりの者だと思ってくれ。ちょっと縁があってこの桜木結衣女史の手伝いをしてる。
この会談の目的は、それぞれがそれぞれの主張を行い、それぞれが納得し円満解決することだ。そこを十分に理解した上で、この会談に挑んでくれ。
因みに、唯一第三者からの視線で見ることが出来るのは、この喜太郎だけだと思ってる。寄って『議長』はこの俺が適任だと思うんだが、それに異存は無いか?」
「ところで君は誰なんだ?」
By 東側 琢磨
「あなたは結衣とどう言う関係......なんですか?」
By 西側 美也子
「だから、ただの通りすがりだ」
By 北側 喜太郎
「私は彼を議長に指名します」
By 南側 結衣
「異議無しか?」
By 北側 喜太郎
「まぁ、いいだろう」
By 東側 琢磨
「......分かりました」
By 西側 美也子
最初は琢磨君も美也子も、喜太郎さんがこの会談に加わることに難色を示してたけど、私がきっぱり言い切ったら、直ぐに態度を軟化させた。やっぱ私に対し、引け目を感じてる証拠なんだろう。当たり前よ!
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