LA・BAR・SOUL(ラ・バー・ソウル) 第1章 プロローグ

吉田真一

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第2章 波乱

第12話 乗り込み

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「写真の一番右に写ってるのが琢磨君、その左の5人はみんな営業で、16時には帰って来てたけど、直ぐにWG(ワーキンググループ)の会議が有ったから、タブレットを盗み出すチャンスは無かった筈よ。真ん中の黒メガネかけたおじさんも営業だけど、もうとっくに退職しちゃってるから『白』。

 それでその左が私で、更にもっと左、エンジ色のパンプスを履いてる女子が事務の美也子。彼女は営業じゃ無いから全くの対象外よ。大好きな親友だしね。この写真に写ってない営業も大勢居るけど、課が違うからフロアーも別。少なくとも、今日の16時以降は誰も私のフロアーに来て無いから、これも『白』だと思う」

「琢磨とは随分離れて写ってるんだな」

「そりゃあそうでしょう。付き合ってること誰にも話して無いんだから。こう言う時はやっぱ意識して離れるようにしてるわ」

「なるほどね......大体分かった。それで次なる行動はと言うと......」

 喜太郎さんは何か確信を持ったようだ。目が獲物を狙った肉食獣のようにギラついている。きっとアドレナリンが全身を駆け巡ってるんだろう。

 そんな喜太郎さんが写真から目を離したその時のことだった。ギー、バタン。突如店の入口扉が開放を見せたのである。新客かと思いきや、

「宅急便で~す!」

 どうやら違ったようだ。見れば、某宅配業者の制服を纏った一人の若者が、ダンボール箱片手に微笑んでる。

「おう、ご苦労さん。仕事慣れて来たようだな?」

「はい、まだ新人なもんで給料安いですが、頑張ってます。『LA・BAR・SOUL』さんにはいつもお世話になってます!」

 宅配業者だけに、給料査定はきっと歩合制なんだろう。こんな時間まで配達やってるってことは、彼も稼ぐ為に必死なんだと思う。まだ産な感じが残るキャピキャピ青年だ。

「そっか、給料安いのか......なるほどね。ならちょっと相談なんだが......」
 
 すると喜太郎さんは届いた荷物に見向きもせず、彼の話の変なところに食い付きを見せた。上の空で受領書にハンコを押しながら、何やら耳元で囁いている。また何か毒吐いてなきゃいいんだけどね。

 因みに......喜太郎さんとは、まだ出会ってから一時間も経っていない。でも何となくだけど、顔の表情から頭の中で何を考えてるか分かるようになって来た気がする。これは何か謀を企んでいる......今の表情から、私は直感的にそんなことを感じ取っていた。少し怖い気がするわ。

「......を......お願い出来ないか?」

「んん......わ、分かりました。でも......直ぐに返して下さいね。バレると......不味いんで」

 言葉は断片的にしか聞こえて来ない。その話がタブレット奪還に関わる話なのか、全く関係無い話なのか、それすら分からなかった。

 そんなこんなで......宅配業者の青年は一回首を縦に振ると、少し迷いの表情を浮かべながらも外へと飛び出していく。直ぐに戻って来たかと思えば、何やら紙袋を抱え持っているではないか。

「はい、お代だ」

 そんな紙袋を受け取った喜太郎さんは、何だか一万円札渡して満足気な表情を浮かべている。一体あなたはこれから何をしようとしてるんでしょうか? 不気味、不気味......

「さぁ、今日はもう店閉めるぞ」

「え? まだ9時半よ。もう閉店にしちゃうの?」

「多分、客はもう来ないだろう。経費節減だ」

 ちょっと諦め早く無い? なんて思いつつも、この業界ではよく有ること? なのかと思って、あまり気にはしなかった。ところがこの後、喜太郎さんは私の想像を絶する飛んでも無いことを言い出したのである。その言葉とはなんと!

「琢磨の家に乗り込むぞ」

 だった。

「へっ?」

 目が点......漫画でよく見るそんな絵が、私の顔に乗り移った瞬間だったと思う。いきなりそこ行きますか?! なんて、頭に浮かんだことを私が口に出すよりも早く、

「さぁ、急いで支度するんだ。用が済んでタブレット捨てられちまったら終わりだからな。躊躇してる時間なんか無いぞ。早く着替えて」

「ちょ、ちょっとそんな......そ、それに着替えるって?!」

「いいから早く言われた通りにするんだ。俺は外に車回しとくから。いいな」

 タッ、タッ、タッ......喜太郎さんは一方的にそんな言葉を投げ付けると、一目散に店から飛び出して行ったのでした。


  ※ ※ ※ ※ ※ ※


 正直......犯人は誰だか分からない。ただ一つだけ間違い無く言えることがある。それは喜太郎さんが言ったように、用が済んだらタブレットが処分されてしまうと言うことだ。

 わざわざそんな証拠をいつまでも手元に置いておくバカは居ないと思う。もし私が犯人だったとしても、きっとそうするだろう。

 そう考えると、私に残された時間は僅かしか無いことになる。石橋を叩いて渡ってる場合じゃ無かった。でも、そんな行動を起こすことに対して、とにかく気が重い......涙が出て来る程に気が重かった。なんせさっき振られたばかりのその人に、全く違った理由で会いに行かなければならないのだから......

 神は乗り越えられない試練を与えることは無いと聞く。でも私に、そんな試練を乗り越えることが出来るのだろうか? 琢磨君が犯人であっても、そうじゃなくても、私に待ち受けてるものは地獄だけだと思う。

 もしかしたら、地獄以上の地獄が待ち受けてるのかも知れない。でも、もう行くしか無い。ここは、喜太郎さんに全てを託そう......

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