3 / 26
第1章 憂鬱
第3話 メール
しおりを挟む
すると、今度と言う今度はなんと、なんと、なんと!......その人だった。私は眼球が落ちんばかりに、2つの目を大きく見開く。そしてそんな目に写った文字と言えば......
行こうと思ったんだけど、やっぱ止めとく。俺達、もう終わりにしよう......
私は一瞬目を疑った。でも何度見直したところで、その文字が変わることは無かった。もしかして、私は悪い夢でも見てるの? いや、この千切れるような寒さも、今にも垂れ落ちそうな涙も現実だ。
う、う、う、嘘......そ、そんな......
それは正に、まだ僅かながらに灯されていたロウソクの火が、完全に消滅した瞬間だったと思う。気付けば頭はクラクラと揺れ始め、両の手はブルブルと震え出している。そしてそんな手の震えは、腕の付け根を通過し、更には声門へと波紋していった。
「す、すみません......キャ、キャ、キャンセルで......お、お願い......します」
それだけ言うのがやっとだった。取り乱しながらも、よく意思を伝えられたと思う。自分で自分を誉めてやりたい。
「分かりました......本来であればキャンセル料が発生するところですが、座席と料理の方は結構です。ただ事前にご予約頂いておりましたバースデーケーキの方は潰しが効かないもので......そちらだけは、どうしても費用が掛かってしまいます。保管しておきますので、お早めに取りに来て下さい」
「わかりました......」
きっと、私が悲劇のヒロインであることを悟ってくれたんだろう。『琢磨君、誕生日おめでとう!』なんてバースデーケーキを頼んでおいて、当日キャンセルともなれば、誰でも想像がつくと思う。この人は振られたんだってね......
うっ、うっ......溢れ出て来る涙。そしてそんな涙は、コートの中で大事に温めていたプレゼントに垂れ落ちていく。きっと私と共に、『Paul Smith』君も泣いてくれてるんだろう。
多分だけど、待ち合わせの時間に来てくれなかった時点で、私は何かを感じ取っていたのかも知れない。
なぜ離れつつあるあなたの心に、もっと早く気付けなかったんだろう......もしこんなことになる前に私が変わっていれば、今日あなたの顔を見ることが出来たのだろうか?......
残念ながら、今となってはいくらそんなことを考えたところで、答えが出る訳もなければ、未来が変わる訳も無かったのである。
無駄だとは思ったけど、琢磨君に電話をかけてみた。やっぱ案の定、出てはくれない。ならばLINEを送ってみようとも思ったけど、何と文字を打っていいか分からなかった。
ロウソクの火が消え落ちた私の心は暗黒の世界。小さな箱に閉じ込められてしまった私の心は、ここから出してと、もがき続けるしか無かった。
あ~あ、私......また一人になっちゃった。なんかもう......嫌になっちゃう。
※ ※ ※ ※ ※ ※
トゥルルル、トゥルルル......
私は親友であり、職場の同僚であり、また飲み友達でもあった美也子に電話していた。殆ど無意識。指が勝手に動いていたんだと思う。精神が崩壊し掛けてる私を、指が見かねて気遣ってくれたんだろう。ところが......
『電話に出れないか、電源が入っていないため掛かりません。ピーと言う発信音の後に伝言をどうぞ』......残念ながら、全く掛からない。美也子も琢磨君と同じだ。
それで結局、私は家で一人で晩酌することに決めた。と言うよりか他に選択肢が無かったと言う方が正しい。人を頼れなければ、もうアルコールに頼るしかない。今日の肴は、一緒に泣いてくれた『Paul Smith』君に決定だ。
フラフラフラ......飲んでもいないのに、私は涙を拭って千鳥足を始める。雪が頭の上に積もってることも気にならなかったし、幸せそうなカップルが羨ましくも思えなければ、痩せた野良猫を哀れに思うことも無かった。きっとこの時の私は、夢遊病者か幽霊だったんだと思う。やがて、
「おや?」
突如、私の足が勝手に停止を見せる。どうやら幽体離脱していた私の魂が、元サヤの身体に戻って来たらしい。
行こうと思ったんだけど、やっぱ止めとく。俺達、もう終わりにしよう......
私は一瞬目を疑った。でも何度見直したところで、その文字が変わることは無かった。もしかして、私は悪い夢でも見てるの? いや、この千切れるような寒さも、今にも垂れ落ちそうな涙も現実だ。
う、う、う、嘘......そ、そんな......
それは正に、まだ僅かながらに灯されていたロウソクの火が、完全に消滅した瞬間だったと思う。気付けば頭はクラクラと揺れ始め、両の手はブルブルと震え出している。そしてそんな手の震えは、腕の付け根を通過し、更には声門へと波紋していった。
「す、すみません......キャ、キャ、キャンセルで......お、お願い......します」
それだけ言うのがやっとだった。取り乱しながらも、よく意思を伝えられたと思う。自分で自分を誉めてやりたい。
「分かりました......本来であればキャンセル料が発生するところですが、座席と料理の方は結構です。ただ事前にご予約頂いておりましたバースデーケーキの方は潰しが効かないもので......そちらだけは、どうしても費用が掛かってしまいます。保管しておきますので、お早めに取りに来て下さい」
「わかりました......」
きっと、私が悲劇のヒロインであることを悟ってくれたんだろう。『琢磨君、誕生日おめでとう!』なんてバースデーケーキを頼んでおいて、当日キャンセルともなれば、誰でも想像がつくと思う。この人は振られたんだってね......
うっ、うっ......溢れ出て来る涙。そしてそんな涙は、コートの中で大事に温めていたプレゼントに垂れ落ちていく。きっと私と共に、『Paul Smith』君も泣いてくれてるんだろう。
多分だけど、待ち合わせの時間に来てくれなかった時点で、私は何かを感じ取っていたのかも知れない。
なぜ離れつつあるあなたの心に、もっと早く気付けなかったんだろう......もしこんなことになる前に私が変わっていれば、今日あなたの顔を見ることが出来たのだろうか?......
残念ながら、今となってはいくらそんなことを考えたところで、答えが出る訳もなければ、未来が変わる訳も無かったのである。
無駄だとは思ったけど、琢磨君に電話をかけてみた。やっぱ案の定、出てはくれない。ならばLINEを送ってみようとも思ったけど、何と文字を打っていいか分からなかった。
ロウソクの火が消え落ちた私の心は暗黒の世界。小さな箱に閉じ込められてしまった私の心は、ここから出してと、もがき続けるしか無かった。
あ~あ、私......また一人になっちゃった。なんかもう......嫌になっちゃう。
※ ※ ※ ※ ※ ※
トゥルルル、トゥルルル......
私は親友であり、職場の同僚であり、また飲み友達でもあった美也子に電話していた。殆ど無意識。指が勝手に動いていたんだと思う。精神が崩壊し掛けてる私を、指が見かねて気遣ってくれたんだろう。ところが......
『電話に出れないか、電源が入っていないため掛かりません。ピーと言う発信音の後に伝言をどうぞ』......残念ながら、全く掛からない。美也子も琢磨君と同じだ。
それで結局、私は家で一人で晩酌することに決めた。と言うよりか他に選択肢が無かったと言う方が正しい。人を頼れなければ、もうアルコールに頼るしかない。今日の肴は、一緒に泣いてくれた『Paul Smith』君に決定だ。
フラフラフラ......飲んでもいないのに、私は涙を拭って千鳥足を始める。雪が頭の上に積もってることも気にならなかったし、幸せそうなカップルが羨ましくも思えなければ、痩せた野良猫を哀れに思うことも無かった。きっとこの時の私は、夢遊病者か幽霊だったんだと思う。やがて、
「おや?」
突如、私の足が勝手に停止を見せる。どうやら幽体離脱していた私の魂が、元サヤの身体に戻って来たらしい。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
マクデブルクの半球
ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。
高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。
電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう───
「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」
自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。
virtual lover
空川億里
ミステリー
人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。
が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。
主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。
【R15】アリア・ルージュの妄信
皐月うしこ
ミステリー
その日、白濁の中で少女は死んだ。
異質な匂いに包まれて、全身を粘着質な白い液体に覆われて、乱れた着衣が物語る悲惨な光景を何と表現すればいいのだろう。世界は日常に溢れている。何気ない会話、変わらない秒針、規則正しく進む人波。それでもここに、雲が形を変えるように、ガラスが粉々に砕けるように、一輪の花が小さな種を産んだ。
月夜のさや
蓮恭
ミステリー
いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。
夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。
近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。
夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。
彼女の名前は「さや」。
夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。
さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。
その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。
さやと紗陽、二人の秘密とは……?
※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。
「小説家になろう」にも掲載中。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる