医食武同源 ~お江戸健康生活探求物語~

篁千夏

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【コラム】豆の効能

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本作は、医食同源という言葉に、武を加え、食と健康について考える作品ですが。
筆者は医者でも料理研究家でもございませんので、そこは雑多な寄せ集めの知識。
話半分かそれ以下で、眉に唾をつけつつお読みいただければ嬉しゅうございます。

昔から「大豆は畑の牛肉」と評価されますが、これはアミノ酸スコアの高さゆえ。
アミノ酸というのは、タンパク質の構成ユニットとなる、有機化合物の総称です。
要するに、このアミノ酸が複雑に絡み合って、タンパク質に成っているイメージ。
プロテインといっしょに、スポーツショップで売られていますが、お値段は高め。

タンパク質を分解するにはエネルギーが必要で、アミノ酸の方が吸収が早いです。
吸収しやすいように、一手間がかかっているので、その分お値段も高いんですね。
このアミノ酸が、その食品にどれぐらい含まれているかが、アミノ酸スコアです。
いろんな食品の、タンパク質の量と質とを比較するときに、便利な指標なのです。

さて、乾燥した大豆100グラムには、タンパク質が33.8グラムも含まれています。
いっぽう、牛肉の肩ロースには16.2グラムと、なんと大豆の半分以下の数値です。
ちなみに豚の肩ロースには17.1グラム、鶏のもも肉には16.6グラムが含まれます。
肉=タンパク質というイメージからすると、意外な数字ですね。まさに畑の牛肉。

でも、山がちで平地が少ない島国の日本では、牛や羊などを放牧するのは難しく。
ただ四方を海に囲まれた島国ですから、魚介類はとても豊富で、河川も多いです。
環境的に、魚が動物性のタンパク質になるのは、ある意味で必然だったのですね。
そして、人間と食べ物があまり被らない鶏が、補助的なタンパク源になりました。

この、人間と被らないというのは、実は大事です。豚は人間と食べ物が被ります。
食料が豊富にあるときには、残飯の始末役などとして、豚は重宝なのですが……。
これが飢饉のときには、豚は養えないのです。でも、牛や馬や羊はそうではない。
人間が食べられない草を食べるので、食料がほとんどバッティングしないのです。

平地が少ないので、大型哺乳類の牛馬は農業の、労働力として飼育されいました。
鶏は小型で、成長も早く、人間が食べないミミズや昆虫、米糠などを食べますし。
ただ、山中の地域や海から遠い地域だと、動物性のタンパク質は限られがちです。
日本の昔の食事は、タンパク質不足とカルシウム不足が、かなり顕著なのですね。

ただし日本人が大好きなお米のご飯、これが意外とアミノ酸スコアが良いのです。
炭水化物のカタマリに見えても、農水省のサイトでは、65点と評価されています。
また、やはり炭水化物が多そうな里芋も、アミノ酸スコアが84点と高い作物です。
大豆は言うまでもなく、アミノ酸スコアが100点です。まさに王者の貫禄ですね。

歴史的には、江戸時代初期の僧侶天海が、納豆が好物だったと伝わっていますね。
あの時代に108歳の長寿。クコの実を炊きこんだ飯と、納豆汁が好物だったとか。
落語界だと、昭和の古今亭志ん生が納豆好きで、一時期は納豆売もしていたとか。

米がそこそこアミノ酸スコアが良いため、昔の都市部の日本人は、米をどか食い。
そこに大豆を使った食品──味噌汁に豆腐に納豆などでなんとか補えちゃう面も。
日本人は副食が多いのは贅沢と考え、少ないオカズで飯を大量に食う生活でした。
でも、健康に良い豆腐も、毎日そればかりでは、身体にも良くないのは必然です。

質素倹約を進めた大名とか、一汁一菜で豆腐ばかりで、体調をくずすことも多く。
しかも、日本人はお酒も好きですからね。江戸っ子は、ほろ酔いの人も多数いて。
「火事と喧嘩は江戸の華」なんてのも、酔っぱらいが多かったから、喧嘩も増加。
慶應義塾大学を創設した福沢諭吉は、10歳にもならない内から飲酒していたとか。

昔は脳卒中が多かったのも、納得の食生活です。他にも塩分過多でビタミン不足。
とはいえ、日本人はこの環境の中で、食文化を育んで、独自の和食を育てました。
その良い部分は活かして発展させ、問題ある部分は反省して改善していくのが吉。
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