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【コラム】転び方と立ち方と総合格闘技

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本作は、医食同源という言葉に、武を加え、食と健康について考える作品ですが。
今回は、効率的かつ安全な立ち方について、少しばかりしてみとうございますね。
と言っても、書いている内容は、ブラジリアン柔術の基本的な技術でございます。

第1回のアルティメット・ファイティング・チャンピオンシップが開催されたが。
今から30年前の1993年のこと。それはまさに、格闘技界の黒船でございました。
梶原一騎先生的な異種格闘技戦のイメージが、一気に崩れた瞬間でもありました。
組技系格闘技よりも打撃系格闘技──空手や拳法が強いと思われていたのですが。

ひょろりとした体格のホイス・グレイシーが、寝技で屈強な選手らを次々と撃破。
一躍、寝技の重要性が見直された……訳ではなく、最初はイロモノ扱いでしたね。
しかし第2回大会もグレイシー柔術が征し、ルーツが伝説の柔道家にあると判明。
世界を転戦し、異種格闘技戦のほとんどに勝利した前田光世が始祖だったのです。

さらに、木村政彦とエリオ・グレイシーとの因縁も、改めて知られるようになり。
ベンチプレス60キロのホイスが、何倍も上げるプロレスラーを技で制する醍醐味。
グレイシー・ダイエットと呼ばれる、戦国江戸時代の忍者のような食事法も備え。
日本人が忘れていた武術が、地球の裏側で息づいていたという驚きもありました。

アントニオ猪木がモハメド・アリと戦った時、猪木は打撃を恐れ寝技に誘う展開。
ところがグレイシー柔術は、打撃系格闘技にはタックルが有効と、解を出します。
こうして寝技は、一気に脚光を浴びるようになります。
もちろん、当初は寝技なんて実戦的ではないという、打撃側の批判がありました。

でも柔道ではなぜ、抑え込みは一本なのか、考えれば批判のおかしさが判ります。
実際の戦場において、武士の鎧の防御力はとても高く、刀や矢で致命傷は難しく。
ゆえに、相手に組み付いてねじ伏せ、脇差しや鎧通しで隙間から突き刺し、倒す。
その時間ぶん押さえれば、一本としたわけです。むしろ寝技は戦場での必須技術。

抑え込み技としてはやや不安定な、袈裟固めが基本技として重視される理由です。
寝技の技術があってこそ、安心して立ち技を繰り出し倒れることも可能ですから。
そして倒れたら起き上がる技術は、セットです。七転び八起きと申しますように。
初めて、グレイシー柔術の立ち方の技術を学んだとき、その精緻さに驚きました。

蜘蛛立ちの技術を応用して、寝た状態から試合で立った相手の顔面を蹴る選手も。
巧みな脚でのガードをする人間には、立った側も容易に攻撃で近づけませんから。
この起き上がる技術は、寝たきりの病人の介護とかにも、応用が効くんですよね。
武術の、効率よく身体を使う技術は、先人が残してくれた貴重な文化的遺産です。

武術は本来、総合格闘技的。江戸時代は、剣術に弓術に柔術にと多数学びました。
坂本龍馬が土佐で学んだ小栗流のように、剣術と柔術を学ぶ流派も、ありますし。
なにしろ現代の武人たる警察官は、剣道と柔道の併修は当たり前のことですから。
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