5 / 8
医食武同源 第二話/朝粥と蜘蛛立ち・武術編
しおりを挟む
一
ここは、暮石六庵の板の間の道場。
稽古のために袴や上着をからげ、鳥呉江と太道の準備が整うと。
六庵は道場の神棚に柏手をひとつ打つと、頭を下げ、しばし黙想。
「それでは本日は、お主らに立ち方を教えようかの」
「立ち方……でございますか?」
キョトンとした太道を見越したように六庵は、ニンマリと笑った。
「そんなことはわざわざ教えてもらうまでもない……と言いたげじゃのう」
「い、いえ! けしてそんな」
手を左右に振り、否定する太道であったが。
その慌てぶりが、図星と言ってるも同然であった。
「この前の喧嘩で太道殿は、張り倒された後は一方的に足蹴にされていたのう」
「うぐぅ……そうでございました。起き上がって反撃したかったのですが、どうにもいいように嬲られまして」
かつての屈辱を思い出したのか、太道は忌々しげに自分の太股を、拳で叩いていた。
「転倒は古来より、絶体絶命の窮地じゃ」
その場でクルリと前転しながら、道場の床に仰向けに倒れ込む六庵だった。
「故に柔術では先ず、転び方と立ち方を学ぶ。本来は転び方、すなわち受け身の取り方を教えるのが筋じゃが、お主らには難しそうじゃ。ゆえに立ち方から教える」
仰向けに座り込んだ状態になり、技を説明する六庵である。
「正面から押されて、仰向けに倒されたならば、まずは四肢を踏ん張り、尻を地面から浮かす……」
「何やら、蜘蛛のようでございますな」
背中が床についた状態から、蜘蛛のような姿勢になり、斜め上を見上げる形になる。
「右手の平と左足の裏に力を込め、左手と右足を薄紙一枚ぐらい浮かせるようにして──左手で顔を守るように前方に突き出しつつ、右手と左足を軸にして、右足を後方に引いて抜く」
クルリンと身体を反転させ地面を見る姿勢になり、足を抜いてみせる六庵。
「そのまま敵との距離を保ちながら、半歩下がりつつ立ち上がる」
「それだけ……ですか?」
太道がポカンとした顔になるのも、当然であった。
六庵の見せた動きはあまりに単純で、子供でも出来そうである。
そんな太道に、地面に尻餅をつくように促す六庵。
「論より証拠じゃ。太道が立ち上がらぬよう鳥呉江殿、軽く胸を蹴ってみよ」
「はぁ…朋友を足蹴にするのは、ちとためらわれますが…こんな感じでしょうか?」
言われたように、立ち上がろうとする太道に、ちょこんと蹴りを合わせる鳥呉江。
「あ…れ?」
立ち上がるタイミングを崩され、再び尻餅をつく太道。
もう一回立ち上がろうとするが、再び鳥呉江の蹴りに転ぶ。
何度やっても同じで、上手く立てない。
小太りで、機敏とは言えない太道には、思った以上に難しいのだ。
「では、ワシが言うた方法で、立ち上がってみよ」
「こう──ですかな?」
「むむむ?」
太道が手を前に突き出すと鳥呉江、その手に邪魔されて間合いが詰められず、蹴りが届かないのだ。
迂闊に踏み込むと、脚を掴まれそうで、戸惑う。
「その上で……こうだったかな?」
右脚をたどたどしく抜いて、それでも太道は立ち上がることに成功した。
「……た、立てた立てた、立てたぞ」
あまりにあっけなく立てた事に、ポカンとした表情の太道。
「攻めた側の鳥呉江殿、お主はどうじゃ?」
「前に出された手が妙に邪魔で、懐に飛び込めなくて……なぜでしょうか?」
「なかなか、良い質問じゃのう」
二
道場に備えられた四尺棒を手に、構える六庵。
青眼──中段に構え、鳥呉江の喉元に向けて、殺気を軽く放つ。
「柔術も剣も同じゃ。己の正中をしっかり守れば、相手は容易に踏み込めぬ」
「うう…何やら喉を突かれそうで、怖いのですが……」
六庵の気迫に押されて、ジリジリと後退する鳥呉江であった。
四尺棒を太道に渡し、自分は扇子を青眼に構えると六庵、
「急所が集まる正中の線を、守る動きが万全ならば、長い獲物を持つ敵も──」
太道に打ち込むよう促す六庵。
木刀で恐る恐る打ち込むが──六庵の扇子に受け流され前のめりに倒れこむ太道。
「あだだだだっ!」
六庵は木刀を手に、鳥呉江に軽く打ち込んで解説を始めた。
「相手の打ち込みに対し素人は、剣を直角にして受け止める」
木刀を真横にして、打ち込みを受け止める鳥呉江。
「これなら技量が低くても、取り敢えず受け止めやすい」
「歌舞伎の荒事の剣戟でも、よく見かけますな」
「しかし技量に優れた敵の、二の打ち三の打ちには対応できぬ……」
ポンポンと鳥呉江の胴に籠手に、左右から連打を六庵が繰り出す。
「うわ…と…とっ! 守りが追いつきませぬ」
なんとか受け止めようとするが、次第に六庵の動きに追いつかなくなり、頭にコツンコツンと入れられる鳥呉江であった。
悪戯っぽく笑うと、再び青眼にかまえると六庵、鳥呉江に打ち込むように促す。
「故に技量が上がってきたら、剣を受け止めるのではなく──腕は腰溜めに固定し、剣を〝払う〟ようになるのじゃ」
中段に構え、鳥呉江の打ち込みを払ってかわしてみせる六庵に、鳥呉江も太道も感心しきりである。
「二人で交互に、打ち込みと払いを試してみよ」
「なるほど…これは、…相手が速くても、なんとか…なります」
思いの外簡単に、攻撃がかわせることに驚き、目を輝かせる太道に、今度は六庵が打ち込んで払わせる。
これも、簡単にできる。
なんだか、自分が上手くなったような気持ちになって、太道の口元に笑みが浮かぶ。
「しかし払う動きは、一瞬だが剣先が正中線から離れる」
六庵の打ち込みを払おうとした太道を、拍子を外してかわす。
行き場を失った太道の剣先が、正中線から離れたところに大きく踏み込み、喉元に木刀の切っ先を突きつける六庵の動きに、再び恐怖した。
「ヒィイッ……」
「名人上手と言われる武芸者は、剣を払わずに次第に〝受け流す〟ようになる」
剣先を固定したまま、太道の打ち込んだ剣を手首の返しで受け流す、六庵の流れるような剣技。
わずかな動きなのに、太道や鳥呉江の体勢が大きく崩れて、転びそうになる。
「手練れの武芸者同士の戦いは、正中線の奪い合いになる」
鳥呉江にプレッシャーをかける六庵。
ジリジリ後退する鳥呉江は、あっという間に道場の羽目板まで追い込まれた。
「ま、参りましたぁ~」
「先ほど太道が立つ時に、腕を前に出した仕草と、形は違えども同じじゃな」
太道の手が邪魔で、踏み込めなかったことを、思い出す鳥呉江であった。
「剣も柔術も、大本の術理は似ておるのじゃよ」
「相手に急所を襲わせないことが重要……なのですな」
六庵の技の意図を、理解する太道である。
飲み込みは悪くない。六庵の説明も上手いのだが。
「勝つための技よりも、負けないための技を身につけることが、わしの遣り方なんじゃ」
「負けないための技───」
六庵の言葉を、反芻する太道と鳥呉江であった
三
「もしうつ伏せに倒れたら、技を応用して───」
先ほどとは異なり、うつ伏せの状態で倒れた六庵は、別の技を解説し始めた。
太道の前でうずくまった状態の六庵は、同じ原理で右脚を抜いて仰向けになる瞬間、抜いた脚を前方にスッと伸ばし、太道の膝頭をポンと蹴った。
「おわっとぉ!」
膝関節蹴りで体勢を崩し、太道は前のめりに倒れてしまった。
人間の膝は、一方方向にしか曲がらない、単間接である。正面から蹴られると、力が抜けず下半身全体に影響を及ぼしてしまう。
「……手の代わりに、蹴りを撃ちこむこともできる」
感動で顔を紅潮させる鳥呉江であった。
「蜘蛛のような立ち方は、守るためだけではなく、攻めることもできるのですね」
「こりゃあ、弁慶の泣き所──脛や足首を狙われても、かなり効くぞ」と太道。
「この技の鍛錬には、こうやって左右に回転し、繰り返し鍛錬できる」
六庵は、蜘蛛立ちの練習方法を丁寧に解説した。
先ずは仰向け状態で四肢を踏ん張り、腰を地面から浮かす。
右手の平と左足裏にグッと力を入れ、右脚を後方に抜き、うつ伏せ状態になる。
その状態から、左手の平と右足裏の対角線を軸に、左脚を前方に抜き、仰向け伏せ状態になる。
この動作を二回繰り返し、元の位置に戻る。
さらにこの組み合わせを十回、繰り返す。
「最初からは難しいが、少しずつ技を学びながら、相手の攻撃に動じぬ〝芯のある体〟を作るのが肝要じゃ」
反復練習する二人に、訓示する六庵であった。
実際にやってみると、さほど筋力のない太道と鳥呉江にも、簡単にできる。
最初は順番を間違ってぎこちなかったが、反復する内にだんだんと様になってくるから、不思議である。
何よりこの動き、やっていて楽しい。
リズミカルにセットをこなせると、楽しいのだ。
「お主ら、楽しいかな? ならば結構じゃ。わしの道場では、顰めっ面で苦行僧のような鍛錬はせんでも良い。好きこそ物の上手なり、じゃ。先ずは楽しみ、好きになれ。さすれば、ほっといても上達する」
六庵の指導はどれも、楽しんでやれるのを、中心に据えているようである。
武術と言うより、道楽に近い。
「唐土の孔子様も申しておられる。好む者は楽しむ者に如かず、とな。楽しんで精進しなされよ」
六庵の言葉に、太道と鳥呉江は溌剌と応えた。
「「精進しまする!」」
医食武同源 第二話/朝粥と蜘蛛立ち・武術編
ここは、暮石六庵の板の間の道場。
稽古のために袴や上着をからげ、鳥呉江と太道の準備が整うと。
六庵は道場の神棚に柏手をひとつ打つと、頭を下げ、しばし黙想。
「それでは本日は、お主らに立ち方を教えようかの」
「立ち方……でございますか?」
キョトンとした太道を見越したように六庵は、ニンマリと笑った。
「そんなことはわざわざ教えてもらうまでもない……と言いたげじゃのう」
「い、いえ! けしてそんな」
手を左右に振り、否定する太道であったが。
その慌てぶりが、図星と言ってるも同然であった。
「この前の喧嘩で太道殿は、張り倒された後は一方的に足蹴にされていたのう」
「うぐぅ……そうでございました。起き上がって反撃したかったのですが、どうにもいいように嬲られまして」
かつての屈辱を思い出したのか、太道は忌々しげに自分の太股を、拳で叩いていた。
「転倒は古来より、絶体絶命の窮地じゃ」
その場でクルリと前転しながら、道場の床に仰向けに倒れ込む六庵だった。
「故に柔術では先ず、転び方と立ち方を学ぶ。本来は転び方、すなわち受け身の取り方を教えるのが筋じゃが、お主らには難しそうじゃ。ゆえに立ち方から教える」
仰向けに座り込んだ状態になり、技を説明する六庵である。
「正面から押されて、仰向けに倒されたならば、まずは四肢を踏ん張り、尻を地面から浮かす……」
「何やら、蜘蛛のようでございますな」
背中が床についた状態から、蜘蛛のような姿勢になり、斜め上を見上げる形になる。
「右手の平と左足の裏に力を込め、左手と右足を薄紙一枚ぐらい浮かせるようにして──左手で顔を守るように前方に突き出しつつ、右手と左足を軸にして、右足を後方に引いて抜く」
クルリンと身体を反転させ地面を見る姿勢になり、足を抜いてみせる六庵。
「そのまま敵との距離を保ちながら、半歩下がりつつ立ち上がる」
「それだけ……ですか?」
太道がポカンとした顔になるのも、当然であった。
六庵の見せた動きはあまりに単純で、子供でも出来そうである。
そんな太道に、地面に尻餅をつくように促す六庵。
「論より証拠じゃ。太道が立ち上がらぬよう鳥呉江殿、軽く胸を蹴ってみよ」
「はぁ…朋友を足蹴にするのは、ちとためらわれますが…こんな感じでしょうか?」
言われたように、立ち上がろうとする太道に、ちょこんと蹴りを合わせる鳥呉江。
「あ…れ?」
立ち上がるタイミングを崩され、再び尻餅をつく太道。
もう一回立ち上がろうとするが、再び鳥呉江の蹴りに転ぶ。
何度やっても同じで、上手く立てない。
小太りで、機敏とは言えない太道には、思った以上に難しいのだ。
「では、ワシが言うた方法で、立ち上がってみよ」
「こう──ですかな?」
「むむむ?」
太道が手を前に突き出すと鳥呉江、その手に邪魔されて間合いが詰められず、蹴りが届かないのだ。
迂闊に踏み込むと、脚を掴まれそうで、戸惑う。
「その上で……こうだったかな?」
右脚をたどたどしく抜いて、それでも太道は立ち上がることに成功した。
「……た、立てた立てた、立てたぞ」
あまりにあっけなく立てた事に、ポカンとした表情の太道。
「攻めた側の鳥呉江殿、お主はどうじゃ?」
「前に出された手が妙に邪魔で、懐に飛び込めなくて……なぜでしょうか?」
「なかなか、良い質問じゃのう」
二
道場に備えられた四尺棒を手に、構える六庵。
青眼──中段に構え、鳥呉江の喉元に向けて、殺気を軽く放つ。
「柔術も剣も同じゃ。己の正中をしっかり守れば、相手は容易に踏み込めぬ」
「うう…何やら喉を突かれそうで、怖いのですが……」
六庵の気迫に押されて、ジリジリと後退する鳥呉江であった。
四尺棒を太道に渡し、自分は扇子を青眼に構えると六庵、
「急所が集まる正中の線を、守る動きが万全ならば、長い獲物を持つ敵も──」
太道に打ち込むよう促す六庵。
木刀で恐る恐る打ち込むが──六庵の扇子に受け流され前のめりに倒れこむ太道。
「あだだだだっ!」
六庵は木刀を手に、鳥呉江に軽く打ち込んで解説を始めた。
「相手の打ち込みに対し素人は、剣を直角にして受け止める」
木刀を真横にして、打ち込みを受け止める鳥呉江。
「これなら技量が低くても、取り敢えず受け止めやすい」
「歌舞伎の荒事の剣戟でも、よく見かけますな」
「しかし技量に優れた敵の、二の打ち三の打ちには対応できぬ……」
ポンポンと鳥呉江の胴に籠手に、左右から連打を六庵が繰り出す。
「うわ…と…とっ! 守りが追いつきませぬ」
なんとか受け止めようとするが、次第に六庵の動きに追いつかなくなり、頭にコツンコツンと入れられる鳥呉江であった。
悪戯っぽく笑うと、再び青眼にかまえると六庵、鳥呉江に打ち込むように促す。
「故に技量が上がってきたら、剣を受け止めるのではなく──腕は腰溜めに固定し、剣を〝払う〟ようになるのじゃ」
中段に構え、鳥呉江の打ち込みを払ってかわしてみせる六庵に、鳥呉江も太道も感心しきりである。
「二人で交互に、打ち込みと払いを試してみよ」
「なるほど…これは、…相手が速くても、なんとか…なります」
思いの外簡単に、攻撃がかわせることに驚き、目を輝かせる太道に、今度は六庵が打ち込んで払わせる。
これも、簡単にできる。
なんだか、自分が上手くなったような気持ちになって、太道の口元に笑みが浮かぶ。
「しかし払う動きは、一瞬だが剣先が正中線から離れる」
六庵の打ち込みを払おうとした太道を、拍子を外してかわす。
行き場を失った太道の剣先が、正中線から離れたところに大きく踏み込み、喉元に木刀の切っ先を突きつける六庵の動きに、再び恐怖した。
「ヒィイッ……」
「名人上手と言われる武芸者は、剣を払わずに次第に〝受け流す〟ようになる」
剣先を固定したまま、太道の打ち込んだ剣を手首の返しで受け流す、六庵の流れるような剣技。
わずかな動きなのに、太道や鳥呉江の体勢が大きく崩れて、転びそうになる。
「手練れの武芸者同士の戦いは、正中線の奪い合いになる」
鳥呉江にプレッシャーをかける六庵。
ジリジリ後退する鳥呉江は、あっという間に道場の羽目板まで追い込まれた。
「ま、参りましたぁ~」
「先ほど太道が立つ時に、腕を前に出した仕草と、形は違えども同じじゃな」
太道の手が邪魔で、踏み込めなかったことを、思い出す鳥呉江であった。
「剣も柔術も、大本の術理は似ておるのじゃよ」
「相手に急所を襲わせないことが重要……なのですな」
六庵の技の意図を、理解する太道である。
飲み込みは悪くない。六庵の説明も上手いのだが。
「勝つための技よりも、負けないための技を身につけることが、わしの遣り方なんじゃ」
「負けないための技───」
六庵の言葉を、反芻する太道と鳥呉江であった
三
「もしうつ伏せに倒れたら、技を応用して───」
先ほどとは異なり、うつ伏せの状態で倒れた六庵は、別の技を解説し始めた。
太道の前でうずくまった状態の六庵は、同じ原理で右脚を抜いて仰向けになる瞬間、抜いた脚を前方にスッと伸ばし、太道の膝頭をポンと蹴った。
「おわっとぉ!」
膝関節蹴りで体勢を崩し、太道は前のめりに倒れてしまった。
人間の膝は、一方方向にしか曲がらない、単間接である。正面から蹴られると、力が抜けず下半身全体に影響を及ぼしてしまう。
「……手の代わりに、蹴りを撃ちこむこともできる」
感動で顔を紅潮させる鳥呉江であった。
「蜘蛛のような立ち方は、守るためだけではなく、攻めることもできるのですね」
「こりゃあ、弁慶の泣き所──脛や足首を狙われても、かなり効くぞ」と太道。
「この技の鍛錬には、こうやって左右に回転し、繰り返し鍛錬できる」
六庵は、蜘蛛立ちの練習方法を丁寧に解説した。
先ずは仰向け状態で四肢を踏ん張り、腰を地面から浮かす。
右手の平と左足裏にグッと力を入れ、右脚を後方に抜き、うつ伏せ状態になる。
その状態から、左手の平と右足裏の対角線を軸に、左脚を前方に抜き、仰向け伏せ状態になる。
この動作を二回繰り返し、元の位置に戻る。
さらにこの組み合わせを十回、繰り返す。
「最初からは難しいが、少しずつ技を学びながら、相手の攻撃に動じぬ〝芯のある体〟を作るのが肝要じゃ」
反復練習する二人に、訓示する六庵であった。
実際にやってみると、さほど筋力のない太道と鳥呉江にも、簡単にできる。
最初は順番を間違ってぎこちなかったが、反復する内にだんだんと様になってくるから、不思議である。
何よりこの動き、やっていて楽しい。
リズミカルにセットをこなせると、楽しいのだ。
「お主ら、楽しいかな? ならば結構じゃ。わしの道場では、顰めっ面で苦行僧のような鍛錬はせんでも良い。好きこそ物の上手なり、じゃ。先ずは楽しみ、好きになれ。さすれば、ほっといても上達する」
六庵の指導はどれも、楽しんでやれるのを、中心に据えているようである。
武術と言うより、道楽に近い。
「唐土の孔子様も申しておられる。好む者は楽しむ者に如かず、とな。楽しんで精進しなされよ」
六庵の言葉に、太道と鳥呉江は溌剌と応えた。
「「精進しまする!」」
医食武同源 第二話/朝粥と蜘蛛立ち・武術編
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
安政ノ音 ANSEI NOTE
夢酔藤山
歴史・時代
温故知新。 安政の世を知り令和の現世をさとる物差しとして、一筆啓上。 令和とよく似た時代、幕末、安政。 疫病に不景気に世情不穏に政治のトップが暗殺。 そして震災の陰におびえる人々。 この時代から何を学べるか。狂乱する群衆の一人になって、楽しんで欲しい……! オムニバスで描く安政年間の狂喜乱舞な人間模様は、いまの、明日の令和の姿かもしれない。
江戸の夕映え
大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。
「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三)
そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。
同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。
しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
御懐妊
戸沢一平
歴史・時代
戦国時代の末期、出羽の国における白鳥氏と最上氏によるこの地方の覇権をめぐる物語である。
白鳥十郎長久は、最上義光の娘布姫を正室に迎えており最上氏とは表面上は良好な関係であったが、最上氏に先んじて出羽国の領主となるべく虎視淡々と準備を進めていた。そして、天下の情勢は織田信長に勢いがあると見るや、名馬白雲雀を献上して、信長に出羽国領主と認めてもらおうとする。
信長からは更に鷹を献上するよう要望されたことから、出羽一の鷹と評判の逸物を手に入れようとするが持ち主は白鳥氏に恨みを持つ者だった。鷹は譲れないという。
そんな中、布姫が懐妊する。めでたい事ではあるが、生まれてくる子は最上義光の孫でもあり、白鳥にとっては相応の対応が必要となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる