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偏桃体
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しおりを挟む『メシ食わせてやるから出て来い』
社長命令だからな。気分じゃなくても行かなきゃしょうがねえ。
結局サワラの照り焼き定食、喉通らなかったからほとんど食えなかったし。
「お疲れっすう!」
事務所のドア、勢いよく開ける。気分じゃなくても声出さねえとな。
事務所には社長と何人か。どうでもいいけどさ。
なんで事務所の連中って自分が店出るワケでもねえのに水商売くせえかっこしてんだろ。
「お前最近頑張ってるからな。旨いもんでも食わせてやるよ」
て、社長が鉄板焼きの店連れてきてくれた。
カウンターでさ、眼の前で焼いてくれるんだよ。すげえな。
客の奢りでもこんな高そうな店は無理だしな。
うひゃ!あわびとかっ!海老っ!なんだ海老っ!お前は噂の伊勢海老かっ!?
おいおい、その肉の厚さはなんだっ!
「ま、食え」
「いただきますっ」
ふにゃあ。なにこのとろける肉。う、旨えっ!
夢中で食ってたらさっきまでの気分がどっか行った。ああ。もし俺の前にちいさんとこの肉が並んでたらどうするだろ。
んな事思ったらまた悲しくなってきた。
「泣くほど旨いらしいよ」
社長とカウンターの向こうのシェフが笑う。
「あ…社長。ちいさん、おめでとうございます」
こう言う事はちゃんと言っとかねえとな。社会人としてはな。
「ん?ああ、階級昇進したらしいな。警部だもんな」
ん?警部?なんの話?
「え…結婚するって…」
「はあ?」
社長が嫌な顔して俺見た。
黙って胸のポケットから携帯出して、どこかに電話する。
「あ、俺俺…そう直樹」
オレオレ詐欺かよ。
「ちいの事なんだけどさ、アイツ結婚とかの予定あるの?姉ちゃんなんで俺に教えてくれないの?…え?」
社長の姉ちゃんって事はちいさんのお母さんか。
「ユウ」
電話切った社長が俺睨む。怖えよ。
「お前、どっからそんなガセネタ仕入れたんだ」
えっ!?ガセ!?
「結婚する予定なんかねえよ。母親が言ってんだから。全く、びっくりしたじゃねえか」
て、事は。
悟ーーーーーーーーーーーーーっ!!むきいっ!!
次の日また県警本部の前で。
くそ、アイツどこにいやがるんだ。探しに行こうとしたら警官に受付で止められて。
「悟ってヤツに会わせろよっ」
「だから、苗字はなんですか、所属は!?」
むうう!強行突破だあっ!
「って、ことしたら公務執行妨害になるからね」
エレベーター降りてきた悟が俺の腕掴んで言った。
「ちなみに、俺の苗字は水上、って言うの」
知るかっ!!俺の事騙しやがって!
睨みつけたら爆笑された。なんだよ、お前は!
「くくっ…ごめん、ごめん。本気にするとは思わなかったんだよ」
て、お前があんなたそがれた雰囲気醸し出してたからじゃねえかよ。本気にするだろっ。
「でも、プロポーズされてたのはホントだよ」
「え…」
ちいさんの元カレ。ちいさんが一緒に楽しそうにしてた男。
「まあ、ちいさんの方はそんな気なくて彼が転勤したらもう会う事も無いかもしれないから、って食事したらしいけど」
そんな気ねえのか。良かった。
良くない。俺はちいさんをちゃんときっぱりさっぱりしねえといけねえんだから。
からかったお詫び、て悟がちいさんが帰ってくる日と空港に着く時間教えてくれた。やっぱ俺の事からかってんじゃねえかよ。
「君は自分でわかってるのか知らないけど。あの人は他人に常に距離を置く人なのに君にだけは違ってた」
どう言う意味?
「君が多分、裏表無くて無邪気だから安心していられたんだと思う。まあ、俺は無邪気にはなれないからね。悔しいけど」
俺は。
ちいさんに釣合う様な男じゃねえと思って。
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