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偏桃体
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しおりを挟む仕事帰り、珍しく龍二さんに誘われて二人でバー。
多分、俺が元気ねえから。俺の事励ましてくれるとか、良い先輩だよな。
結局ヤる気なんなくて女とは店出て分かれた。ちいさんはあの知らない男と楽しそうにしてて。
なんか知らねえけどちいさんがあんな楽しそうに喋ってんだから、多分俺なんかじゃ意味わかんねえ話とかしてたんだろうな。
誰なんだろうなあ。
俺は先に店出たからその後の事はわかんねえけどさ。
ちいさんの耳たぶの俺があげたピアス。ずっとしてくれてんだな。
あんな安物なのに。してくれてんだな。
「お前、客の前でため息つくなよ」
龍二さんがちょっと怖い顔する。
なんだ、やっぱ説教か。
借りたハンカチ、どうしよっかなあ。部屋飾っとく?ははは、バカ。
「世の中にはな、自分の力だけじゃどうしようも無えことだってあるんだよ」
龍二さんに言われなくてもわかってるよ。
「頑張ってもどうしようもねえから諦めたんだもん」
「諦めたなら潔く忘れろ」
忘れたいよ、俺だって。でも。
「俺には正直、お前が何かにびびって追いかけるの止めた様にしか見えねえけどな」
「俺は…」
びびるってなによ?
「俺はちいさんとは世界が違いすぎて。俺なんかじゃ無理なひとだと思ったから…」
「…世界観やら価値観なんて人によって違えよ。価値観なんてのはお互いの擦り合わせでうまくいくとこ探すんだよ。それが相手を知る、ってことだ。お前は相手の気持ちとか知ろうとしたのか?確かめたことあるのか?」
確かめた事、なんてねえな。
俺の事、好きになって欲しいって思ったけど。
ちいさんに俺の事好きか嫌いかなんて。
なんとも思ってないとか言われたら嫌だから。
じゃあ、俺は逃げたのかな。
龍二さんが言うみてえにびびって。
ちいさんから逃げたのかな。
自分の気持ちから、逃げたのかな。
家帰って少し寝て。
ちいさんの耳たぶ思い出す。
黒い髪の隙間に俺がプレゼントしたちゃちいジルコニア。
アレルギーだからもしかしたら、それしか無かったからかも知れないけど。
ちゃんと使ってくれてるんだな。
ダメだ、俺。
俺確かめねえと。ちゃんとケリつけねえと先に進めねえよ。
「だからあ、警部補の高遠さん!ってばあ」
昼下がりの県警本部の受付で、制服着た女の警官が俺を不審者扱いする。
「ですから、何課のですか」
「そんなん知らねえし!あっ、悟は!?」
「苗字と所属は何ですか!?」
「知らないっすよ!なんとか悟っ!あっ、ちょ。そのパソコン見せてよ!自分で探すからあっ」
カウンター乗り越えようとして。
「何するんですか!止めなさいっ!」
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