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しおりを挟む「ん…」
眼が覚めるのは昼過ぎ。
不健康ではあるんだが不規則にはならねえ様にしてる。
今日は夕方に同伴のアポがある。
客と晩メシ。
何食うかな。和食が良いな。
寝返りうったら。
手に。
柔らかいのものが触れる。
なんでこんなとこに女の胸があんだろ。
揉んでみた。
揉み心地良いな。適当に弾力あって。
って。
なんでだ?
眼開けたら。
女の顔があって。
ああ。石倉か。
頭の中で寝る前の記憶が蘇る。
「う…ん…」
石倉が眼開けた。
眼が、合った。
そのまましばらくして。
石倉が俺の顔と自分の胸交互に見て。
「やっ!ちょっとっ!なにっ!なんなのっ!!」
暴れ出した。
「止めてよっ!!」
俺の手払い退けて。
「なによっあんたっ!どこっ!?ここどこよ!?レイプする気っ!?」
ぶんぶん腕振り回して。なんかのキャラクターの玩具にこんなんあったな。
「おいっ!落ち着け!」
石倉の振り回す腕抑えた。
「止めてっ!キスだけはしないでっ!!」
何言ってんだ。
「石倉!」
「えっ!?」
名前呼んだらびっくりした顔。
「…だれ」
「兵藤だ。高校ん時の」
「兵藤…くん?」
眼を真ん丸にして。
「えっ!?なんで!?なんで兵藤くんっ!?」
泥酔してたからな。
「お前酔っ払って」
「うん」
「道で寝てたから連れて来た」
「……」
眼逸らして。ああ、とか、うう、とか唸って。
「それは…お世話かけました…です」
申し訳なさそうな顔で言った。
「あの、手」
「ああ、悪い」
抑えたままだった。
なんか。
このままヤっちまう体勢ではあるんだが。
「俺、仕事あんだけど。お前もう少し寝たいなら寝ててもいいけど」
まあ、ヤラねえけどな。
「あ、いや。帰ります…」
起き上がって身支度もそこそこに、まだふらついた足で。
申し訳ないっす。
言いながら石倉は。
帰っていった。
石倉って。
昔、成績は良いヤツだったよな。
ぎゃあぎゃあ騒ぐグループじゃなかったと思う。
大人しい系でも無かったな。
笑ってる顔は記憶にある。
ずっと同じクラスでもしゃべった事ねえな。まず接点無かったしな。
俺ヤンキーだったし。
石倉はごく普通の感じの女子。
それがなんでキャバ嬢やってんだか。
女ってわかんねえな。
兵藤くん。
って。言われた記憶はあるような気はする。
思い出せねえけど。
ま、連絡先も聞かなかったし。
同じ街で働いてたらすれ違うくれえはあるかも知れねえけど。
会う事ねえだろう。
思ってたのに。
「なにしてんだ。こんなとこで」
俺のマンションの入り口。
でっかいバッグ抱えた石倉。
俺を見つけると恐々。
「…行くとこないの。家帰れなくて」
いや、知らねえし。
「ホテルでも行きゃあいいだろ」
「そんなお金無いし」
借金取りにでも追われてんのか、てめえは。
「だからって俺ん家来んなよ」
「お願いっ!友達んとこも手が回ってて行くとこないのっ!」
「知るかっ!」
「兵藤くんっ!!」
いきなり俺の首に抱きついてきて。
「んっ!」
キス。
しやがった。
「ん」
けっこう上手かったから。
俺もつられた。
「…お願い」
唇離して。
泣きそうな顔すんなよ。
俺は面倒は嫌えなんだよ。
女なんか面倒なんだよ。
「お願い…兵藤くん…」
くそっ。
「…行き先さっさと見つけろよ。俺に面倒かけんじゃねえぞ」
「ありがとうっ!!」
なんでこうなるかな。
しょうがねえな。
ちょっとの間だけだ。
しょうがねえ。
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