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そのじゅうよん
そのじゅうよん-7
しおりを挟む無垢な顔してぎこちない動きで。
人形みたいなちいちゃい手のくせに。
「うー」
ぎこちなく見えるが実はさわさわしとるぞっ。
なんだ、その満足気な声はっ。莉緒ちゃんの胸触って満足したのかっ!
あたしの乳触ってもなにも言わんくせに。
げに怖ろしき遺伝子の力。
いや?尊は女好きやないよな、変態やけど。
どっちかって言うと尊は女嫌いやもんな。て、ちょっと待てよ。
尊の顔で女好き。
さ、最悪じゃっ。
「あー」
とか言いながら莉緒ちゃんの胸さわさわ。周りはホホエミながら見守る。
そりゃそうだよな。この無垢なはずの赤子の思惑、そんなものだいたいあるはずないのに、見抜いてるのはこの母一人。
「んー?ずっと胸触ってるね」
り、莉緒ちゃん、勘付いたか!?
「お腹すいたのかなあ?」
龍二くんと顔見合す莉緒ちゃん。よし、怪しまれてない。
「どうしよ、あたし母乳出るかな。頑張れば出るかも?」
着てるTシャツに手かけるのを。
「お前はバカかっ!出るワケねえだろ、なに考えてんだ」
龍二くんが止めた。
天然ぶりはご健在の様子。
「さあ、みいくん。こっちおいでえ」
もう充分触ったやろ、いい加減にせえ!
莉緒ちゃんの腕からさりげなく抱き上げると。
「ぶふっ」
む。なんだ、母の乳じゃ不満だとでも言うのか。
確かに妊娠、出産、授乳ときてのCカップだけどな。今の見た目は莉緒ちゃんと同じくらいだぞ。
みいくんがあたしの乳さわさわ。
「ぶう」
むむ?違いを確認しとるのか。その上での不満の声か。
「うー?」
なぜに疑問形なんだ。なにが疑問なんだ。
「ほげ」
おや、泣き出した。
「はいはい、お腹すいたねえ」
さくっと前ボタン開けておっぱい出そうとしたら。
「お前は見るなあっ」
龍二くんの横っ面はたいてる尊。
成人男子がいるの忘れてた。
「うわあ、すごいなあ。一所懸命飲んでますねえ」
眼きらきらの莉緒ちゃんと対照的にソファーの上であたしに背中向けて正座してる龍二くん。
なにもはたかんでもよかろうに、理不尽な。
「はい、みいくん。ミルク飲もっかあ」
あたしからミルク役人尊にタッチ。
「あ、お前もうこっち向いて良いぞ」
「あ、はい」
龍二くんがソファーに座りなおす。
「わあ!ミルク飲んでるよ。可愛いねえ!」
「お前、自分も欲しいとか言うなよ。オモチャじゃねえんだから」
「オ、オモチャとか思ってないもん!」
「お前にはミルク飲み人形でも買ってやるから」
何気にやりとりしながらこの恋人達は以前の様な初々しさじゃなくて。
ちゃんと真面目にお付き合い続けてるんだなあ、と思う。
「お前ら結婚しねえのか」
おいおい、不躾だな。尊さん。
「いやあ、そこまではまだ…」
真面目な顔して答える龍二くんに。
「結婚て良いぞ。愛するみのりさんがずっと一緒なんだぞ。あ、お前ら同棲してるからそこは一緒か。けど、みいくん可愛いんだぞお?子供って良いぞ?」
なんかどっかのオヤジか、アンタは。
そんな事言うから莉緒ちゃんがどきどきした顔で龍二くん見るやないか。
「二人ともまだ自分の足場も出来てないっすからね、足場固めてからじゃないとそう言う事は考えられねえっすよ。俺その場の勢いで物事進めるタイプじゃねえし」
ちょっとがっくりした莉緒ちゃんはなぜかあたし見てにっこりした。
だからあたしもにっこりしてみた。
龍二くんはホントに真面目に付き合ってんだなあ。莉緒ちゃんの事ちゃんと考えてるんだろうな。
「はーい、みいくん。げっぷしようねえ」
みいくんの背中とんとんする尊。
「けふっ」
「あ、出たねえ。みいくんお利口さんでしゅねえ」
抱っこしなおしてみいくんに頬ずり。
「…って言うか…変わり過ぎですよ、尊さん…」
龍二くんが呟いた。
「俺はなんねえからな、絶対あんな風になんねえぞ」
誰もいない方向向いて、龍二くんが。
なにやら一人、誓いを立てた。
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