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そのじゅうさん
そのじゅうさん-3
しおりを挟むほんのちょっとだけ。
タオルにくるまれたの見せてもらって。
赤ちゃんの泣き声が遠ざかる。
気が付けば地獄の様な痛みもやわらぎ。
放心状態のあたし。と、尊。
先生、どっちって言ったけ?
なんだかな。
愛するダンナにも外でお待ちのギャラリーの皆さまにも申し訳ないけどな。
あたしが今一番嬉しいのは。
地獄のような痛みから開放された事だっ!
まったく、死んだ方がマシと思うくらいだったな。むしろ死にたいくらいだったよ。
はあ、やれやれ。
陣痛って男が体験したらホントに死ぬくらいらしいけどさ。
いやいや、良くがんばったね、あたし。
と、まだ胎盤とかがね。
あれやこれや処置されてる間遠く見たままの尊。
ちょっと、ぼけっとしとらんであたしの事褒めるとかないんかい、ダンナは。
見上げると口開けて呆然としたままの尊。
そろそろ戻ってこんかいっ。
「たけ…」
「はい!ご対面ですよお、ママ頑張りましたねえ!」
ナースさんだか助産師さんだかどっちでも良いけど。
その腕に抱えてた小さな身体を。
あたしの顔の横に下ろす。
「ほげっ」
ほげっ?
ふんにゃあ、とか、んにゃとかさっきの元気良さと変わってふにゃふにゃ泣いてる。
大丈夫なんかな?
不安になりかける。
「大丈夫!とっても元気ですよ!」
あたしに向けられたナースさんだか助産師さんだかの笑顔に安心する。
改めて小さな身体を見ると。
うわ。ちっちゃ!
母親教室の時の人形より小さいよ。これがあたしのお腹ん中いたのか。
こんなに小さいのに。
生きてる。
一瞬、尊と初めて会った日が頭の中早送りで再生される。
そしてずっと繋がってこの小さな生命になったんだ。
「…男の子だよ…みのりさん」
尊は泣きそうな顔で嬉しいんだかなんだかわからない顔。
二人言葉も無く赤ちゃん見詰めて。
五分くらいでナースさんに連れてかれた。
「みのりさん…」
尊があたしの髪撫でる。
「みのりさん…」
呟きながら。
なんだよ、なにか他に言う事ないのか?って思うけど。
呟きながら尊がぽろぽろ涙零すから。
「みのりさん…愛してる…」
泣きながらキスする。人が見てて恥ずかしいけどまあ、良いか。
「…俺を…幸せにしてくれて…いっぱい俺に幸せをくれて…ありがとう」
前も聞いた事あるぞ、そのセリフ。
でもまあ、良いや。
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