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そのじゅうに
そのじゅうに-11
しおりを挟む「みのりさん、もう出るよ?大丈夫?」
トイレから出たあたしにジャケット着ながら尊が言う。
「ねえねえ、今日はどこ行くの?」
「煩えな、お前は。黙ってついて来い」
じゃれつく各務先生に冷たい尊。あたし、もっかいトイレ行って来よ。
なんだろ、なんか変だな。
「大丈夫?調子悪いんなら出かけるの止めようか?」
尊が言うけど今日はな、そう言うワケにもいかんし。
尊の車で各務先生と三人、ちょっと遠出。
「なんでお寺?」
不思議そうな各務先生。
なんで各務先生連れて来たのかわからんけど、瞳子さんが一緒に来いって言うから。
お寺入ると。
「瞳子さんっ!」
あたしらより先に瞳子さん見つけて走り出す各務先生。
「なんだあ、お墓参りかあ」
にこにこしながら瞳子さんの持ってるバケツやらひしゃくやら、僕が持ちますよ、って。
なんで瞳子さんは各務先生を来させたのかな。
まさかっ!?各務先生と一緒になります的な報告するつもりじゃっ。
汗が出るのは陽気のせいだけじゃない、自分の想像が怖ろしすぎて。
しばらく歩いて辿り着いたお墓の前で。
「今日は暑いでしょ、冷やしてあげるわ」
各務先生からバケツ取り上げて豪快に水ぶっ掛ける瞳子さん。
「どなたのお墓?」
各務先生が小声で尊に聞く。
「親父。今日は祥月命日だから」
笑ってた各務先生が真面目な顔する。
みんな黙って手を合わせて。
「死んでも無口なんだから嫌になっちゃうわ。あ、死んだら話できないわね」
ぶつぶつ言う瞳子さん。
「私は死ぬまで貴方を愛してるから。あの世にいったらどれだけ愛してるかしつこく教えてあげるから覚悟しておきなさい」
後ろにいるあたしらに聞こえるくらいの声で。
多分、聞こえる様に言ったんだ。
各務先生はちょっと悲しそうな顔した。
瞳子さんはわかってて、各務先生を傷つけない様に。
各務先生が気持ちを伝える前にさりげなく受け入れられないと示したんだ。
帰りの車はなぜか三人無言で。各務先生の気持ち考えるとな、やっぱかわいそうだし。
各務先生はいつもと正反対なくらい黙り込んでるし。
ガレージに車入れて。おや?門の前に見た事ある人影が。
「各務先生!何をなさってるんですか」
「あれえ?なんで松本氏が来てるの?」
「とぼけた事言ってないで、さっさと帰りましょう!僕以外の編集が東京で待ち構えてますよ!」
迎えに来たのか!松本氏、神!
「さあ、荷物まとめて下さい」
「えー?やだあ」
やだもくそもあるかいっ!アンタもう用はないやろっ!と、ちょっとトイレ行こう。
「なに言ってんだよ、てめえはっ!」
尊の怒鳴り声。なんだ?ん?あたしも、なんだこれ?
えっ!?ちょっとなにこれ!?
「だってさあ、亡くなった人には悪いけど残された瞳子さんにはまだ幸せになる権利があるワケだしさあ?残りの人生を俺と過ごしてほしいなあとか思って」
「ふざけんなあっ!」
「落ち着いて下さい!各務先生も我儘言ってないで」
戻ると三人ダンゴなって押し合いへし合い。
「あの…」
恐る恐る言ったら。
「なに、みのりさんっ。今真面目な話して」
あたしの方が超大真面目なんやけど。
「破水…しちゃったみたい」
あたしの言葉にダンゴが一斉にこっち見た。
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