87 / 240
if
-2-
しおりを挟む俺はまだほんの子供だった。
いつも静かな家の中。
親父はそう、いつもいなくてでも家に帰るとたいてい書斎にこもって。
「おとうさん!おかえり!」
俺がドア開けて言うと。
本読むの止めて振り向く。
「こっちへおいで、尊」
俺が行くと大きくて筋ばった手で頭撫でる。
「今日は幼稚園は楽しかったかい?」
「うん!うんどうかいのれんしゅうしたよ!」
親父は少し笑って。
「お父さんは運動会は行けないかもしれないなあ。その頃は発掘に行かないと」
「はっくつてなあに?」
「お父さんの仕事だよ」
「たける、れんしゅうでもいつもいちばんなんだよ!おとうさんみにきてよ」
「ごめんな。行きたいけど発掘もお父さんがいないといけないんだよ」
俺にはそんなの意味が理解できなくて、親父が来てくれないことで悲しくなった。
「そんな事子供に言わないで」
母さんが来て口出して。
「尊、向こう行ってなさい」
部屋追い出されて。
俺に見せたくなかったんだろうけど、子供の俺は二人がケンカしてるのは知ってた。
親父の事は好きだったのか嫌いだったのかわかんねえ。
ただ大きな手で頭撫でてくれるのは好きだった。
母さんは俺がいない時間は働いてて。
生活のためじゃなくて自分のため。
家庭に閉じこもりたくなかったんだろうな。
たまに親父の関係のパーティーとかあったな。
子供の俺もちゃんとスーツ着せられて。
「ホントに可愛らしいお子さんですね。奥様もお綺麗で先生はお幸せな方ですね」
とか言われて笑って幸せそうなふりして。
一緒に三人で飯食ったりとか、ほんとは親父がたまに帰ってきたときかそうやって出かけたときくらいしか記憶ねえんだけど。
それでも子供の俺にとって両親が世界の中心だった。
あの日までは。
「元気で。尊」
他にもなんかしゃべったかもしんねえけど、その言葉しか覚えてねえ。
後、頭撫でた手。
その時はまたすぐ帰って来るんだろうと思ってた。
だから別に寂しいとか思わなくて。
「おとうさん、いつかえってくるの?」
とか言ってたな。
そうしてるうちに母さんは本格的に仕事しだして。
「尊、お母さんお仕事が忙しくて幼稚園のお迎え行けないから、今度からおばあちゃまにお迎えしてもらうわね」
その頃から俺はばあ様が嫌いだった。
いつも行儀に煩くて、俺に対してにこりともした事ねえ人だったからな。
ばあ様が迎え来てそのままばあ様ん家連れてかれた。
その日ずっと待ってたのに。
夜になってもずっと待ってたのに。
母さんは迎えに来なかった。
1
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
拉致られて家事をしてたら、カタギじゃなくなってた?!
satomi
恋愛
肩がぶつかって詰め寄られた杏。謝ったのに、逆ギレをされ殴りかかられたので、正当防衛だよね?と自己確認をし、逆に抑え込んだら、何故か黒塗り高級車で連れて行かれた。……先は西谷組。それからは組員たちからは姐さんと呼ばれるようになった。西谷組のトップは二代目・光輝。杏は西谷組で今後光輝のSP等をすることになった。
が杏は家事が得意だった。組員にも大好評。光輝もいつしか心をよせるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる