You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】

てらだりょう

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俺はまだほんの子供だった。

いつも静かな家の中。

親父はそう、いつもいなくてでも家に帰るとたいてい書斎にこもって。

「おとうさん!おかえり!」

俺がドア開けて言うと。

本読むの止めて振り向く。

「こっちへおいで、尊」

俺が行くと大きくて筋ばった手で頭撫でる。

「今日は幼稚園は楽しかったかい?」

「うん!うんどうかいのれんしゅうしたよ!」

親父は少し笑って。

「お父さんは運動会は行けないかもしれないなあ。その頃は発掘に行かないと」

「はっくつてなあに?」

「お父さんの仕事だよ」

「たける、れんしゅうでもいつもいちばんなんだよ!おとうさんみにきてよ」

「ごめんな。行きたいけど発掘もお父さんがいないといけないんだよ」

俺にはそんなの意味が理解できなくて、親父が来てくれないことで悲しくなった。

「そんな事子供に言わないで」

母さんが来て口出して。

「尊、向こう行ってなさい」

部屋追い出されて。

俺に見せたくなかったんだろうけど、子供の俺は二人がケンカしてるのは知ってた。

親父の事は好きだったのか嫌いだったのかわかんねえ。

ただ大きな手で頭撫でてくれるのは好きだった。

母さんは俺がいない時間は働いてて。

生活のためじゃなくて自分のため。

家庭に閉じこもりたくなかったんだろうな。

たまに親父の関係のパーティーとかあったな。

子供の俺もちゃんとスーツ着せられて。

「ホントに可愛らしいお子さんですね。奥様もお綺麗で先生はお幸せな方ですね」

とか言われて笑って幸せそうなふりして。

一緒に三人で飯食ったりとか、ほんとは親父がたまに帰ってきたときかそうやって出かけたときくらいしか記憶ねえんだけど。

それでも子供の俺にとって両親が世界の中心だった。

あの日までは。

「元気で。尊」

他にもなんかしゃべったかもしんねえけど、その言葉しか覚えてねえ。

後、頭撫でた手。

その時はまたすぐ帰って来るんだろうと思ってた。

だから別に寂しいとか思わなくて。

「おとうさん、いつかえってくるの?」

とか言ってたな。

そうしてるうちに母さんは本格的に仕事しだして。

「尊、お母さんお仕事が忙しくて幼稚園のお迎え行けないから、今度からおばあちゃまにお迎えしてもらうわね」

その頃から俺はばあ様が嫌いだった。

いつも行儀に煩くて、俺に対してにこりともした事ねえ人だったからな。

ばあ様が迎え来てそのままばあ様ん家連れてかれた。

その日ずっと待ってたのに。

夜になってもずっと待ってたのに。

母さんは迎えに来なかった。




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